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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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チヒロは魔法使い、です。

魔法使いには二つの種類がある。

この世に生を受けたその瞬間から魔法を自在に操る「先天性」

それと、生まれた時は何の変哲もない存在でも、ある日突然魔法に目覚める「後天性」。この二つだ

先天性と後天性、この二つの最も大きな違いと言えばやはり「外見の違い」であろうか。先天性は普通の人間、またはその種族の成長速度に沿って大きく、賢くなっていく。サシャやマナは先天性だ


ならば後天性は、後天性は端的に言うと成長がその時点で「止まる」のだ。魔法が発言したその、瞬間から体の発達が止まり、その姿のまま半永久的に存在し続ける。件のチヒロがそれに相応するのだが、彼女は見た目こそサシャと同様に15、6くらいの若さだがその実アレフの百倍近く生きている。いわば立派な魔法使い


そんな実に立派な魔法使い様は今、団子屋にて突然倒れたお客らの看病に勤しんでいた


▶▶▶


「ん、う、うぁ………?」


「あ、やーっと目が覚めましたか。おはようございますお客さん、大丈夫ですか?」


見知らぬ天井、聞き慣れぬ声。アレフの頭は寝起きという事もあり軽く混乱していた。取り敢えず自分が布団に寝かされている事に気付き、ゆっくりと体を起こす


「こ、ここは……」


「団子屋、の奥。ここは私が普段使っているお部屋ですよ」


「だんご、や……団子屋、団子屋ぁ。」


何度か同じ言葉を繰り返す。しかし何だか妙に頭がぼんやりとしていてどうにもハッキリしない。結局、答えが出るより早くその声の主が視界に入ってきた。団子屋の装いをしたよく目立つ「青髪青眼」の少女だった。歳は15くらいか?にしてもこの子は誰で、自分は何故ここに居るのだろう。というか仲間は何処に行ってしまったのだろうか


「あ、他の皆さんは隣の部屋ですよ。流石に男性とうら若き乙女をぴったり隣通しで寝かすのはどうか、と思いましてね……って聞いてます?そんなに私の名前が意外だったとか、まぁ確かにこの見た目で「チヒロ」っていうのも中々ミスマッチ感あるかもしれませんけど…………」


「君の、名前……?チヒロ……?」


そうだ、思い出した。確か自分はこの子の名前を聞いて何故か死ぬ程ビックリし……そして、いつの間にか意識を失ってしまっていた。成程、なるほど


「改めまして私はチヒロ、「元」魔法使いで今は団子屋の看板娘をしてるの、よろしくねお客さん!」


「…………マジか?」


この少女の目は嘘をついているようには見えない。いや、きっと自分はまだ寝ぼけていて意識もぼんやりしているんだ…………無理があるか、うん。既に意識の空は快晴、モヤも完全に晴れた。むしろ倒れる前の状態より体調は良いかもしれない


と、アレフが現実を受け入れ始めたその瞬間。目の前の少女、チヒロが隣の部屋と称した襖の向こう側から何か大きな物が跳ねたような音が響いた。その音の主が何か察したアレフは嘆息一つつき、今度こそかけ布団を退けて立ち上がった


チヒロがなんだなんだと慌てているのもそのままに、襖が突如勢いよく開け放たれる。居たのはアレフの予想通り

魔法使いであり世界一可愛い我が娘であるマナが居た。顔を見る限り少しパニックになっているらしい


「パパ、パパ!どうしよどうしよ!」


「落ち着けマナ、とにかくお礼を言いなさい。この人が俺たちを介抱してくれたんだ」


「うわっ、でたぁ!」


普通の子供で言うなれば夜、一人で用を足しに布団から出た時にお化けの類が目に入った時くらいのマナのビビり様だった。この子はじっさいお化け、またの名を幽霊、それに値する存在を見た時も毛ほども驚かなかったのだから、この子が恐がるのがどれ程珍しい事なのか察する所だ

と言ってもこれに関しては、自分の教育のせいなのかもしれないが……っと


「マナ、そんなに怖がるな。大丈夫だから」


「う、うぅぅ……でも、そのひと「すっごいつよいよ」。たぶん、マナもサシャもかてないくらいつよいもん……」


「え」

「いぇーい」


サ、サシャでも勝てない?いや、マナだけなら多少はまだ分かる。何せ彼女は若き天才である魔法使いであったとしても、まだまだ若い。長寿の後天性魔法使いやエルフにまだ勝てるとは思っていない。が、そのエルフですらこの青い魔法使いには勝てない、というのか


