甘味とは幸せの魔法です。
「さぁやってきましたぁ!誰が呼んだかお菓子の国「マレオ」へ!」
「えらく元気じゃないか、そんなに甘味に飢えていたのか?マスター」
さてさて、少々騒がしながら道を進むのはいつも通りの二人と一匹、アレフらご一行です。向かっているのはマスターが先程言った通り通称お菓子の国、マレオだ。
何故またそんな甘ったるそうな所に来たかと言うと、以前クラフティスで買い物をした時、あまりマナの反応が良くなかった。
というのが主な理由である
と、言うのもせっかくの旅、楽しく過ごしたいのにしようもない所で不満を持ってもらっても仕方無い。ようはマナを喜ばしたいのだ
マスター曰く「アレフはマナに対してドロドロのチョコレート並に甘い」らしい
「さて、そろそろ街に入る……アレフちゃんと買ってきてくれよ?甘ニンジン」
「わかってる。マナも何買うか決めておけよ?じゃないと目移りするぞ」
「……うん」
?……何故かマナは元気が無い。朝起きて、飯を食う時はそうでも無かっただが、ここに来て腹痛でも起こしたのだろうか?
「……ねぇパパ?おうまさんも」
「どうした」「何だいマナちゃんよー?」
と思ったら何やら神妙な面持ちでこちらを見つめてくる。何やら心配そうにも見えるがなんだろう
「はねのこと、なんでなにもいわないの?」
「……」「……」
大人一人と一匹は黙り込む
別に返答に困ったわけではない。あれだ「何だ、そんな事か」程度の物である
故にアレフは言葉を選んだ
「別に。立派な翼だった」
「……そうだな、真っ赤な翼なんて見た事無かった。凄かったぜ?マナちゃん」
「……」
今度はマナが黙り込む。目線をアレフから外し、小さく三角座りをして遠く
正面を覗く
一体何を考えているのだろう、きっと楽しい事では無い。どちらかと言うと辛い事を考えているのでは無いか?横顔しか見えないがそんな気がする
「……街に入るぞ」
一つ気になる点は出来てしまったが、大体いつも通りの二人と一匹は無事お菓子の国マレオに入る事が出来た
はてさて、何が起きるのだろうか
▶▶▶
例の如くマスターは厩舎に待っておいてもらい、アレフとマナは色彩豊かな街並みを歩いていた
「目が痛くなるな……マナ、手を離すなよ」
「う、うん」
思ったより道行く人らが多い。前に来た時はそこまで人がいる印象は無かったのだが、何だろう見た感じ商人が多いのだろうか
(……幸か不幸か、どっちだろうな)
マナの小さな手を引き、道の両端に広げられた露天を眺めつつ前へ進む
「……ねぇパパ?」
「……なんだ?」
「さっきのさ、あれ、ほんと?パパのほんとのきもち?」
マナが真剣な目でこちらを見てくる、気がする。正直マナの顔を見れない
今になってさっき言った事が恥ずかしく感じてきた
「パパ?」
「ん、あぁ。勿論本心だ。お前がこの先どんな秘密を明かしても俺は驚かない」
いや、どうだろう?マナに彼氏がいるとか知ってしまったらショック死するか憤死するか、はたまた彼氏を社会から葬り去るかもしれない
「……パパ、すごいね。ほんとーに……すごいよ」
「……ちっ」「きゃっ!?」
アレフはマナの手を無理やり引き、そこからこれまた無理やりマナを持ち上げ、抱き抱えた
「パ、パパ?どしたの?」
お前が悲しい顔をしている。気がしたから……なんて言えないな
「こっちの方が露天が見やすいだろう」
……マナはもう聞いてこない。アレフの本心を察したのか、はたまた呆れて眠っただけか
「お、マナ。あれとかどうだ?」
アレフは右に見える屋台を指差す
「かすてら」なんて書いてある。初めて聞くものだがこの街にある物は例外なく甘いので、マナも気に入るだろう
「わたしあっちのがいい!」
「ん……あれは、何だ?わっふる?」
これまた聞いた事の無い物だ。まぁ甘い事に変わりはないのだろうが
マナがこっちの方が良いと言うのならきっとそっちの方が良いのだろう。
道行く人を掻き分け、わっふるの屋台へ入る
