第75話 そして決着へ(2)
「グワァァァァァァ!!!」
マクシミリアンの叫び声が響いた。
最初に命中したのはシルビアの絶対零度だ。
マクシミリアンの体は再び極低温に曝され凍結し始めた。
この魔法はマクシミリアンにある程度のダメージを与えられるのは実証済みだ。
だが決定打にはならない。
「く、くそぉぉぉぉ!」
マクシミリアンは足掻いた。
“皇帝”の目の前には光を纏う、闇の矢が迫っていたからだ。
相反する属性の魔法。
それ程攻撃範囲が広くないものだが、威力が凝縮されたものだ。
カァァァッ!!!
眩い光と共に矢が命中した。
マクシミリアンの体を蝕む光と影。
マクシミリアンは自らに刺さる矢を引き抜こうとした。
「させぬ! くらえ!」
何と王国兵のレオンが無詠唱で魔法を唱えた。
雷撃魔法だ。
放たれた雷がマクシミリアンに命中した。
ていうか、君魔法使えたの…?
「グォォォォォ!!!」
マクシミリアンが再び叫び声を上げた。
矢を引き抜こうとした手が離れた。
そして絶対零度によりその手も凍結した。
「先程、奴は魔力の増幅で凍結を破って見せた。今回もそうするだろう。」
リシャールが言った。
しかしマクシミリアンには相反する光と闇属性が凝縮された矢が突き刺さっている。
その反発力は凄まじい。
「…つまり奴は自らの魔力の増幅と共に強大な反発力を、体の中から味わうことになるだろう。」
動きと止めたマクシミリアンの体が発光し始めた。
間もなく彼の体は炸裂することとなる。
「みんな! 部屋の外へ退避だ!」
ボクは仲間達に叫んだ。
魔力の炸裂もそうだが、マクシミリアンの体に残された瘴気がまき散らされるかもしれない。
ボク達は王の間を出て階段下に避難した。
そして部屋の中が眩い光に満たされた。
―――
王の間の光が落ち着いた頃、ボクは警戒しながら再び部屋の中に入った。
スペクトルに貸与していた魔眼を“回収”しその力を使用しながら、だ。
マクシミリアンはそこに倒れていた。
彼の体は胸部より下が完全に消失していた。
残されていたのは頭部から右肩、右腕にかけてのみだ。
どうやら瘴気は光の魔力で打ち消されていたようだ。
「クク…、ククク…」
なんと、マクシミリアンはまだ生きていた。
普通であれば生きているはずのない状態だというのに…。
「よもや、この余を打ち倒す程の者達だったとはな…」
マクシミリアンが右腕で残された体の部分を起こそうとした。
だが力を加えた部分の筋繊維が断裂した。
体を起こすことは叶わないようだ。
「余は長き時の前、衰退した国を再興しようとしたのだ…! その為に魔の技にも手を出した。それの何が悪いと言うのだ…!?」
マクシミリアンが叫んだ。
最早悲しい叫びでしかない。
「…しかし、その為に帝都は滅びました。貴方様の瘴気で、この町の住民は全滅したのですぞ。」
エリクだ。
いつの間にかエリクが近くまで歩いてきていた。
「き、貴様は…?」
「僕はエリク・スラーデクと申します。種族は人鬼ですが、アルストロメリア王国の代議員を務めています。」
「アルストロメリア…王国だと…?」
「ええ。僕にとっての国はそこに住む民です。陛下にとっての国はそうでは無いのでしょうが、僕にはその考えは理解できませんな。」
エリクの言葉に、マクシミリアンが視線を下げた。
「では陛下、閉幕しましょう。これでアルストロメリア帝国は滅びました。」
「ククク、まさか人鬼風情にそのような事を言われるとはな…。カカカ、カーハッハッハ!!!」
マクシミリアンの笑いが響いた。
その目には涙が浮かんでいるように見えた。
そして“皇帝”の体が完全に崩れ去った。
かつての“大帝国”は完全に崩れ去ったのである。




