月明かりの下、一人と一頭。です
おはようございます
こんにちは、そしてこんばんは。本作の作者である「月見ヌイ」です
そして本作の奇特な読者様方の極一部はお気づきになられたかもしれませんが……なんと「異世界旅行は愛する娘と共に」がこの度100話目へと辿り着く事と相成りました。それがどうした、いや、めでたい。とてもめでたい
そもそも私、月見は大変飽き性な所があり私生活にしても物書きにしてもあまり長続きしない性分でございます。
そんな自分が大きな区切りの一つである「100話目」を迎えた、という事がどれ程に大きいか…………ま、それは読者様方の預かり知らぬ所でひっそりと喜ぶとしましょう。
どうでしょう、この中に一話目から淡々とこの話に付き合ってくれている読者様は居るのでしょうか……どうなんでしょうね、自分には確認のしようがありませんので「居ればいいなぁ」くらいにしか考えれ……あぁ、待って下さい。今コレを書いている時にBGM代わりに棒ポンコツ(高性能)ロボットなVTuberの方のアーカイブを聴いていたのですが、ちょっと可愛いが過ぎますね。思わず脳と共に語彙まで耳から溶け出てしまいました、あーもう無理マジしんどい
さて、不毛な小話はここら辺にして本編に戻るとしましょう。どうぞ、これからも彼らのお話にお付き合いくださいますよう
どうぞ、よろしくお願いします
▶▶▶
「……と、その後マスターさんがここ(教会)に連れてきてくれて、当時の司祭様に紹介してくれたんです。そうして、今に至る……というわけです」
タマはそう昔話を締めて、えらく不機嫌そうな顔で明後日の方向を見つめる自らの「恩人(馬)」の横顔、それから何故だかとてもホッコリした様子のそのお仲間さん達を順に見比べ、首を傾げる。自分の予想では、この自分とマスターとの馴れ初め話を話せばたちまちに彼女らは悔しげにほぞを噛み、なんなら泣いて教会から逃げ出すと思っていたのに……まぁ実際はそんな訳が無いのだが、恋は盲目。憧れの人(馬)にまとわりつく自分以外の女なんてまとめて敵にしか見えないのだ
「いやぁ〜……ふーん、へぇ〜」
と、誰よりもニヤニヤと目を細めてこの話を喜んでいたリリはあからさまに大袈裟な素振りでマスターに近づく。
その気配に感づいたマスターはより一層表情に浮かべた不機嫌さをより一層増して、その上で明後日の方向から明明後日の方向へと顔を曲げてしまった
「いやぁ、こんなマスターにもそんなホッコリする良い話があるなんてねぇ」
「いがーい!おうまさんかっこいい!」
残る二人も妬み恨みと言うよりかは関心や身内の過去に対する「喜び」。そんな感じの反応だった、おかげでより一層タマは首を傾げるのだが
と、そこへ教会の戸を叩く音が響き、一瞬にして会話が止まった。それまでマスターをいびっていた健康的な女子高生なリリですらも息を呑んで黙り込む。流石にここまでの旅路で色々学んだのかもしれない、その目はしっかりと怯えと警戒を携えた実に立派で矮小な旅人の目だった
そんな最中、タマはマスターの横顔をもう一度チラリと見、そして何かを察した様に無遠慮な足取りで戸へと近づいた。サシャもマナも心配気にその後ろ姿を目で追い、終いには飛び出しそうになったがそれはマスターが己の体を持って制する
(何するのよ!)
(まぁ安心しろよ。「アイツ」が来たってだけだ)
マスターはそう小さく呟いて、直ぐに元通りの場所に戻った。さもなくば連れとはいえ女の耳元で何かを囁く所をあのシスターに見られかねないからだ
さて、そんなシスター「タマ」は普段日中に訪れる参拝客にそうするのと同じような対応をとり始める。具体的には内側から戸を叩き、そして自らの名を名乗ってから
「貴方の名と、性と、職を言いなさい」
と、まぁ素性を探るような問をするのだ。ここで何かを渋るようなら容赦なく叩き帰す、嘘をついているようならこれもまた叩き帰す。しかし嘘をついていたとしても自分が気づけない程の「上手い嘘」なら受け入れて、この教会に向かい入れる。というルールを設けていた
これは先代の司祭が決めたわけでも、今、名前上でこの教会を管理するとある老父が決めた訳でもなく、たった一人で何年もこの古ぼけた教会を切り盛りするシスター「タマ」が決めた独自のルール。いわゆるスラムや汚れた道で野宿していた時に培った「騙される方が悪い」というシステムを丸ごと流用した形だった
さて、そんな訳で今回も例に漏れずそういったルールに基づいた質問をしたわけだったが、との向こうにいるであろう「男」の答えは実に単純明快な物だった
「アレフ、後は「前」に名乗っただろう」
たったそれだけ、一欠片も迷う素振りなど見せずに質疑応答は終わってしまった。ハナから来訪者の素性を割っていたとはいえ、些か肩透かしされた気がしないでもないタマは苦笑いの溜め息を一つ。それからゆっくりと戸を引いた
「もう少しぃ、面白い返しは出来ないんですかぁ?アレフさんー」
「悪いな、これが昼間ならもう少し頭も回るんだろうが」
開いた戸から顔を覗かしたのは、えらく野暮ったい瞼を抱えたアレフだった
彼は、そう言ってタマに自嘲混じりの笑顔を向け、それから自らの「身内」の面を順に見た。その目は既に笑みなんて物を含んでおらず、怒り或いは殺意を感じさせるソレだった
「パ……パパ……?」
