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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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その昔、少女はたった一人でした、です。

むかしむかしある所に「ニンフ・ロード」という名の可愛らしい少女が居た。ニンフは何の変哲もない至って普通の少女だったが、たった一つだけ。

とある「特技」を持ち合わせていた


それは誰にでも愛される

「魔法の笑顔」と呼ばれるニンフの心からの笑顔、それを存分に使ってニンフは家族や友達に充分愛されて過ごしていた。しかし、ある日彼女の生活は一変してしまった


何と彼女の「魔法の笑顔」は、本物の「魔法」すら魅了してしまったらしく朝、目が覚めたら突如魔法が発現していた。理屈は三千年経った今でも分からない

ただ一つ、明確に理解しているのは

その日、ニンフ十五の誕生日から彼女の肉体的成長は完全に停止してしまった。という事


すると、どうたろう。どれだけの年月が過ぎようとも一向に歳をとる気配すらないニンフの事を、周りはどのような目で見るだろう


正解は忌避だった


つい昨日まで仲良く遊んでいた友人もニンフが魔法に目覚めたと聞いて段々と距離を開け、終いには遠ざかって行った。実の親も同様にニンフと距離を置き、独り立ちと称して家の離れに彼女を閉じ込めてしまった


そうしてニンフはあっという間に一人ぼっちになってしまった

離れと言っても内装は単なる物置でやけに埃っぽく、三日も過ごせば体調を崩しかねない空気が充満していた。

そこでまだ現実を悲観しきっていなかったニンフは、先ずこの部屋の掃除から始めた。母曰くご飯はちゃんと持ってきてくれるらしいので、それまでに何とか鼻を詰まらさずに眠れるくらいにはするべく張り切って動き始めた。


………何日が経っただろう。部屋の掃除なんてものはとうに終わり、仰向けに寝転がってただ天井を見つめる日々

いつの間にか毎日届いたご飯も届かなくなった。毎年決まった日に行われていた村の祭りの喧騒もまるで聞こえなくなった


「出よう」、ニンフがそう決心するのも当たり前の事と言えた。内側からは決して開かない鍵付きのドアは、ほぼ無限に有り余る時間を持て余したオリジナルの魔法を持って軽く壊し、そこから出た


ニンフは、唖然とした。村が無くなっていたのだ。正確には諸々が荒らされていて、畑なんかは特に酷い有様だった

彼女は、長い間放ったらかしにされていた事も忘れ急いで自分の親が住むはずの家へと駆けた。壁は半壊し、窓はまるで叩き割られたような状態だったが、ニンフは決して悪い方には考えず

家のドアを勢いよく開けた。中に両親の姿があったら、先ずは「久しぶり!」とでも声を掛けよう。そう心に決めて


▶▶▶


それから数年後、ニンフは一人

雪が一年中降り止まない土地に居た。

地面に巨大な穴を開けそこを拠点として生活を営んでいた。

結果として村の人間は全員死んでいた

あの後、別の村や街で聞いてまわった所、ニンフの居たあの村はザッと「50年前」に流れの山賊に狙われ、全てを奪われてあっという間に荒廃してしまった


それを気前よく話してくれた飲んだくれの親父が、「元から何もねぇ街だったから無くなってもだぁれも気にしなかったがな!ガッハッハッ!」

なんて言っていたので全力のグーで殴ってしまったのはご愛嬌だ


そうして、知らぬ間に家族を、友達を失ったニンフが選んだのは「孤独」だった。それもより深い、人一人居やしない極地を選んだ

何も永年一人で過ごしてきて、そっちに慣れてしまっただとかではない。何時だって誰だって一人は、いや「独り」は嫌なものだ、なら、何故?


