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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
120/162

罪滅ぼしに里を救います、多分。

少女がハナ、少年がタスケ。タスケの方を抱えたアレフに向かって変わらず地面に額を擦り付けるハナが懇切丁寧に自己紹介をしてくれたおかげで、アレフはスムーズに状況を理解する事が出来た。どうやらここからそこまで離れていない所に忍びの里なるモノがあるらしく、そこから抜け出てきた二人は火の光を当てにここへ忍び寄り、手早く食料を盗み出す魂胆、だったらしい


「で、何か弊害があれば倒そう。と?」


「は、はいぃ……」


アレフは何度かハナに土下座を辞めるよう言っているのだが、一向に聞く素振りを見せない少女に嘆息しつつ、結局はそのまま会話を続けた

勿論奥で眠り眠っている自分の家族達に考慮して声量は非常に抑えつつ


取り敢えず、意識を失ったタスケを降ろしてやって敵意が無いことをハナに示す。命の危機が無いことを分かってくれれば流石に土下座は止めてくれるはず……するとハナは一も二もなくタスケに駆け寄り、言葉をかけながら仕切りに肩を揺らしている。しかしタスケは全く目を覚まさず、終いにハナはタスケの両頬を連続で叩き、顔の形が変わる程強く、強く引っ叩き続けた。


「う、うおぉ!?痛てぇ!顔が痛てぇぇぇ!?」


起きた、遂に起きた。があまりに大きな声で目覚めるからついアレフはタスケの口を無意識に抑えてしまった。その時のタスケの目と言ったらもう命が刈り取られる寸前の草食動物かと思う程にすっかり怯えきり、何ならその体は小刻みに震えていた


「お、おい。悪かったよ、痛い思いさせた事は謝るからさ。そんな怖がらないでくれ……後、静かに喋れ。な?」


コクコクコク。とタスケは何度も必死に首肯してアレフの言葉を言葉通り受け取った。もう目端にうっすら涙が浮かんでいる事を責めるのも酷かとアレフは見て見ないフリで済ませてソッと手を離してやる


「……あの、すみませんでした」


「でした……」


「いや、もう良い。俺はお前らを怒る資格は無いんだから……それに、ちゃんと正面からお願いする事が出来たら少しくらい分けてやっても構わないぞ」


アレフは極力足音がしないよう、職業用の忍び足を使って荷台の中へ入ると

その奥に幾らか積み込まれている食料から幾つかの適当な食べ物を手に取り

二人の下へこれまた静かに歩み寄る


「ほれ」


「え、ほ、本当に……?」


「良いんですか?それも、こんなに?」


語尾に疑問符こそ付ける二人の子供たちだったが、言葉とは裏腹にその四つの手はアレフの手にある様々な種類の食料へ向けて手を伸ばしつつあった。

しかし、その手があまりにもゆっくりと、疑念に染まっているのでついついアレフは押し付けるように二人へ食料を渡してしまった。何故だか最近人に優しく関われなくなりつつある気がする、八つ当たりだろうか?だろうな


結局、二人はおずおずと食い物を受け取り大事そうに抱き抱え、幸せそうに声無く顔を見合わせて笑いあった。

アレフの予想としてはそのまま適当な

例えば干し肉などを噛みちぎって噛みちぎってして二人して食べるかと思っていたのだが、予想は見事に外れた


なんと二人は両手で食べ物を抱き抱え

そのまま一礼し、くるりと身を翻して

ガサガサと草むらを揺らして現れた方向へ歩いていこうとし出したのだ

アレフは慌てて二人の肩を取り、振り向かせ


「おいお前ら、何処に行くつもりだ?」


「何処って、里に帰るんですよ」


「皆待ってますから……えへへ」


ハナは恥ずかしげに、タスケは対照的に涎を垂れ流しながら食べ物をジッと見つめながらの言葉だった。それだけにアレフは二人の言う忍びの里の情勢を何となく察してしまった


食糧難、このご時勢何処にもなくて何処にでも有り得る厄介な問題。それがきっと忍びの里というまだ見ぬ地にも訪れてしまったのだろう

故にこの二人はこんな夜半に里を抜け出て外から食べ物を取りに、または盗りに来たのだ。何と健気なことか

素面で無かったら涙すら流していたかもしれない。もしくはこんなにも心が荒んでいる時でもなければあるいは


とにかく、アレフはこの話を聞いて尚冷静だった。冷めていると言ってもいい、何なら冷め切っているのかもしれない


「あの、それじゃ僕達はこれで……」


「ご迷惑を、お掛けしました……」


しかしまぁ、その二人の背中が子供ながらに寂しげなものだったからだろうか。アレフの目は不思議にも二人がすっかり夜の闇に消えてもそこからピクリとも動こうとはしなかった


