第9話 儀式
翌日、“友人の契約”の儀式が行われる事となった。
とは言ってもそれほど大それたことではない。
土鬼族の長の家に主だった者数人を呼び、魔法陣の中に座ってもらっていた。
『汝等土鬼族を我が友とし、互助の関係となる事を認める。』
魔法陣には魔人語でこのような事が書かれていた。
ボクは魔法陣の周りに数本の蝋燭を灯し、中心に自らの血を数滴垂らした。
その周りには人数分の空のグラスが置かれていた。
暫くすると魔法陣が発光し、空のグラスに青く光る液体が溜まっていく。
これは契約を行使する者の血と魔力より生成されたもので、被行使者がこれを飲むことにより契約が成立するのである。
「コ、コレ、ノンデモダイジョウブナノカ?」
ヒスイが青く光る液体を訝し気な表情で眺めた。
「んー、味は保証しないよ? あ、光が消える前に飲まないと効果ないからね。」
ボクはニヤッとしながら答えた。
「コレヒスイ! 早ク飲マンカ。」
「イテ! ブタナクテモイイジャナイカ!」
親父じゃない人にぶたれたわけじゃないんだから、まだいいじゃないか?
ヒスイくん。
転生者であったアスカに教えてもらった物語の事を少し考えてるうちに、土鬼族の面々は液体を飲み干したようだ。
「ア、アッマー! ナンダコレハ。サトウミタイダ。」
ヒスイは顔をしかめていた。
どうやら凄く甘かったようだ。
「シカシ、何モ起キテ無イヨウダガ…?」
「あー、効果が出るのは明日の朝ですね。皆さんには申し訳ありませんが、今夜はボクが魔力を込めた魔法陣があるこの部屋で過ごしてください。ボクは隣の部屋にいますからね。」
契約の魔法はすぐに効果を発揮するものとしないものがある。
この手のものは後者だ。
「ま、朝までかかるってことゆっくりしてると良いですよ。」
ボクはそう言って隣の部屋に移動した。
さて、最近色々あったし、儀式で魔力を消費したからボクもゆっくり寝よう。
そして翌日。
「おはようございます!」
ボクはドアを開け、部屋に入った。
「おお、リディ殿!」
「えっと…?」
目の前には白髪の初老の男が立っていた。
「あ、族長様ですか? 随分変わられましたね。」
「おお、そうかのう。」
長がにこやかに答えた。
皮膚の色や耳の形など小鬼の特徴を残していたが、知的なおじいさんと言う見た目だ。
他の土鬼族も背が伸びたりして逞しそうな感じになったり、女性は美しく変化していた。
それ以上に変化したこととしては、彼らの言葉遣いである。
彼らは人鬼に進化した時に言葉を話すようになったが、更なる知性を授かったようだ。
あ、そういえばヒスイはどうなっただろう?
ボクはヒスイを探した。
すると…
「リ~ディ~…! これはどういうことなんだ~~!?」
声が聞こえた。
少し可愛らしいショタ…もとい、少年声。
ボクは声のした方を振り向いた。
…ちま!
実にこの言葉が当てはまる可愛らしい子が立っていた。
まさに男の娘!
「ぷ…! 君、ヒスイ? あはは!」
思わず吹き出してしまった。
ヒスイは顔を赤くしてぷるぷる震えていた。
彼は進化したのだろう…か?
「わ、笑うなよ! これはどういうことなんだって聞いてるんだ!」
ヒスイがボクの両腕を掴んで怒鳴った。
「可愛らしくていいじゃないか? ボクは好きだよ?」
ボクはニヤニヤしながら答えた。
「か…!? かわ…!!??」
ヒスイがボクの腕から手を放し、自分の頬を抑えた。
赤面して恥ずかしがる姿も何だか可愛い。
「うーむ、我が息子は進化したのかのう…?」
長は口髭を触りながらため息をついた。
「あ、ああ。皆さんを魔力検知で探らせて貰いましたけど、ここにいる皆さんは最上位人鬼に進化してるみたいですよ。言葉遣いが流暢になってますし、内包している魔力も高くなってるみたいですよ。」
「ふうむ…」
土鬼族はいまいち実感が湧かない様子だ。
「ただし、高まった力をどう使うかは皆さん次第です。各自で考えてくださいね。」
そう言った時、ヒスイが服を掴んできた。
「俺は、剣をもっと上手く使える様になりたい。なれるかな?」
「うん。ヒスイならなれるよ。今度一緒に練習するかい?」
「本当か? やったぁ!」
ヒスイがぱぁーっと明るい表情になった。
うーむ、やっぱり可愛い。
この進化は実にアタリだ。
ボクはヒスイの銀髪をくしゃっと撫でながらそう思った。