矛盾するようだが、一人が良かった。

すぐ近くにあったはずの「愛」がたった一夜にしてどこか遠くの、まるで自分の知らないような物になってしまうあの感覚は、どうにも受け入れ難い物としてニンフの頭に強く、強くこびりついてしまったのだ


それに、「普通の」人と一緒に生活していくのも到底無理な話に思えて仕方無かった。だって自分は何年も小さな幼女の姿で生きているのだから、時の流れに逆らうような存在は否応なしに周りから奇色の目線で見られる。そうニンフは思っていた。実際に自分の居た村でそういう風に扱われ、監禁までされたのだから


そうして、ニンフの雪の中での一人っきりの生活は悠久の時を流れていった

暇潰しと言えば専ら魔法の試し打ちで

度々夜睡る時にふと思いついたモノを気軽に撃ってみたりしていた。幸いにも周りは雪の積もった地面と氷しかないので気兼ねなく思い切り撃てる。その点だけではこんな極地も優れていると言えた


そして、もう一つニンフにとって幸運だった事がある。物置に閉じこめられていた時から薄々感じていたのだが、もしかしたら自分は「食事」という物を

摂らなくても死なないのでは?という半ば確信に近い疑問だった。どれほど持つかは知らないが今の所毛ほどもお腹は空かないのできっと大丈夫なはず


そんな訳で、今日も今日とてニンフは最近得意分野なのだと気がついたばかりの水魔法をまるでダンスのように小刻みに放ち、踊るのだった


「そこまでだ、魔女!」


一体いつ以来だろう、人に話しかけられたのは。驚きこそしたがそれよりもあまりに嬉しく、舞い上がってその声の主を探したニンフは、驚愕した。

それは幼き時分、村にやってきた吟遊詩人らが気ままに歌っていた「勇者の歌」、それに出てくる人呼んで「勇者」。まさにそれ通りの姿をしていた


一瞬、どこか異国で流行っている「コスプレ」という奴かと思ったニンフだったが、すぐに思い直した。何せ遊びに来ているにしては雰囲気が重々し過ぎる


曰く、自分はいつの間にか「魔女」として世界に名を轟かしていたらしい。ニンフ、またはニンフ・ロードという名でこれまた勝手気ままな吟遊詩人が語り継いでいたらしい。全くもって笑える話だ、自分が何をしたというのだ

こんな辺鄙な雪国で誰にも迷惑をかけず生きてきたというのに何故剣を向けられなくてはいけないのか


「その首、頂戴致すっ!!」


勇者お決まりのセリフすらも、鼻で笑える代物に思えたのは……きっと歳のせいなんだろうな。ニンフは自嘲気味にそっと微笑んで、指を一つ振った


瞬間、水流が勇者の頭上を襲った。

流麗な剣さばきで、見事無から現れた大量の水を避け切った勇者だったが幾らか体から剣先まで濡れてしまった。

敗因を一つだけ上げるとするならば、きっとそれだろう

「魔女」は、もう一つの手の指を鳴らした。その瞬間だった


「な、なにぃっ!?」


勇者の身体が徐々に凍りつき始めたではないか。それもいやらしい事に足元から、徐々にゆっくり、ゆっくりと

既にニンフは勇者から興味を失い、自宅である巣穴に潜り込んでいってしまった。そして幾月程たち、外へ出たニンフは氷の彫像となった勇者を見て


死んだ目で小さく笑うのだった


▶▶▶


それから、ニンフの住む雪国は魔法使いを夢見て精進する魔術師らや、ニンフを打倒すべく集った戦士らが続々訪れる場所となった。

そしてニンフの知らぬ間に、その雪の地はニンフの信者と名乗る魔術師らと勇者を破った憎き水の魔女を打倒すべく憤る戦士らの戦いの場となった


すると穴蔵に籠るニンフは必然的に外へ出る時間が失われる。激減どころかほぼ皆無と言ってもいい程に、ニンフは外へ出なくなってしまった。まるで物置で一人静かに生きている時と同じように


だから、物置の時と同じようにすると決めた、最早躊躇は無かった。幸いにも自分の魔法は比類無き程の武器になった。


これで自分は、今度こそ自由になる!


そう決意したニンフは穴蔵から勢いよく飛び出した。まず目に入ったのは戦いの火で美しい白銀の景色が見るも無惨なまでに黒く汚れ、それがまるで今ここにいる全ての汚れに思えたニンフは心からの溜め息を大きく一つ、ついてから言い放った


「全員……、居なくなっちゃえ!!!」


その日、雪の国に大量の氷像が造られたのだと、これまた何処ぞの吟遊詩人が楽しげに語り回っていたとさ。


続く

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