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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
18/162

たばこは正義の心に深く刺さります。

マナもまた、手足を縛られていた。重し付きの錠によってではなく、普通のより少し太めのロープでだ


力んで無理やり引きちぎろうとしても

上手くいかない、何故か力が入らないのだ。マナは拘束を解くのを諦め、代わりに現状を深く、深く理解していく


「つかまっちゃった……」


暗く埃っぽい……人の声も聞こえない

ここは何処だろう。いや、土地勘も何も無い自分が考えても分からないか


何でこんな辛気臭い所に居るかというとターキとかいうアレフの友達?の家に戻ったマナは、何を会話する訳でも無く目隠しをされ、担がれ、揺られ揺られて気がつけばこんな所に置き放されてしまった、という訳だ


さて、どうしたものか……おうまさんは意識を失っていたし、父は一向に姿を見せない……自分で何とか出来れば最も良いのだが、どうやらちょっと難しい


このロープに何か仕掛けでもあるのだろうか。全く力が湧いてこない。具体的に言うと、両手と両足で別に巻かれたロープすら千切れない程には湧いてこない


コツ……コツ……、と軽やかな足音がこちらに近づいてくる。数は一つ、つまり人も一人だけだろうが


(ゆだんきんもつ……!)


最悪の場合を考えて、いつでも火は吹けるように準備しておこう。父に怒られるだろうが多少は仕方ない、甘んじて受け入れよう


コツ……、とちょうど扉の向こう辺りで足音が止まる。鼻を鳴らして匂いで誰か判別しようとしたが、何分埃っぽい。そのせいで匂いがわからないどころか「くしゅっ」と、小さなくしゃみが出てしまった


「ふふふ……やはり起きていたね。調子はどうだい、お嬢ちゃん?」


「……パパのおともだちさん」


姿は見えない、匂いもわからないが

声や喋り方、特にいやーな雰囲気の出方を鑑みるに間違いない、ターキだ

やはり自分をこんな目に合わせたのもマスターを危険に晒し、眠らせたのも


そして恐らく、父が姿を見せないのも彼「ターキ」のせいなのだろう


「ねぇ、パパとおうまさんはどこ?」


「……くふふ、っふふふふ……アッハッハッハッハッ!君、凄いねぇ!」


「なに、わらってるの……!」


マナは何度目かの戦慄を覚えた。何度味わっても慣れない背中のゾワゾワ

いや、これは慣れてはいけない部類の物だ。全身の細胞がそう告げている


しかし、態度には出さない。例え顔の見えない相手で、恐怖の対象で、それが急に笑い出しても態度に出してはいけない。いつか父が言っていた「自分より強い相手は弱みを見せるな。そういった弱みをしつこく漬け込んでくる奴らが強くなれる……まぁ卑怯な奴ばっかなんだよ」、なんて事を


「パパ……アレフがパパか。全く、自分勝手な事だな……昔あらそうだ。人の稼ぎ頭を勝手に潰し、勝手に消息を絶ち、勝手にまたこの街に現れた」

「……もう君は父にも馬にも会えない次に人と会う時、それは君が商品としてオークションに出る時だ。それまで静かにそこで待ってなさい……それから」


マナはターキの長話をもう聞いていなかった。というか耳に入ってこなかった。既に、全力の火炎放射を放つ準備を始めていたから、深く深く、肺にこの汚い空気を貯め……そして体の中で燃やす。そして


(いっきに、だす!!!)


「その部屋、魔法は使えないよ」


▶▶▶


ボゥン!


どこからだろうか、派手な爆発音が空気を揺らしながらふっ飛んできた。

窓から外を眺めてはいるが、本当にここはどこなんだろうか?辺り一帯に広がる小麦畑……というか畑しかない


「そういや、もう小麦も収穫の時期だったか……」


なんて事を普段くらいの声で呟く。もう周りの確認もしていないし、気にも留めていない……というのも、この建物、それなりの高さはあるしドアも複数個あるのだが、何分人が居ない

今の所建物内で確認出来た人の数は一人、既に閉じ込めて動きを封じたシューズ一人のみ……ドアを幾つか開けてはみたが、その先には牢屋らしき施設すら無い箱、もぬけの殻


つまりここ、この建物、いわゆるハリボテなのだ。だから見張り番も一人しか付けなかった……合点もいく


(誰が、何の為に……?)


過去の出来事を怒るなら対象は俺だけに向くはず……なのに、当の俺はハリボテ施設のショボ牢屋に見張り番が一人のみ……何故だ?


(取り敢えず外に行くかな……それで太陽の方角を元に……西に進むか)


アレフは決心し、今の今まで羽織っていたその「布」を剥ぐ


「……ふぅ、まぁその前に荷物探さないとな」


熱が篭もりに篭っていた、クソ暑い

汗を拭き、階段で下の階へ降りて行く

にしても本当に何も無い……というか畑の側に立つ高い建物ってもしかしてこれ、「風車」か?風車には入った事無かったがこんなに何も無い所なのか


そんな事を考えつつ、無機質な階段を降りていくアレフは延々と悩んでいた幾つもの悩み、その一つにある答えを見出す


(マナの特異性がバレて、そっちに目移りしたとか……この街の住民ならいかにも有りそうな話だな)


長らく燃やしていた怨念よりも目先の金に飛びつくのがこの街の人間……どれだけ笑顔で接しようとも何時だって他人の腹の中を探るような、そんな連中なのだ


(なら、やっぱり急がないとな。マナが危なそうだ……というか、さっきの爆発ってもしかしてマナか?)