罪滅ぼし、という単語がアレフの頭を1種猛スピードで駆け巡った。その言葉があまりにも今考えている事にピッタリでアレフは思わず頬を緩めて声無く笑ってしまった。そう、罪滅ぼしだ


「それにたまには感謝されないと、な」


そうして、アレフもまた夜の闇へと静かに消えていくのだった


▶▶▶


「ねぇ、ねぇサシャ……おきてる?」


「当たり前じゃない、あれだけ騒がれたら嫌でも目を、覚ます……」


サシャの言葉が途中から途切れ途切れになったのは、近くから低く響くいびきが聴こえてきたから。マスターだ

まさかあれだけ煩い中眠ってられる奴が居るはずあるまいと憤っていたサシャは嘆息一つ、仕切り直すようにマナの方をゆっくりと向いた


「それで、どうかした?」


「どうかした?じゃないよ、パパどっかいっちゃった!おいかけなきゃ!」


マナは自分の寝袋から這い出て、準備運動よろしく膝を曲げ伸ばしすること数回、それからサシャに「一緒に行こう」と手を伸ばした、が


サシャがその手を取ることは無かった

それどころかわざとマナが視界に入らないよう反対向きへ寝返りを打ってそのままわざとらしく寝息を立て始めた

狸寝入りなのは分かっている。けど

マナは宙ぶらりんのままの手でサシャの頭を優しく撫でて、そして黙ってアレフの後を追い走った


残されたサシャは、そんなアッサリと身を引かれるとは思ってなかったのかチラリと横目でマナの後ろ姿を追ったが、どうにもマナが暗に誘ってきているように思えてしまって結局すぐに視線を戻した。寝袋により深く潜り、ぬくぬくと再び眠りにつこうと目を瞑った、がどうにも眠れない


というのも、目を瞑ると瞼の裏に盗人である子供忍二人の姿がチラついて仕方なくなる。そう、決してアレフがどうとかでは無く、あくまで彼ら彼女らの寂しげなその表情、背中が気になるだけなのだ。延いて言うならマナを一人こんな暗い山道を歩かせるのが危ないから


だから今、寝袋からモソリと脱げ出たのだ。あんな裏切りアレフなんて毛ほども気にかけてなんかいない

ただ、ただ魚釣りの時に意地悪をして必要以上に手を煩わせた詫びくらいなら、口を聞いてやるのも吝かではない


そんな言い訳をのうのうと頭の中に巡らせたサシャは唐突に立ち上がったせいで立ち眩みを起こしたのをアレフのせいにして無意味に恨みつつ、不機嫌そうにマナを歩き、追いかけ始めた。


残されたマスターは、もう何一つ問題なんて無かったかのようにまるで泥のように眠りこけているのだった。


▶▶▶


忍びの里、といってもサシャの故郷であるエルフの里のように入口やその全貌が隠されている訳ではなく、いざ見てみると少し民家の数が少ない以外何の変哲もない小さな集落。といった感じだった

闇に溶け込んでいる、と言うよりは文字通り闇に溶け込みつつあるんじゃないかという程に暗く、人気も少し感じにくかったがそれもまた忍び独特の習性と言われたらそれまでなので、アレフは特に気にする事も無く歩を進めた


既にハナとタスケの姿は見えなくなった。子供といえども流石に忍びか、注意深く追っていたのにも関わらずいつの間にか視界から霧散してしまっていた


「いやはや、舐めてたわけじゃないんだけどな……」


そんな言葉を呟きつつ、アレフは草木を掻き分けて更に進んだ。意外と見た目より距離があるのかはたまた障害物が入り組んでいて中々目的の里に辿り着かない。こういうのは決まって正解のルートという物があってそれ以外を引くと総じて面倒な事になる

アレフはどうやらハズレを引いたらしい


しかし、だからと言ってモタモタやっている時間はない。出来る事なら夜明けまでには皆が眠るあの荷台の元へ戻りたい所なのだ。こんな所で道草食っている訳にはいかないのだ


こういう時、役に立つのは気合いや根性といった抽象的なモノではなく今まで培ってきた泥棒としての経験とちょっとした地頭。アレフは敢えて現在地から里までの直線から外れる。最短距離である直線は罠、終いには命を落とすというのが鉄板の一つ。これを無数に張り巡らした美術館何ていうのは何度も攻略している、お茶の子さいさいと言っても過言ではない


すると、みるみる内に忍びの里との距離は一気に縮まった。ドンピシャ正解を引いたらしい、アレフは心の中で小さくガッツポーズを決めると、最後の一歩を踏み出した


かくして、アレフは忍びの里の入口と向き合った。相も変わらず人気は無い

そりゃまぁ「忍びの里」なのだから逆にお祭り騒ぎの方がドン引きしかねないが……まぁ、それは良い


それは良いのだ。だって、ここに来た理由はあくまで「罪滅ぼし」なのだから


続く

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