表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
112/162

なごり雪は重く、深く沈んでいきます。

例えば、長らく片想いをしていた男性に突然告白された女性はどんな反応をするだろう。

例えば、叶うはずないと一度諦めた夢が急に手の届く場所に来たとしたらどうだろう?まず、間違いなく浮き足立つだろう。それも例外なく

彼女は正に今、浮き足立った。文字通り少しジャンプして地面から足を離してしまったくらいだ


彼女、リリは何時しか恋をしていた。

相手の名前はアレフ。見た目30無いくらいの「元」泥棒というエキセントリックな経歴の持ち主で、ある日突然異世界に「堕とされた」自分を助けてくれた命の恩人でもある彼は何故だか、とても魅力的に見えた。大人の男性だからだろうか?時折見せる笑顔なんてそりゃもうたまんない程だった


そんな人から「これからも一緒に居よう」 なんて言われたのだ(ちょっと過大解釈しているが)

これで感動を覚えないと言ったら女を辞めなければならない。それくらいのモノだった、嬉しかった


だから、だからこそ言おう。渾身の思いを込めて────!


「むり、だよ。」


「……え?」


「無理なの。私はもう、これ以上ここには」


彼女が最後まで言葉を綴る事は無かった。何故なら彼女の前に立ち尽くす男の顔があまりにも間抜けな惚けっぷりだったので、思わずクスッと笑ってしまったから……それこそ、涙の出るくらい笑える顔だった。


▶▶▶


昨晩


「ねぇリリさん、貴女に伝えなきゃいけないことがあるの……聞いてくれる?」


「え、あぁ、はい。もちろん」


「えへへ、ありがと。」


チヒロ曰く「ちょっとそこまで」の帰り道、河原から団子屋のある家屋までの暗く、緩やかな道のりの囁かな会話はそんな切り口で始まった。

チヒロは勿体ぶるように頬を掻き、そんな仕草がとてももどかしいモノに思えたリリは口でなく、目で少し急かしてみる。何せ相手は魔女で、本人曰く3000歳もの年を重ねているらしい。アテは当たり、そんな大魔法使いは隣の少女が投げかける目線の意味を素早く察し、笑みを含んだ余裕の表情でサラリと言った。


「もし貴女が元の世界に帰らないとね、この世界が不味いことになるんだ」


「……え?」


奇しくも次の日アレフが全く同じ表情、反応を自分に見せる事など露ほども知らないリリはチヒロの言葉に耳を疑った。不味いことなる?とは?


「あー……ざっくり言い過ぎたかー。じゃあもう少し細かく言うとね、空が歪み始めちゃったの。」


いやまぁ元は私の責任なんだけどね、とチヒロは一人見た目相応の仕草で可愛らしく笑うが、リリとしては未だ説明がざっくりとし過ぎていて笑うに笑えない。

しかしそれでも賢い少女は笑ってみせるが、どうやらあまりに芝居がかりすぎて大魔法使い様にはバレてしまったらしい。コホン、と咳払いを一つ挟んでから再び、そして今度こそ分かりやすい説明が始まった


そもそも大前提として、チヒロやその他有力な魔法使いが使う「転移魔法」というのが諸々のこの世の理を無理やり捻じ曲げて発現させるこの世界その物に大きな負担を掛けるモノらしく

故に「ミス」なんてもの、例え小さいのであろうと許されるはずもなく………

そのミスが起きた場合、考えられる結果は幾つか想定される。

一つは、暫くの間転移魔法を大々的に禁じて世界そのものの休息を図らなければいけなくなる。

二つは、世界に亀裂が入りそこから破滅しきって滅亡。ジ・エンドの可能性

三つは、何も無い。これが一番いいのだがどうやらそれは有り得ないらしい


というのもチヒロ曰く、既に空は亀裂らしきモノが目に見える程広がり始めていてこのまま放っておけば近い内に空が真っ二つに裂け、その勢いのままこの世界は3000年生きても予想すら出来ない何処か知らない所へ消えていってしまう。らしい

成程、最後ら辺は話が壮大すぎてイマイチ話が飲み込みにくかったがそれでも事の大事さは伝わった。確かに大事な事だ、そしてこれで自分がこの世界に留まることが出来ない事が決まった瞬間となった


「本当はこれを言う為だけの散歩だったんだけどね……えへへ。うち、お客さん少なくてさ」


つい関係ないお喋り、昔話に興じてしまった、とチヒロは舌を出して悪びれもせず笑ってみせた。そこまで明るく言い切られてしまったら自分としてはもう彼女を責めることも、しょげる事すらも出来ない。釣られて笑ってしまうのが一般人の関の山と言える