マナが爆発した、という意味ではなく

マナが何かを爆発させた……という意味だ。前者も無くは無さそうだが


「と、出口発見……荷物は」


あった。無造作に投げ捨てられている

もう少し丁重に扱って欲しいものだが致し方ない。あるだけ良しとしよう


ドタドタドタドタドタドタドタドタ!


(と、誰か来たか……まぁあいつしか居ないか)


「おい、待ちやがれ!クソ野郎!」


「ビンゴ、どうした靴屋の倅。というかよく出てきたな」


「ドアを無理やりこじ開けたんだ!……いや、そんな事どうだって良いだろう!お前はここから逃がさない、俺の人生に賭けて絶っっ対に逃がさない!」


そう言って行きも絶え絶えにシューズはアレフの前に立ちはだかった。実に勇敢な若造。普通の皮を被った腐敗国に置いておくには実に勿体ない話だ


「あー……とにかく外に出ないか?逃げないように俺の腕でも掴んでおけば安心だろう?ほら、ちょっとだけ」


「はぁ、はぁ………………ちょ、ちょっとだけだぞ。外の空気をちょっと吸って落ち着いたらすぐ戻るからな」


はいはい、とおざなりに返事をし

アレフは両手をポケットに入れて外へ歩く。その片腕を掴まれはしたが、取り敢えず外に出ることは出来た


「一つ、どうだ?落ち着くぞ」


それは東洋の国に出向いた時の趣向品

名前は……「たばこ」とか言ったか

それを一本口にくわえ、もう一本を靴屋の倅に渡してやる。さして文句や嫌味を言うでなく、倅は大人しくそれを受け取った


「これはどうやって使う物なんだ、噛むのか?」


「火を付けて煙の味を楽しむんだ」


火打ち石を内蔵した小型の容器……これまた名前があった。確か「らいたー」とか向こうの奴らが呼んでいた気がする。まぁ何でもいい


「カチリ」と小気味よい音を鳴らし、らいたーに小さな火が灯る

それをたばこの先端に近付け、点火させる。同じように靴屋の倅のにも火をつけてやる


(そういやマナが来てから、しばらく吸ってなかったな……)


たばこを貰った時に東洋の奴らが言っていたのだ。子供の前で吸うな、あまり良い物では無いから……なんて事を


ぷかぁ……「何だこりゃ」


残念ながらシューズはお気に召さなかったようだ。煙を思い切り吐き、悪態をつく


「はっ、ガキにゃ早かったか」


「ガキじゃねぇ!……ずっと一人で生きてきた。他の奴らよりよっぽど生きる力はある」


「俺のおかげだな」


アレフは、シューズの顔が醜く歪み、怒りが爆発し、拳が自らに降りかかってくるのも目の端に入った。が甘んじて受け入れた


アレフの足が一瞬宙を浮き、次の瞬間には体全部が地を這っていた。建物の出入口のそばでたばこを吹かしていたのだが、アレフは麦畑まで飛んだ。下はもちろん土なので顔や服がドロドロになった。切り傷も出来た


「てめぇ……てめぇのせいでどんだけ辛い目にあったと思う!何も知らなかった子供の俺がどれだけ途方に暮れたと思う!この世の終わりみたいな顔をした両親に掛ける言葉を、どれだけ悩み考えたと思う!お前は俺の人生を狂わせた。お前さえ、お前さえ居なければ」


「ドラッグが今も街に蔓延っていただろうな。もしくはもっと悪化していたか」


シューズは思わず言葉を詰まらせる

アレフに対しての悪感情は本物だ。長年溜め込み、燃やし続けてきた憎悪は本物だ。だが両親、そして街の皆が売っていた物がどういう物か、それも知ってる


シューズは人一倍正義感の強い男だった。だから許せなかった、両親が犯罪に手を貸していた事を……だが、それでもシューズは家族を愛していた。恨んだりなんて出来ない、ならこの怒りはどこに向ければいい?


「そうだ、全部あの泥棒が悪いんだ」


それが子供ながらに辿り着いた答え

熟考の終着点だった


「恐らく、まだこの街には絶対悪が潜んでいる……そしてまた誤ちを犯そうとしている。わかるだろ、お前が少年時代に苦痛を味わったように、今の少年少女らもまた苦痛を、悲しさを味わないといけなくなる……お前は賢い奴だ、だからもう一度言おう。「わかるだろ」」


アレフはゆっくり立ち上がり、服についた砂埃を払う。顔は見せない、顔を見せるという事はシューズの顔を見る

という事だ


「う、うぅ……ぐすっ、うぅぅ……」


男の泣き顔なんて見たくもない、だからわざと目線を外してぶっきらぼうに短く伝える


「おい靴屋の、手伝え」


何を、とまでは言わない、言わなくてもわかるからだ。東洋の奴らは言っていた。「共にたばこをやったら男も女も友達、心から通じ合えるんだ」なんて事を。それを聞いた時はそんな簡単に友人が出来るなら苦労しないと笑い飛ばしたものだ


「ぐすっ……―――る」


「何か言ったか」


だが、今なら言える


「やってやる!この街を普通の街に戻して、それからお前を気の済むまでぶん殴ってやる!」


本当に、心の底から


「東洋の奴らに感謝しないとな……」


ありがとう、と。お前らのくれた煙を出す小さな葉巻一本で事は良い方向に動き出しそうだ


(さぁ、逆転の時間だ)


アレフはまだ見ぬ悪に、ニヤリと意地悪く笑った―――

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