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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第8章 ビエルカ大陸・皇帝との対峙
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番外編 僕はココロの鍵を開ける(7)


「フム、ここは怪しさ満点な場所だな。」



ロイが呟いた。

ここはドールニック辺境伯領の地下に広がる空間だ。


…その入り口は僕が発見した。

僕の能力(スキル)である気配を消す力を発動し、ドーニックの館の周辺を探っている最中に見つけたのだ。

それは一見、地下水道施設への入り口に見えた。

確かに潜入してしばらくはそのような感じだった。

しかし次第にそれは不自然であることに気が付いた。

確かに傍らには水は流れているのだが、これは何か変だ。

ドールニック辺境伯領の家々を少し見たが、この国の各家庭には水道は無い様だ。

この街の民は共同の井戸から水を得ていた。

この水道施設はドーニック辺境伯の館専用のものと見ることもできるが、それにしては大掛かりすぎる。



「ロイさん、ここって…」

「ふむ、お前は感じているかは分からないが、奥からは魔力を感じる。この奥には魔物(モンスター)がいるようだ。」

「ま、魔物(モンスター)ですか!?」

「ああ。…ところであと何分だ?」

「ア…! あと1分ありません。」



僕の気配を消す能力(スキル)は連続使用5分しかもたない。

そしてインターバルは3分必要だ。



「そうか、それではいったん休憩しよう。ちょうどそこに横穴があるな。」

「了解しました。」



僕達は水路の脇の通路から横に向かっている横穴に向かった。

横穴の奥には小部屋があった。

部屋の隅には資材置かれているから、この地下水路に設置された倉庫なのだろう。



「よし。一旦能力(スキル)を解除していいぞ。」

「は、はい…」



僕は魔力の流れを解除し、小部屋の奥に腰を下ろした。

ふーっと息を吐くと漸くリラックスすることが出来た。

前述の通り、気配を消す能力(スキル)は連続で5分しか使うことが出来ない。

ここまで5分おきに休憩しながらここまで進んできた。



「疲れたか?」

「え、ええ…。ロイさん、魔物(モンスター)が出るなんて言うから…」

「くくく。でもお前はナイザール王国の城に忍び込んだんだろ? そういう度胸があるのに、何をビビってるんだ?」

「ええ。でも…、相手が人間か魔物(モンスター)じゃ全然違いますよ。魔物(モンスター)は言葉が通じないじゃないですか。」

「はは、そりゃそうだ。」



ロイが豪快に笑った。

前世には魔物(モンスター)なんてものは存在すらしない。

言葉が通じない敵程恐ろしいものは無いのだ。



「…む。静かに…!」

ロイが僕を手で制した。


「し、喋ってるのはロイさんじゃないですか!」

「良いから静かにしろ。言葉が通じそうな輩が来ているようだぞ。」

ロイがそう言いながら剣を抜いた。

僕はそれを見て顔を強張らせた。


そういえば先日、僕達はドーニック辺境伯の手の者に襲われたのを思い出した。

言葉が通じたとしても、彼等は僕達を殺そうとした。


「落ち着け。幸いにも奴等は俺達に気付いているわけでは無さそうだ。おそらくは定時パトロールと言ったところか。」

「・・・」


僕は押し黙った。

その“奴等”は僕達に気付いていないとしても、すぐにここへ来るだろう。

僕の能力(スキル)はまだ使えない。

だから気配を断ってやり過ごすことは出来ない。

いくら僕の能力(スキル)が自分達の存在を認識の外へ持っていけるとしても、インターバルの間は何もすることが出来ないのだ。



「さて、どうする?」

「え…? どうって…?」

僕はロイの顔を見た。


「奴等はもうすぐここに来る。お前の能力(スキル)が使えない状況であれば、敵は排除するしかない。」


至極真面な見解である。

このままでは僕達は見つかってしまう。

見つかるのが避けられないのであれば、その敵は倒すしかないのだ。


「俺ならば、敵は殺す。お前ならどうする?」


この人は酷い人だ。

恐らく、この人に比べれば迫りくる敵はそれ程脅威ではないのだろう。

だがこの人はその選択を僕に迫ってきたのだ。

恐らく僕の覚悟を試しているのだ。



「・・・」



僕は押し黙った。

僕の“前世”、日本では(突然の事故などは別として)命の遣り取りをすることは無い。

僕の様に育児放棄(ネグレクト)に遭う例もあるが、普通の生活を送っている人ではまずない事だ。

だがこの世界は違う。

命は簡単に失われる。

一つ選択を間違えば、手練れの戦士であっても死ぬかもしれない。

甘い選択は、身を滅ぼす。

ロイはそれを言いたいのだ。



「僕は…」

僕は俯いた。


「早くしろ、近づいてきたぞ。」

ロイがせかしてきた。


「僕は、できるなら、誰も殺したくない。」

僕は声を振り絞った。


「あ? てめえは何を言ってるんだ?」

ロイが明らかに不機嫌な声になった。


「ロイさんが怒るのも分かります。それでも僕は…」



無益な殺生などしたくない。



「フン…」

ロイは剣を構えながら小部屋から出た。

僕は後を追った。

そこには2名に敵兵がいた。

突然現れた僕達に対し敵は一瞬面くらったような表情になったが、すぐに戦闘態勢を取ろうとした。



「は…!」

ロイが一気に前に出た。



ガキィィン!



剣と剣がぶつかる音がした。

電光石火とも言える攻撃に、敵兵の一人は防ぐのがやっとだった。



「ぐふ…!」



そしてその敵兵は苦しそうな声を出しながらその場に崩れ落ちた。

いったい何が起きたのだろうか?

僕は倒れた敵兵を見たが、何が起きたのか全く分からなかった。



「な、なに…!?」

もう一人の敵兵は剣を構えながら後ろに下がろうとした。



「お前達は運が良いぜ。俺の仲間がお前達を殺したくないんだとよ。」



その言葉を聞いて僕はロイの背中を見た。

背中からは表情を伺い知ることが出来なかった。

そしてもう1名の敵兵もその場に倒れた。

血を流すことも無く。



「フン、俺も甘いねぇ。だが常にこうできる訳じゃねえってことは認識しておくことだな。」

ロイは剣を鞘に納めた。

その言葉は僕に言っている言葉であることは間違いない。



「すみません、ロイさん…。ありがとうございます。」

僕は少し頭を下げた。


「柄じゃねえって。だがさっき言ったとおりだ。いつもできる訳じゃない。やべぇ時に、敵に容赦するわけにはいかねえからな。」

「は、はい…!」



僕の声を聞いて、ロイはぼりぼりと頭を掻いた。



「さて、もう能力(スキル)は使えるな? 準備出来たら縛ったら先に進むぞ。」

「は、はい! 分かりました。」



僕はもう一度頭を下げると、ロイに従い出発の準備を始めた。










































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