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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
124/162

いとも容易く鬼退治、です。

一目見たからアレフは、成程。確かにそこは二人の思い出の場所「だった」のだろうな。と深く頷いた

だった、そう「だった」のだ。太くて見るからに頑強な幹、冬を越せばそれはそれは見事な薄桃色の華で彩られそうなその一本の大樹

しかしもうそんな景色が見れる事はきっと来ない。何故?折れているのだ

その太い、とても太い幹がまるで小枝のように無残な形でへし折られていた


それを見たタスケはまさに唖然。と言った様子で口を開けて無言で折れた桜の木を見つめていた

因みに横のアレフは今にも鼻をほじりだしそうな程あっけらかんとしていて


「ここにハナが居たんだろうな。多分木の上に登って難を逃れようとしたんだろうが運悪く鬼に見つかって────」


と、まぁ空気も読まずに状況を読み解き出したのだがふと、その言葉を止めた。タスケが今までの仕返しとばかりにアレフの脇腹目がけて鋭い手刀を繰り出したのだ。ドゴッと鈍い音を立てて命中したソレはアレフの言葉を遮るのに充分で、そしてその行為は逆にアレフの言葉を肯定する事になるのも

実に賢い少年であるタスケは深く理解していた。しかし俯かない、嘆かない


「もう後がない、でしょ?早く行きましょうよアレフさん」


「って言っても何処に行くんだ?鬼の住処にでも襲撃するのか?……え?何だよその顔。もしかして、図星?」


タスケはアレフから顔を逸らしてから小さく頷いた。それを見たアレフは深ーい溜め息を持ってしてそれを了承する。たかが鬼風情どうにでもなると彼は心から思っているので、忍びの里に住み、今は鬼の襲撃によって何処ぞに逃げ隠れている彼らが何故こんなにも恐れているのか全く理解出来ない

彼らの住処に襲撃するというタスケの案も元から考えていた一つではあったので、特に抵抗する事も無く話は決まった


それにしてもタスケの心情の成長が著しい。ついさっきまで「どうしようどうしよう」と泣いて動揺しきっていた少年とは思えないほど凛々しく、もっと言えば雄々しさすら感じるほどの立ち姿に今度はアレフがたじたじになりつつあった。少年の判断もその成長を切に感じさせる一因となった

既に彼ら二人は足音を消してタスケの案内で鬼の住処へと進んでいた。やはりと言うか何と言うか鬼は複数体居るらしく、所々でその筋骨隆々な背中が見えてその度タスケが小さく、短い悲鳴を上げていた。勇気があるのか無いのか評価の上げ下げが忙しい子だとアレフは内心苦笑いしつつ、それでも口を噤んでタスケの後を追った。


(にしても、ハナは大丈夫かね……?)


例え魔法使いよりずっとチョロい鬼相手だろうと、少女がたった一人捕まっても良い相手では無い。救いといえば少女がただの町娘ではなく一端の女忍び、所謂くノ一である事と、もう一つ

あくまで彼女が鬼に捕まっているかどうかは分からない。という事だ、前を歩く少年も、自分も深刻さを満面に出して進んではいるがその実目当ての少女であるハナが本当に捕まっているかどうかの証拠なんて何一つありやしない。ただの勘というやつだ


しかし、しかし人というのは奇っ怪な生き物で、こういう不確かな事実の前には極端な怯え方を見せ、その上自分自身でその妄想を膨らませ、勝手に怯え出すのだから始末が悪い。この場合どうやらタスケがそれに深く当てはまる所があったようで

先程からしきりに「彼女がもし本当に鬼に捕まっていたら」を題に激の脚本家も驚きの想像力を持って自らの脳内にストーリーを書き出していた。劇の題目はさながら「ラブロマンス」か「悲劇」と言った所だろうか


古くから言い伝えられるは鬼の人食伝説。後ろを歩く自分たちに食べ物をくれたこの男の人は知らないのか、やけに呑気な様子。知らぬが仏、無知は罪

里の年寄り達が口酸っぱく普段から言っているその言葉を思わず自分も言いたくなってしまった。

そんな事よりハナの安否が大事だ

だって食べるにしても鬼のあの大きな体じゃ小さなハナでは腹の足しにもならないだろう。だとすれば考え得るは日頃の鬱憤を晴らす「慰みもの」だろうか、服を破られ、身体中打たれ。そして、そして────────。


「おい少年、顔が疚しいぞ」


アレフに先程の仕返しとばかりに横っ面を叩かれ、思考の海から強引に引き上げられたタスケは一瞬でも自分の想い人に邪な考えを持った事を大いに恥じ、それを戒めるためにアレフが叩いたのと逆の頬を叩いた