「あ、でももう隠居した身ですし。戦ったりなんてしませんよー?それよりマナちゃん、他の二人はまだ眠っているんです?」


「え、あ、うん……」


マナは曖昧に答えつつ、何故だか袖を引っ張って何かを意思表示してきた。なんとまぁ珍しい事に「抱っこして欲しい」との事だった。それ程この状況に恐怖を覚えているのだろうか


見た目より重いマナの身体を抱き上げ

片腕に腰を落ち着けさせる。いつの間にか成長したらしい、子供の成長速度とはかくも恐ろしい物だ


「お二人は縁側にでも出て外の空気を吸ってきて下さいね、私はお寝坊さんを起こしに行きますから〜」


そう一つ言って、チヒロは襖の向こうに消えていった。その足取りは見た目通りただの郊外の田舎に住む看板娘らしいものだった


▶▶▶


外に出て気付いたが、既に空は赤く染まり太陽は傾きつつある。冬季で昼が短いとはいえそれなりの時間自分たちは眠っていたのだと理解した彼らは寒空に白い息を何度か吐き出して、この状況を理解し落ち着くべく最後にもう一度、深ぁく息を吐き出した。二人分のソレはまるで綿雲のように大きく緩やかに交わり合い、心做しかマナの目から恐怖や動悸の色が抜けた気配がした


それを図ったようなタイミングで足音がアレフの耳に届いた。軽やかで、複数の足音だ。少なくとも自分よりずっと歳上の団子屋の主人と女将のは足音でないのは分かる

現れた集団の先頭は、意外にもリリだった。珍しいほどに明るい笑顔で手をブンブンと振ってこっちに近付いてくる


「おはよう、アレフさん!」


「あぁおはよう……って、凄いご機嫌だなリリ。良い夢でも見たのか?」


「それがね!私の────」


リリが言葉を言いきれなかったのは何も時間が止まったからではない。ただ単に後ろのサシャが突如リリの口をそっと塞いだのだ。リリはむぐむぐと何かを抗議しているがあいにく言葉になっておらず、その意味までは分からない


「……先に、皆でお礼を言いましょ?私たち、迷惑かけちゃったんだから」


その言葉には妙な迫力と……どこか寂寥感が含まれているような、そんな気がしたが、それについて問うより早くチヒロが口を開いた


「いえいえー!ここには滅多にお客さんも来ませんし、基本的に暇ですからこのくらい構いませんよー。お客さんはちゃーんとお団子とお茶を頂いてくれましたから」


「いいえ、ちゃんとお礼はしなくちゃダメよ。そういうのが世の中を上手く廻すのよ、でしょ?水魔法の先駆者、ニンフ・ロード……今はチヒロだっけ?」


ニンフ・ロード、その名を聞いた瞬間チヒロはビクリと肩を震わせ、顔から笑みを消し去った。元から商売用だったのか、サシャの一言でいとも容易く外された仮面の代わりに貼られたその表情からはまるで生気が感じられなく

暗く、何処までも暗く深いまるで闇のような目が見つめるのは誰でもなく


空間。空間そのものを見つめていた


「……随分と古い名前をご存知なんですね。エルフのお姉さん」


「貴女の事を記した本を一度目にした事があってね。偶然表紙に名前が書かれていたわ、ほーんとラッキーよねー」


「その本はもしかしなくても私が昔無くした日記ですよね。ザッと百年くらい前の事ですよ、盗まれたの……ほんと、ラッキーだったんですねぇ」


最初の方こそパチパチ、パチパチと小さな火花が散るだけの二人だったが少々口を挟まずに置いていたらいつの間にかごうごうと燃え猛る豪炎が二人を包み始めてしまった

それにサシャとチヒロの会話を聞くにだいぶ昔、それも自分がこの世に生まれ落ちるよりも前の話だろうが、どうやらチヒロの日記帳をサシャかその仲間が掠めとったらしい。全く、魔法使い相手に盗みを働くなんて正気の沙汰じゃあない。自分も全く人の事言えないので口にはしないが


にしても何故サシャはこんな空気を混ぜっ返すような事を言い出したのだろう。リリの言葉を遮ったのも不可解だし、自分らが外で一息ついている間に一体何があったというのだろう


とにかく、今たった一つだけ確かな事と言えば


「チヒロちゃん、晩御飯出来上がりましたよぉー。お客さんも連れてこっちにいらっしゃーい!」


喧嘩するにはここは場所が悪過ぎる。という事だ

興を削がれた二人の魔法使いはどちらともなく瞬きすらなかった視線のやり取りを止め、女将の声がした方へと足を向けて行った


残されたアレフとマナ、そしてリリも互いに顔を見合わせ、目だけで「い、行こうか?」と、静かに

その後を着いて行ったのだった。


続く

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