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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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そんな事より魚釣り、です。

極東の政において無くてはならない存在、キョウはそういう扱いを長年受けていたし、キョウの住民もそれを誇りに思っていた

さて、何故キョウが政の中心なのか

それはここに長年住むある家系の一族が深く関係している


人呼んで「帝」、その一族を率いる長であり、極東の地全てを統べる云わば王のような存在。今の帝は「西光帝」という立派な名を冠する齢60になる男性で

俳句や歌詠みといった雅をこよなく愛する高貴なお方だとそこらの民草からは専らの評判だった。だったのだ


そんな西光帝は何時からか人が変わったかのように血なまぐさい争いを好む野蛮な王と化してしまった。ことある事に近隣の藩や国に喧嘩を売り、買ってくれば容赦なく圧倒的な権力と武力を盾に叩き潰すという愚行を何度も、本当に何度も行ってきた


今更だがオオエドの件にもこのキョウの蛮行は深く係わっている。というのも第二のキョウとして度々扱われてきたオオエドは本丸からすれば目の下のたんこぶに成りかねない存在であって首輪を付けて無理矢理にでも従わせるか、はたまた首根っこを掴んで消してしまうか……後者を異常な程に恐れたオオエドは自分の身を守るために大きな……それも出来る限り大きな手柄を取り焦ったという訳だ。結局は失敗してしまったのでどうもこうもないが


つまる所、一見平和極まりない極東の中でも様々な喧騒が潜んでいる。という事なのだが、この一行はそんな事お構い無しに……もしくは気づきもせずに今日も今日とて旅三昧である


旅から旅への根無し草、所謂旅商人

その一行の主の名はアレフ、と言う。


▶▶▶


釣りというのは実に奥が深い。アレフはピクリとも動きやしない竿を手にそんな事をボンヤリ考え浮かべていた

というのも、彼の娘であり今現在彼の横で同様川に竿を垂らしている少女マナが


「もうぱんはあきた!かたいおにくも!」


と飯にケチを付けて仕方ないので、人の言葉を喋る奇っ怪な馬「マスター」の提案によりこうやって本当に魚が居るのか深く疑ってしまうほど獲物が釣れないこの小川にて休憩がてら釣りに勤しんでいる訳である

本当はこの一行にはもう一人、エルフでありながら魚も肉も見境無しに食い散らかす齢150歳のサシャ、という見た目少女な奴が居るのだが……ソイツはこの前の一件から機嫌を損ねっぱなしで一向に良くなる気配を見せずに今日も今日とて荷台の奥隅で本を読んでるか寝てるか、といった具合だ。無論釣りの手伝いなんてしてくれるはずもない


もうそれは置いておくとしよう。アレフとしても解決策が一つたりとも思いつかないまま無理にどうにかしようとする程馬鹿でもないので、今はとにかく魚を一匹でも多く釣って彼女らに腹一杯食べさせてやるのが彼にできる最大のご機嫌取りなのだから

彼は躍起になって釣り糸を水面に漂わし続けた。時折水面に現れる波紋に一々大仰な反応を見せては威勢よく引き上げるが、何もかかっていない。これを何十回と繰り返してから、アレフは悟った


釣りはこんなにも奥深いモノなのかと


ただ竿を垂らしているだけではピクリともしないし、逆に力んで肩を強ばらせてしまってはより釣れなくなる。エサ代わりのパンくずだけが何度も何度も掠め取られていく。その取られる感覚すら手に伝わってこないのだからもしかしたらここの魚がとんでもない手練なのかもしれない

根気が負けて何度も止めようと、又はせめて場所を変えようとしたがマナがダメ、もうちょっとまって?と小首を傾げて言うのだからどうしようもない


諦めて竿を再び川へ投げ込むが、もう何も釣れる気がしなくて思わず大口開けての欠伸が口から漏れ出てしまう

しまった。遅ればせながら手で口に封をして横に座るマナの顔をチラリと見やる


「つぎにためいきついたら、もういっしょうパパとくちきかないからね」


こんな事言われたら如何に厳格な父親であろうとも心は揺らぐんじゃなかろうか?俺は揺らいだ、そして大いに腹を括った。もう二度と溜め息なんてつくまいと


サシャの機嫌を曲げたその一件だが、つい最近までマナも同様に怒っていた

だが、彼女が一際優しいのかはたまたアレフが余程情けない表情をしていたのかある程度時間が経った所で一緒に寝てくれるくらいには許してくれた。


だが、やはりと言うかなんと言うか心のどこかでは未だ怒りが渦巻いているのかマナは度々引き合いにこんな事を言うようになった。或いはアレフにこれを言えば大概言う事を聞くのに気付いて調子ずいているのかもしれない

だとすればいい加減舵を取り返さないといけないが今は無理だ。


うん、とにかく魚を釣ろう。話はそれからだ


「ねぇパパ」


「なんだ」


「つれないね」


「なんでだろうな」


「サシャがさかなをおどかしてるんだよ」


アレフはバッ。と後ろを振り向いた

荷台のあるその方向を……しかしそこには人の影は無く、代わりに不細工な面を暇そうにひん曲げたマスターの顔があった。吐き気を催したが流石に吐瀉物は魚のエサにはならないだろうと無理矢理引っ込めた。

口の中の酸っぱさを感じながら隣に座る先程意味深な事を呟いた娘の横顔を見つめた、が当の娘は何も無かったかのように自分の釣糸を見つめている。もしや、からかわれたのだろうか?


しかし、マナはそんな父の抱いた疑念すらお見通しなのか、表情をピクリとも動かさずにサラッと言い切った


「サシャがまほうでやってるんだよ。いやがらせに……パパ、まけちゃだめだよ」


最早そのハッパの意味すら分からなくなってきたが、取り敢えず言葉通りに受け取っておこう。そして頭のメモにこう記録しておくのだ「魔法とはかくも多様性に溢れ、酷く便利である」。と


こうして彼は娘と二人黙々と釣り糸を眺める時間を過ごすことになった。決してそれは嫌な時間ではない、むしろこうやってほのぼのとした時間が自分の人生の中に訪れると昔は思って無かっただけに殊更有難く思う。心に染みるとはきっとこういう事を言うのだろう


だから、噛み締めて生きようと思う。この時間を、今自分が居るこの世界を

そして今晩は美味い焼き魚を存分に噛み締めるのだ。誰かさんの嫌がらせに負けないよう、娘と共に


平和な時間が、過ぎていく


続く

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