そう、そんな事になる前に絶対助けるんだ。今のは自分のやる気を更に奮い起こす為にやった事で決してついついやってしまったわけでは無い。うん


うん、ない。ないよ?うん、うん……


▶▶▶


そんなこんなしている内に目当てである鬼の住処に着いた。それは岩山をくり抜いた様な何処か破滅的な雰囲気を漂わしている場所で、見張りなのか二人の鬼が穴の入り口を挟んで佇んでおり、ご丁寧に金棒を地面に突き立てていてもう完璧に童話で登場する「鬼」そのものだった。アレフは頬が上気するのを何とかタスケには隠す

あんなに分かりやすい敵と退治するのは一体いつ以来か、最初こそ罪滅ぼし

のつもりで始まったこの夜半内緒の旅路だがここに来てこんな憂さ晴らしが待っているとは思ってもいなかった


「じゃ、早速行くか?」


「ま、ま、待って下さい。今、呼吸を整えてるので……すぅーふぅー」


ここに来て怖気付いたのか何なのか尻込みの深呼吸を何度か繰り返し、それでも尚身を隠すために今居る岩陰から動こうとしないタスケを見たアレフは次第に焦れったくなり……そして突如ハジケた


「……ここにも人が居るぞぉぉぉ!!」


「うわぁ!?何やってるんですかアレフさん!うわ、うわぁぁ!?」


叫べば見つかる。そりゃそうだろうという当たり前の事実も、タスケからすれば突如地獄目掛けて背中を押されたのと同義で、その主犯がすぐ隣にいる不思議に無謀な男の人というのがもう更に絶望を深く、深く彼の心に刻み込んだ。当の男の人は全く気にもしていないようだが……何にせよ、見張り番の鬼二人は容易く声の主を見つけ淀みない足取りで今自分たちが隠れている岩陰に向かってきた。目が良すぎる


「……ど、どうします?」


「まぁ見てろ。これが昔、野を行った泥棒の手口だ」


そんな不敵な言葉と笑みに、不用心にも軽く安心感をアレフに感じてしまったタスケのその一瞬は、天下の大泥棒からすれば永遠にも同義だった。

彼は目にも止まらぬ速さでタスケの肩を掴み、思い切り押した。何が起きたか分からないタスケは為されるがままに倒れ、それから不穏な気配を感じてグルリと横を向いた


「「グルルルゥ………!!!」」


鬼が自分を見ている。この事実に小便を垂らさなかった自分を褒めてやりたいとタスケは涙ながらに思った

しかし、泣いている暇は無い。見てろと言ったアレフがこうしたのだからきっと何かしらの意味があるのだと少年は無邪気にも信じ、視線を元居た岩陰の方へと戻した。そして


「い、居ない……!?」


瞬間、少年の頭に思い浮かべられた言葉は「逃げた?」という単純で明快な疑問符だった。成程姑息で名高い泥棒の手口といえばそれらしいが、何故今?何故ここまで来て逃げたんだあの人は


まさか、鬼の手先?

ハメられたのか?自分は……………。


「う、うぅ……うぅぅ……」


少年、タスケの口から嗚咽が目端からは涙が思わず漏れ出る。それはアレフに対しての怨念から来るものではなく

実に見事な踊らされ方をした自分の不甲斐なさに対しての涙と嗚咽。何なら笑いすら出てしまいそうな程情けない


タスケはゆっくりと目を伏せる


何がハナを助けるだ。こんなんじゃ何も救えない、救えるわけがない。

自分は、こんなにも無力なのだから


「もう後がないんだ、ってつもりでやるんだ。そうだろ?タスケ」


そして、目を開ければえらくダランとだらしなく舌を口から垂らす鬼二匹と

その後ろで優しく微笑むアレフの姿があった。さらにその後ろには綺麗な月


さながら、劇の一幕のような鮮やかな一瞬。目を閉じていても彼が今は亡き恐ろしい鬼二人に何をしたのか想像はつく……手口は暗い瞼のせいで見えていないが


「だから「見てろ」って言ったんだ……けど、良いデコイだった。良い仕事だ」


そうして手を伸ばされては、どんな少年でもその手を取ってしまう。憧れてしまう、例えそれが彼が自称した通りの「泥棒」なのだとしても

作戦とはいえ、自分を無断に使って命の危機に晒した張本人であるのを頭では理解していても、タスケはその手を取り

そしてゆっくりと立ち上がってしまうのだった。


続く

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