そこからは二人とも言葉は無かった

皆無、と言っていい。暗闇の中、草や砂利を踏む音だけが夜のよく澄んだ空気に響いていた。時折チヒロが鼻歌らしきものを奏でるが、何故だかすぐに止め、時間を開けてまたか細い音色がリリの耳に届く。それを何度繰り返した事だろう、気が付けば団子屋の看板が見えるほどに家屋の近くまで戻ってきていた。その温かな光を見て、リリはポツリと問うた


「……さっきの事、皆には黙っていて良いですか」


「うん、任せる。」


そうして、話は昨日の寝屋の中へと戻るのだった


▶▶▶


事の一部始終を聞いたアレフの頭は

有り体に言ってしまえば、機能が完全に止まってしまった。フリーズしたのだ

リリよりも下手に知識があったのがいけなかったのか、はたまた神への信仰心なるものがそうさせたのか

チヒロの言う空が裂け、世界が飲み込まれるという話があながち嘘に思えず

それどころか何となく脳裏に描写すら出来てしまう程に強烈なインパクトを彼に与えていた


「本当は話しておくべきだったんだけど……きっと、皆が哀しむと思って。なんて、結局は自分が認めたくなかっただけなの。絶対に、帰らなきゃいけない……って事を」


だからリリのそんな言い訳がましい言葉すら欠片ほども耳に、頭に届かなかった。響かなかった

まるでどこか遠く、見ず知らずの人の世間話のように自分に関係ある話とは思えなかった、思いたくもなかった


『もう、どうする事も出来ない』


姑息で賢い「大」魔法使いが暗にそう言っているようでアレフは内心歯噛みする。リリもそうだが、彼女もまた分かっていて黙っていた。それも元を正せば事の発端は彼女、チヒロにあるだけに余計タチが悪い


仮に、まだアレフが純真無垢な子供で

別れというものに慣れていない存在だとすればあるいはショックで動けなくなり、ともすれば涙すら流していたかもしれない

だが、皮肉にもアレフは別れというものに慣れていた。慣れ過ぎて涙が出かねない程に


故に、アレフはリリの頭をそっと撫でて、それから未だ続く激戦へと顔を向けるのだった


▶▶▶


戦いは既に佳境を迎えつつあった。

最初こそ拮抗していた互いの実力も時間の経過と共にその差が明確なものとなってきた。チヒロが息一つ乱さず全ての攻撃に対処、または回避しているのを尻目にマナとサシャは体はフラフラと頼りなく揺れていて今にも倒れてしまいそうな程に疲れきっていた


「あれ、もうお終いですか?」


数多の炎柱、爆炎、暴風、刃を持った風。その他諸々を浴びる程に受けていたはずなのに、何故チヒロはこんなにも平気でいられるのか、それは単に体力があるだとか魔力がどうとかそんな話ではなくてひたすらに体の使い方がまぁ上手かった。


例えば拳法の達人は相手の技を、その自分に向かう勢いを使って流す。または同様にその力の流動を使って一撃必殺のカウンターを相手の懐にぶち込む

チヒロの動きは正にソレだった。


故に彼女は最低限の動きだけで全攻撃に対処してみせ、結果的に今の状況に至る。という訳だ

人が大魔法使いと呼ばれる所以は単に魔法が使える云々ではなくまず人より「喧嘩が強い」 それこそが大事な事だとチヒロが以前言っていたらしい。何故か分かりやすいほどにうんざりとした表情で


「はぁ、はぁ……サシャ、うごける?」


「ちょーっと、無理ね……流石に強いわね。何だっけニンフ・ロードさんだっけ?」


サシャは最後の囁かな抵抗としてチヒロが嫌がる本名呼びを一度口にして、それっきり喋らなくなった。マナは驚いて「サシャ、サシャ!?」 と何度も体を揺さぶるが反応を示さない。遂には体のバランスを崩して勢いよく倒れてしまった


チヒロだ。見れば魔法陣がうっすら浮かんだ片手をサシャへ向けて何かを唱えていた。また名前も知らない高度な魔法を使ったのだろう

そして、サシャに触れたマナもまた視界が黒に染まりつつあった。まるで心の中のよう、醒めない夜、絶望

別れというのは、少女には辛くて痛くて、ただただ嫌で仕方のないモノで


「いかないで、リリ……おね、がい。」


マナは意識を失うその瞬間まで、戦った。ただただ家族の一人を失いたくないという一心で、それがどんなに無駄な努力だなんて欠片ほども思わないままに、マナは静かに地面へ伏したのだった


いつの間にか残ったのは、アレフとリリと、そしてチヒロの三人だけになっていた。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