第80話 王との謁見?
「荷物良しっと。」
ボクは魔法袋の中身を確認した。
食料・衣服・簡易テントなど…。
必要なものは全て入っていた。
「キャハハハ!」
近くではヒスイが楽しそうな笑い声を立てていた
傍らには1時間程前に訪ねてきた男の子がいた。
ヒスイはこの男の子と遊んでいるのだ。
数名のお付きの人物が一緒に来ていたことから、この男の子はそれなりの名家の出であろう。
しかし今はこの部屋には何故かそのお付きの者達がいない。
…まぁそれ程信頼されているという事なのかもしれないが。
「ははは、楽しそうで何よりですな。」
「あ、エリクさん。お疲れ様です。」
この館のエリクが部屋に入ってきた。
「ご出発の準備は出来ましたか?」
「はい。馬車まで貸していただけるそうで…」
「ええ。アルストロメリアの歴史の影たる、旧リンネの探索を手伝っていただいた御礼でもあります。国王陛下が直々に申し付けられました。」
ふむふむ。
旧リンネの探索、そしてマクシミリアン帝の討伐はこの国にとっては非常に大きなものであったようだ。
「そう言えば、ボク達の出発前にその国王陛下に謁見させていただけるとか…」
「ええ、その通りですよ。…国王陛下は既にお見えです。」
「…へ?」
ボクはきょとんとした。
「国王陛下…!」
エリクがヒスイと遊んでいた男の子を見た。
ま、まさか…!?
「ああ…、エリク。ご苦労だね。」
男の子が振り向いた。
エリクやその後ろにいた者達が男の子の前で跪いた。
「え、ええええ!?」
なんと、この男の子がアルストロメリア王国の国王だったのだ。
―――
パトリック・フランツ・アルストロメリア。
これがこの男の子、アルストロメリア王国国王の名前だ。
確かに高貴そうな服装ではあったが、うちのヒスイと無邪気に遊んでいたあたり、まったく国王には見えなかった。
「これは国王陛下とは知らず…」
ボクは傍らのヒスイと共にペコっと頭を下げた。
「良いんだよ、リディ殿。私も久しぶりに楽しく遊ぶことが出来た。ありがとう、ヒスイ。」
パトリック王が笑顔で答えた。
「えへへ、俺も楽しかったよ。パトリック!」
まったくこの子は…。
でも前からそうだからどうしようもないか。
「さてリディ殿。貴女方はエリクと共に旧リンネの謎を解き明かしてくれた。そればかりか、かつての皇帝マクシミリアンを討伐してくれたと聞く。マクシミリアンをそのままにしていてはこのアルストロメリア王国ばかりか、世界の脅威となっていたと言う事だったな?」
「その通りでございます。マクシミリアン帝は悪魔の所業にて、身を腐らす瘴気を生み出しておりました。」
エリクが補足の説明をした。
「いえ、ボクは大したことは…」
ボクは大それたことをしたつもりはない。
単に仲間が危険に晒されてたから、そうしただけだ。
「それでもお陰で我が国が救われたのだ。国の長として、礼を言わねばならない。」
パトリックが一礼した。
若いながらも、そのあたりの度量があるようだ。
「馬車を用意させてもらったのは、ささやかな例だ。本当は我が国の衛兵を護衛任務に付けさせてもらいたかったものだが…」
パトリックがボクと仲間を一瞥した。
「エリクの報告を聞く限り、貴殿等には護衛は不要と感じたのでな。」
「それでも馬車はとてもありがたいです。ボク達は西に向かって旅を続けなければならないので…」
「貴殿等は確かエレノオール大陸を目指しているのだったな。」
そう、ボク達はまだまだ旅を続けなければならない。
このアルストロメリア王国はまだビエルカ大陸の道半ばと言ったところだ。
「実は当初はバルデレミー商会の隊商と一緒に行動していたのですが、事情があって別行動になってしまいまして…。ですから馬車を出していただいたことにとても感謝しています。」
「そう言っていただけるとありがたいことだ。」
その時パトリックの側近がやってきて、何か耳打ちをした。
「…すまない。私としてはもう少し貴殿等を話をしたかったのだが、そろそろ公務に戻らないといけないようでね。ここで失礼させていただくよ。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「パトリック、ばいばーい!」
ボク達は改めてパトリックに礼をした。
パトリックは笑顔を振りまきながらその場を後にしていった。
「おーい、こちらの準備はできたぞ。」
少しして、外で出かける準備をしていたリシャールが戻ってきた。
「ああ、こちらも準備が出来た所だよ。」
「しかしさっき出て行った子供、あれこの国の国王だったんだってな。」
「うん。ボクもびっくりしたよ。ヒスイったら、全力であの子と遊んでたし。」
「別にいーじゃん!」
ヒスイがぷくっと頬を膨らませた。
「ああ、それと…」
リシャールが何かを言おうとしているようだ。
「リシャール?」
ボクはリシャールの顔を見た。
「あのパトリック王だがな、少し気になることを言っていたんだ。」
気になること? 一体何を言っていたというのだろう…。




