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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
111/162

激戦熱戦、魔法使いの争い。です

マナは今、自分で自分の気持ちが分からないでいた。ただ、ただ今この瞬間動かないといけないような気がしたのだ

気持ちの整理は付けていた。昨日の夜

諦めて瞼を瞑った時に「仕方ない」と心に区切りをつけていた。そのはずなのに、父も「その方がリリにとって良いんだ」と言って無理矢理にでも自分自身を納得させていたはずなのに、これが初めての反発。親への明確な抵抗


マナは今、燃えていた。それも文字通り両腕に紅蓮の炎を携えて


「やっぱりダメ!ダメなの!」


「……あんまりワガママを言うと、大好きなパパに嫌われますよ?おチビさん」


「リリ『も』すきなの!パパも、サシャもみーんなだいすきなの!だから、だからぁ……!!!」


マナの手は震えていた、怯えているのは明らかだったがそれでも少女は一歩も引こうとはしない。この争いの部の悪さを心から理解していてもそれでも尚、引かない。自分のワガママを最後まで通すために


「ほーんと、若いって罪ですよね……」


「うっさい!くらえぇ!」


マナは脚力にものを言わせて全力でチヒロ目掛けて突っ込んだ。炎の拳を握り締め、力任せに殴り飛ばす魂胆だ。

そんな事をしても何にもならないのをしっかりと理解しながら、少女は無抵抗のチヒロ目掛けて拳を振り下ろした


が、それが届く事は無かった。何時ぞやのチヒロが水蒸気でマナを浮かしたように、彼女が得意とする水魔法だが水と一口に言っても様々な種類、形状がある。今回は水の壁、小さくも強力な水力を携えた「滝」だ

その勢いに阻まれマナの拳は空を切り

それどころか、上から下への強力な圧によって地面に叩き伏されてしまう


「がふっ……!」


思わずマナの口から嗚咽が漏れた。流石の実力差、あっという間に決着が着いてしまった……かと言えば、そうでは無かった。何せこっちには「まだ」魔法使いは存在するのだから、それもとびきりのが


瞬間、一瞬にして音も無く霧散した滝を憎らしげに見つめ、感情もそのままにチヒロは未だ悠然と立つサシャを睨み付ける。


「やっほ」


「……一応聴きますが、私と戦っても意味ないと思うんですけど……今から、何の為に戦うんですか?」


「そりゃあんた……ねぇ?」


サシャはちらりとマナを見やり、目線を合わせるとニヤリと笑い。それから「小さな」魔法使い二人は大魔法使い相手に真正面から立ちはだかってみせた


「「ただの、わがままだもんね!!!」」


それをまぁあんまりにもタイミングを合わせて堂々と言うものだからか遂にチヒロも吹き出してしまった。

そこからはまさに魔法の戦争、炎が地面から噴き出たかと思うとそれがスライムのような液体で揉み消され、その隙に荒れ狂う暴風がチヒロの体を襲う


しかしこれもまたチヒロはすんでで防ぐ。未だ傷どころか息一つ乱れない彼女は片手をニギニギと軽く握り込むと突如パッ、と開き「────。」と全く聞き取れない速度と声量で行われた詠唱と共にマナ同様に水の拳を無から創り出してみせた


「3000年生きてても、まだまだ魔法の可能性は尽きませんね。まさかまだこんな方法があるとは……礼を言った方が良いですか?」


「いらない!ていうかまねしないでよ!これマナがかんがえたやつなんだからねー!!!」


マナの怒号と共に繰り出された炎の拳と、それを悠然と見据えるチヒロの水の拳がかち合う。時おり小さな稲光を生み出しながら二つの魔法が正面から全力でぶつかり合う

ここだけ見れば互角の戦いに見えなくもないが、残念な事に拳のかち合いは徐々にチヒロのが押し出てきていた。

やはり水と炎の相性もあるのか、マナの炎はジリジリと音を立てて段々と勢いを失いつつある。このままではいずれ完全に「消火」されかねない

そんなタイミングで突如動きを見せたのはサシャだった。数ある魔法の中で自らが最も得意とする「風魔法」を遺憾無く発揮し繰り出した一撃はチヒロの横っ面を引っ叩き、何とかマナの炎を救い出した。が、既にマナの火力はかがり火の様に弱々しく、すっかり頼りない物になってしまっていた


「マナ、ちょっと下がってて。時間稼ぐから回復しなさい」


「やだ!まだいけるもん!」


「良いから頼むわよっ!」


マナを無理やり押し止め、サシャは先行してチヒロと対峙する。彼女は風魔法を抜きにしても実に多種多様な種類の魔法を自在に扱う。それを巧みに使いこなし、チヒロを上手く撹乱しつつなんとか応戦していた

それでもまだ「なんとか」、の領域なのだからチヒロの力量がまぁとんでもない物なのだろうという予想も着く。

サシャが魔法でチヒロの動きを妨害、そして攻撃する度にチヒロも水で持ってそれを打ち消したり叩き潰したりしているのだが毛ほども一向に疲れた様子を見せやしない


(ほんっと、キリがない……!これが「大」魔法使い……あぁもう、キツい!)