「え、えへへ……あの、勝手に外を出歩いたのは謝るからさ……だからそんな怖い顔しないでよ、ね?ね?」
「……お前やマスターは充分大人だ。だから夜に出歩こうが何だろうが大概文句は言わないさ。だけどな…………。」
アレフはそこで区切ると、マスターの背に隠れてそーっと様子を伺っているマナとリリを見つめる。もしもアレフが魔法を使えるならばきっと、その背中にはメラメラと怒りの炎が見え隠れしていた所だろう
そして二人は言葉の無い内にアレフの止めた言葉の先を察する。つまる所
「未成年は勝手に出歩くな」と、いう事だろう……それは単純な怒りではなく焦りや恐れその他諸々が入り交じった物だという事も「未成年ながら」理解した。そんな胸中から出てくる言葉もまた単純明快なものだった
「「ごめんなさい」」
「……帰ろう、そして明日、今度は明るい内に来るとしよう。それで良いか?」
良いか?と敢えて疑問符にしたのはアレフの優しさであり同時に、良いな。と言い切られるより余程強い意味を持っているのだろうな、とマナは自分でも意外な程に冷静な脳内で思った
目頭は熱くなり、先程までは微塵も無かった親に対する「罪悪感」に胸を苛まれ終いには目端に涙すら浮かび始めたというのに
もしここで、アレフが優しい笑みでマナの小さな手でも取ろうものならその涙はひとたまりもなく流れ落ちていただろうが、幸運にもアレフはそれ以上マナやリリを責める訳でもなく、その代わりに視線をサシャとマスターの「大人組」に向けた
「俺はお前らに置いてかれて街をぶらついてたら偶然こいつらに会ったんだ。それでここまで案内した……言っとくけど俺は謝んねぇからな」
仮にもアレフは世界に名高い「大泥棒」であり、そして自らの特技の一つに「目で中身を読む」というのを自称している程であり、その特技は馬相手にしても決して例外では無く、マスターの言葉に嘘はなく、船に置いて行ったという事実もまたアレフの視線を別の向きに逸らす事に大きく起因していたと言える
そうして、アレフが向いた「別の方向」その先にいるのは額とこめかみ、その他諸々に冷や汗をじっとりと掻きながらキョロキョロとまるで助けを求めるように視線を彷徨わすエルフの姿だった。その名をサシャという
「あ、あの……言い訳を」
「許可する」
既にマナとリリはアレフに手招きされてその背中に潜んでいる。もうお前の仲間は居ないぞというアレフの暗な策だ。しかしサシャは既にアレフの今まで見たことの無い静かな怒りに気圧されて軽く気が動転してしまい、冷静な判断が出来なくなっている。おかげでマナですら耐えた涙を今にも垂れ流してしまいそうだ
「あの、ね」。という言葉の切り口から始まったサシャによる長めの「言い訳」は敢えて書かないでおこうと思う。何故なら途中から本当に涙が零れ始め、嗚咽混じりの言葉となってしまいアレフ含めその場の誰もがその言葉の半分も内容を理解できなかったからである
結局はサシャも最後に「勝手に行ってごめんなさい」、という素直な謝罪の言葉で締め。終始黙った上無表情でサシャの言葉を聴いていたアレフはそれを受け、それでも尚黙ってサシャを見つめていた
「う、うぅぅ……」
サシャは思わず呻いてしまった。いつかのドワーフの街では自分がアレフを圧倒していたというのに、時の流れと言うのはあまりにも残酷なものだとサシャは心中で嘆いた。流石のアレフもそこまで鬼ではないのか、溜め息を一つ付いて一部始終を静かに見守っていたタマの方を顔だけ振り向き
「夜分遅く悪かったな。また明日の昼頃に出直す……勿論この馬も連れてな」
「構いませんよぉ、ただでさえこんな古い教会です。滅多に訪れない喧騒に包まれて私も楽しかったです……ですので、約束ですよぉ?」
約束、というのは明日も来るという所についてだろう。それも馬、マスターを連れて。というのが条件で、だ
アレフはそれに無言で頷く。それこそがその約束を大切にするという意志を示す最高の儀だと彼はそう思った
リリもまた、笑顔で頷いた
そうして、彼らは静かに教会を後にした。アレフが入ってくる時もそうだったのだが大切なドアが壊されてしまっているので何かを立てかけておかないと勝手に開いてしまうという有様だ。
それに気づいたアレフは、この問題の首謀者であり「大人」であるサシャに向けて
「明日の朝は飯抜き」
というサシャにとって死刑宣告にも近い言葉を放ち、そのまま丘を下って自らの泊まる宿へと歩いていってしまった。
サシャの号哭をBGMに、タマとマスターはまるで別れを惜しむカップルのように夜月に照らされながらお互いを見つめあっていた。長い間そのまま黙っていた一人と一頭だが、先に口を開いたのは人の方だった
「アレフさん、変わりましたねぇ。前はもっと……そう、ピリピリしてました」
「今じゃただの腑抜け親父だ。全く、情けない相棒だぜ…………。」
怒ったように見せながらも、終始安堵と心配の色をその目に映していた男の顔を思い出しながら一人と一頭は声を抑えて笑い合い、そうしてまた人の方が口を開く、今度はどこか哀しそうな別れを惜しむような、そんな笑みでだ
「また、明日」
「あぁ……ま、気が向いたらな」
そう、BGMが飯抜きと言われて謝罪を泣き叫ぶ女の声じゃなければきっとロマンティックな一幕だったのだろうと
タマは小さく微笑むのだった。
続く




