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おんりめもり-only the momery-  作者: Ppoi
only the momery
9/25

Only the memory 9

 あの壁に囲まれた村から二人の旅は、始終無言だった。


 あれからめもりは何事もなかったように振る舞ってはいるが、元気がない。


 そんなめもりに声をかけられないまま、ビットは寝てしまい忘れ、どんどん時間だけがたっていった。忘れなくても声はかけられなかったと思うが。


 二人は、重苦しい空気に耐えながら旅を続けていた。


着いた街に人影はなかった。


「すいぶん荒廃した街だね」


「ああ」


 めもりは素っ気なく返事をした。めもりは、まだ立ち直れないでいた。







「すごい、こんなところが残ってるんだ」


 ビットが驚きの声を上げた。


「お金を入れると料理が出てくるんだね」


 その村は、全てが機械仕掛けで出来た村だった。


「うわっ、これ、腐ってる」


 ビットが声を上げた。


「覚えている人がいないから、機械に異常が出ているんだ」


 めもりは前の村からのショックから立ち直ってはいなかったが、逆に冷静だった。


「管理する人間がいないと、正常に動かないんだ」


 めもりは興味深そうに機械の構造を調べていた。


「修理するにしても道具がいるな」


「なさそうだね」


「ここに何かある」


 それは、とてもほこりをかぶっていた。工具と一緒に本のようなノートのようなものがあった。


「これは、日記?」


 めもりはぱらぱらとページをみた。最後、メンテナンス、機械の町、などという単語が見える。機械のメンテナンスノートに少しだけ、これを書いた人の心が書いてあった。


「これは、この町で生きていた人の日記?」


「忘れてしまうけど、僕も聞いておきたい。メモリ、声を出して読んで」


「ああ」


『私は、代々この街の技師をしている人間だ』


『物心ついてから書く。忘れるようになったからだ。皆、寝ると全てを忘れるようになった。だが、私は、メンテナンスをする機械のことだけは忘れなかった。そのため機械は問題なく、きちんと動いていた。動いていたが、使う人達が使い方を忘れてしまう。そうすると機械はただの鉄の塊だ。この町は暮らしにくいと、たくさんの人が近くの隣町に引っ越した。ここには私に一人になった』


「この人は、この町の最後の人間だったんだ」


「興味深い。なぜ皆と同じように、この町を捨てなかったんだろう」


「きっと、彼なりの理由があったんだろうね」


『機械が生産を続けているため、食料の心配は一切ない。でも、なぜだろう、この虚しさは』


「生活ができても、一人じゃさびしいよね」


「この人も俺と同じ孤独を抱えていたのかもしれないな」


「覚えてるってことは孤独なのかな?」


「孤独……ビットも少し覚えてるって言ってたよね。それは孤独?」


「僕の場合は罪悪感しかない。少しは覚えていられるのに、何もできないなんて、覚えていない人に対して辛い」


「ビットは難しいことばっかり言うよね」


「そうかな」


「うまく理解できないよ。ビットは頭がいいんだね」


「覚えていられないのに、頭がいいは違うと思うよ」


『機械は半永久的だが、私の身体はもうすぐ果てるようだ』


「この後は終わり。あまり書いてない。書くことに興味がなかったのかもね」


「彼が興味があったのは、機械だろうからね」


 ビットは何気なく言う。無感情に、無感動に。


「もし、覚えている世界だったら、彼は家族に囲まれて、一人で死ぬなんてことはなかったかもしれないね」


「ビット……。それは……」


 めもりはビットの顔と言葉を聞いて、悲しくなった。顔を歪める。


「僕には、その人にとって何がいいか悪いかはわからない。けど、僕にとって、この世界は、記憶がある方がいいと思うよ」


 めもりは、ビットの強い決意に怯えていた。自分が決められないから。


「俺にはわからない。最初は記憶がある世界がいいに決まってると思った。でも、いろいろな人を見てきて、何がいいか、悪いか、わからなくなった。本当に、今あるこの世界を壊していいのか、それを判断するためには、まだ何かが足りないと思う」


「何が足りないの?」


「こうなった原因かな。ある日突然、記憶できなくなった、という印象がある。どうしてそうなったのか、どんな意味があったのか、俺は知りたい」


「その意味を知ったら、メモリは決断できる?」


 ビットは、珍しく真面目で真摯な顔だった。


「決断がどういう意味を持つかはわからないけど、できることはすると思う。大体、俺に何ができるかわからないじゃないか」


「僕には、メモリが何かしてくれるんじゃないか、という確信がある」


「その確信は、俺にはない。だから、わからない。不安にもなるし、迷うよ」


 メモリは下を向いて、そして、ハッと気付く。ビットを見た。


「……それが、覚えてるってことなのかもしれない。俺だけが特別じゃないくて、過去の人たちは皆そうだったのかもしれない」


「そうかもしれないね」


 ビットはそれに関しては興味がなさそうだ。彼には、覚えているということが理解できない。理解できないことを理解するための経験をすることはできない。だから、彼はそれに関して無関心なのだ。


「だいたい、なんでビットが俺がなんとかするっていう確信を持ってるかがわからないよ」


「信じたいだけかもしれない。でも、メモリならなんとかしてくれるって信じてる。僕はそれを迷ったりしない」


 めもりは、この時のビットの笑顔を一生忘れられないと思った。


「信頼って重いものなんだな」


「メモリは責任を背負いすぎだよ」


「そうかな?」


「嬉しそうだね」


「今までで一番嬉しいかもしれない」


 めもりの笑顔はまぶしかった。


「俺は、これからどうしたらいいか、わからない。どうすれば、忘れない世界になるのか、それが正しいことなのか。でも、俺は俺にできる精一杯のことをしようと思う」


 めもりは吹っ切れたようだ。


 これから、めもりの旅はまだまだ続く。

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