サシャはそんな事を口内で途切れる事無く愚痴り倒し、それでもって魔法処理の速度を上げていく。演算、乖離、そして詠唱。実を言えば想像よりずっと数学的な魔法の仕組みなのだが、それをサシャは生まれた頃から本能で理解していた。だから多少なりともプライドがある


たかが大魔法使い程度にへこたれる訳にはいかない、サシャは歯を食いしばり更に速度を上げる。それは最早今のマナには決して届かない領域、100年鍛錬してやっと拓ける「魔法の入り口」


サシャもまた誇りにかけてこの自分勝手なワガママを通すべく尽力しているのだ


「ほんっと、馬鹿みたい……っとぉ!」


「全くです。何でそこまでやれるのか疲れきって倒れてからで良いので教えて下さいね」


時おり言葉だけ見れば和やかな雑談も交えつつ、戦いはより熱気を増して行くのだった


▶▶▶


その時、アレフはと言うと


(何だよこれ……そこらの国通しの戦争よか余っ程命の危機を感じるんだが?やっぱあれか?魔法使いってあれか?最強なのか?泥棒凄い無力感感じてる)


コソコソ、コソコソとバレないようにチヒロの後ろを忍び歩きで進んでいた

目的地はというとズバリ、リリだ

マナとサシャが決死の思いで戦っているその間に姑息にも影を縫って形だけは囚われの姫のような状態のリリの元へとアレフはゆっくりと、そして着々と近づいていた


その目的はと言うと、ズバリ他の二人と同様にリリの奪還……と言うと人聞きが悪いし何だかチヒロが悪い事をしているようだが、まぁつまる所リリの説得だ。出来る事ならこの世界にこの世界に留まって欲しい、その一心でアレフは背中を曲げ、バレないようにこっそりと、且つ少しずつ前進する


彼は今、猛烈な無力感を感じていた。自分は彼女らみたく派手な戦いは出来ない。というより間違って相手でもしようものならあっという間に木っ端微塵……、流石のチヒロもそこまでしないだろうが、怪我くらいするのは間違いないだろう

なら、自分の役回りはいつもの如く闇に潜んで「宝」 を盗む事だろう。この場合の宝とはリリ以外の何者でも無い


彼は今も尚ボンヤリと考えていた。魔法陣の上に立ち尽くし、場をオロオロと見つめるあの少女をどうやったら説得できるだろう。と

どんな理由であれリリの前で帰るべきだと初めに言ったのは他の誰でもないアレフ自身なのだから、どの面下げて


『やっぱり一緒に行こう』


なんて言葉が口に出来ると言えるというのだろうか……それでも言うのだが

というか、言うしかないのだ。だって今の今までアレフはこんなにも別れを惜しんだ事は無く、どんな言葉を掛ければ良いのか分からないのだから。それも女相手に


だから下手に考えない事にした。下手に考えて気の利かない事を言うくらいならベタでつまらないこんなセリフでも、こっちの方が良いというアレフなりの結論だった。それが正解かどうかは……今、まさに今、答え合わせの瞬間が来た

リリのすぐ隣へと辿り着いたのだ。


あまりにもアレフが影に溶け込みすぎてリリ自身隣に人影が現れた事にすら気付かず、アワアワ、オドオド、キョロキョロと忙しなく挙動不審っている


そんなに心配げな様子を見せるリリだが、それでも前へ進み出てこの戦いを体を張って止めようとしないのは恐らく、本能的に彼女らと自分の実力差を感じ取っての事なのだろう。誰だって死ぬのがわかってて戦地に向かうのは嫌というのが健全な人間というものだろう


だから、この場で唯一そんなリリの気持ちに同調出来るアレフは「うんうん」

と一人静かに頷き、それからコホン。と小さく、且つわざとらしく咳き込んだ


「……?」


どうやらリリは空耳だと思ったらしく

少し視線を揺らすだけで残念ながら隣のアレフを見つけるには至らなかった


(あ、あれ?もしかして俺「まだ」うすいのか?)


忘れちゃならないのがアレフは元々世界に名高き「大泥棒」であって、ただの旅する商人ではない。存在感を消す、というのも職業柄よく多用していた

一つの技として極め、武器として存分に扱っていたモノ。故にアレフの言う「存在感」を完全に消した時というのは正に本人が「影」そのものになるのと同じ……まぁそれは誇張し過ぎだが


え? なら隠れ蓑なんて要らないじゃないか、って? まぁそれは……気分?

と、そんな事はどうでも良くて、とにかく今はリリに気づいて欲しいアレフは彼女のか細くて頼りない肩をポンポン。と二、三度優しく叩いてやった


「あ!アレフさ────」


(しぃー! 静かにしてくれ、じゃないとチヒロに勘づかれかねないから……)


(う、うん……ごめん。ねぇアレフさん、これヤバくない?ヤバいよね?)


アレフはブンブンと勢いよく首肯し、リリはこの恐怖を感じていたのは自分だけではないと安心したようにホッと胸を撫で下ろしていた。それでも魔法陣から一歩も足を踏み出さない辺り帰る。という彼女の結論は結構芯の強いモノなのかもしれない


だとすれば、自意識過剰と言われるかもしれないが間違いなく自分の仕様もない意見も関係しているに違いない。

そう思ったアレフは、彼女の世界で言う所の「冬」という季節柄、随分と冷えた息を少し吐き出し。意を決した


「なぁ、リリ。これからも一緒に旅をしてくれないか?」


……何でだか、事前に用意していた言葉とはまたちょっと違うモノが口から出てきた。それもまぁ嘘交わりの全く無い自分の「本心」なのだからタチが悪い……リリの目を見たら何故か出てきたこの言葉


さて、これを受けたリリのえも言われぬ赤面といったら無かった。もしこれでアレフがリリの手でも取っていようモノなら軽く卒倒していたのではと疑う程に目が泳ぎ、先程とはまた違う意味で大変アワアワしていた


たった今この瞬間、彼女の頭はすぐ隣で起きている激戦の事が頭からスッポリ抜け落としてしまったのだった。


続く

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