「いらっしゃいませぇ」
店員は妖艶な女性。この街は女性が男性に比べ多く住んでいるのが特徴の一つである。それも美麗で妖艶な女性が
「この……わっふる?を二つ片方はこの黒い奴にしてくれ」
「はぁい。ちょっとお待ちになって」
そう言って女性はわっふる?を鉄板で熱し始めた。片方は注文通り黒い奴だ
マナはその様子をマジマジと面白そうに見つめている
「うふふ……お嬢さん、可愛いわね」
「そうだろう、俺の自慢だ」
そんな軽口を叩きながら、美人はわっふるを見事焼き上げ、袋に包んで手渡してくれた
「駄賃だ。ありがとうな」
「いぃえぇ……お嬢ちゃん、これ私からのプレゼントよ」
美人はマナに何か小さな小包をコソッと渡した。それもわざわざアレフが目線を外に外したタイミングでだ
マナはそれを受け取り、中身を見て思わずニマッと美人に笑いかけた
「じゃぁ、またねぇ」
「うん、バイバーイ!」
屋台を後にしたアレフとマナは、更に様々な甘味を求め探し歩いた
総数実に数十、それを複数個買うものだから、アレフの手はすぐにパンパンになった袋で埋まった。片手でマナを抱き抱えているので、口にも袋をくわえた
「パパだいじょーぶ?」
「らひぃしぉーふら(大丈夫だ)」
傍から見たらとてつもなく変な光景なのだが、アレフ曰く大丈夫らしい
マナは少々恥ずかしさを覚えたが、まぁ仕方ない。愛する父の頑張りを無下には出来ない
(あ、そうだ!)
何かを思いついたマナは、ゴソゴソと自分の持つ袋をまさぐり、中身を取り出し、その手でアレフの頭を触る
「ぺっ……マナ、今何かしたか?」
袋を吐いて自分の小指に引っ掛けたアレフがマナに笑いかける
「なぁんにもー?」
対するマナもうふふ。と先程の美女のように何かを含んだような笑みを浮かべる。その顔にはもう街に入る時のような暗い表情は一片も無かった
(パパのあたまに……おはなのかんざしって……)
「ぷぷっ!」
「何だ、やっぱり何かしたんだろう」
やはり小指は辛かったのか、片腕をプルプルさせながら、アレフは訝しげに首を傾げる。そんな様子がやはり面白可笑しかったのかマナはより大きな声で笑う
「あははは!あはははははは!」
「おいマナ!何をしたんだよ、教えろ!おいマナっての!」
そこに居たのは、どこまでも仲の良い
ただの親子だった。親父の方は頭に花の簪を刺していたが
▶▶▶
「ぶっはははははーーー!!!何だよアレフその頭の!?ちょー似合ってんぜ」
「黙れ。それ以上笑ったら甘ニンジン捨てるぞ。もしくは俺が食う」
厩舎に帰ってきたアレフとマナを見て
マスターはまず笑った、とにかく笑った。アレフは苛立ち、それを見たマナも笑った
「あはははは!パパ、にあってるよ?」
「うるさい。黙ってこれを荷台に詰め後処理は俺がやるからとにかく詰め込め」
苛立ちながらも荷台のサイズだけは呪文で元に戻したアレフは、マナを下ろし比較的軽い袋をいくつか渡す
「おいアレフ、甘ニンジンくれよ。もう笑わねぇからよ。笑い飽きたし」
「……あぁ、良いぞ。よーく味わえよ」
アレフは一際大きな袋から一本の人参を取り出し、対するマスターは「あーん」と口を開け待機している
「ぜひとも喰らえっ、このクソ馬!!」
「あー、んがっ!?」
べチャリ、甘ニンジンは見事マスターの顔面にぶち当たり砕け散った
「……なぁ、わざとか?わざとだろ?」
「さぁな」
この後一悶着あってマナに宥められたのは言うまでもない
▶▶▶
「ねぇパパ、おうまさんもありがとね」
「「何が」」
二人と一匹は静かに街を後にした
その後の何も無い野っ原のど真ん中で急にマナがそんな事を呟いた
「んーとね、マナにしあわせをいっぱいくれて……うん、ありがとう」
「……ふんっ」
「あ!アレフ照れてやがる!」
マスターが茶化し、マナが乗り、アレフが怒る。全くもっていつも通りの二人と一匹に流れる険悪な雰囲気なんて
甘い物一つと小さな笑顔でひっくり返る。
さて、次はどこに行こうか―――




