第73話 光明
(右よ!!)
頭の中にスペクトルの声が響く。
ボクの魔眼を移譲されたスペクトルが的確に敵の瘴気を見切った。
ボクはスペクトルの声に従うだけだ。
「はぁぁぁ!」
ガキィ!!!!
金属と金属が交差するような音が響いた。
硬い!
マクシミリアンの身体硬化の能力だ。
これは厄介な能力だ。
だが金属生命体の魔物以外は硬化できる箇所は一部分のハズだ。
先程のアダルベルトの戦闘では全ての攻撃をこの能力で防いでいる様に見えたが、それはおそらく硬化させる箇所を高速で移動させているのだろう。
「(スペクトル、同時に敵の魔力の移動を感知できるか?)」
ボクは念話でスペクトルに話しかけた。
(ええ、大まかならね)
「(じゃあ頼む。敵の身体硬化の場所を見極めたい。)」
ボクはスペクトルとやり取りをしながら戦いを続けた。
幸いにもマクシミリアンのスピードはそれ程速くない。
ボクの今の状態ならついていくことが可能だ。
(リディ!その剣が向かう先、左腕が硬化されているわ!)
スペクトルの声だ。
その声の通りならば、このまま剣を振るっても防がれる。
しかしこの剣筋を変えることが出来れば…!
「うぁぁぁぁ!!!!」
ボクは声を上げながら魔力を巡らせた。
剣も持っているボクの右腕は、ボクの魔力で形成されている。
つまり魔力を変性させれば形状を変化させることも可能だ。
ボクの右腕は変形し、剣筋が大幅に変化した。
バシャァァ!
剣がマクシミリアンの体を捉えた。
やはり硬化されていない部分は斬ることが出来る。
右の肩口から血が噴き出した。
「ち、馬鹿な…!?」
マクシミリアンが左手で傷口を押さえた。
(リディ、下がって! 傷口からも瘴気が漏れ出ているわ)
ボクは後ろに飛んで距離を取った。
「ふぅふぅ…」
ボクは息を整えた。
ダメージを与えることは…出来ているはずだ。
「くくく…、今のは、中々のモノだ。」
マクシミリアンが不気味な笑みを浮かべた。
右腕を後ろにし、攻撃の構えをしている様に見える。
そして次の瞬間、その右腕を前に突き出した。
ゴォォッ!
マクシミリアンが物凄い轟音とともに攻撃を繰り出した。
ボクは一気に上空に跳躍した。
しかしこの攻撃はボクだけを目標にしたものでは無かったようだ。
ボクは後ろを見た。
視線の先には仲間たちがいた。
「みんな避けろ!!!」
その声を受け、ボクの仲間は即座に行動を起こした。
リシャールは自前で何とかなる。
シルビアは難しいだろうが、そこはヒスイがひょいっと体を担ぎ上げてくれていた。
よし、仲間は大丈夫だ。
だがエリク達が問題だ。
エリクはレオンが小脇に抱えて何とか回避しようとしていた。
だが王国兵の内2名が攻撃に巻き込まれてしまった。
直撃はしていないようだが。
「あああああ…!」
「た、助けてくれぇ…」
2名が苦しそうに助けを求めていた。
…どうやらあの攻撃には瘴気が含まれていた様だ。
(…あの二人には触れては駄目よ! 体の中から瘴気に蝕まれている…!)
スペクトルが警告してきた。
「みんなその二人に触れるな! 瘴気のダメージを受けている!」
ボクはレオン達に怒鳴った。
「し、しかし…!」
レオンがすがる様な目でボクを見てきた。
「(何とかならないのか?)」
(瘴気の影響を受けている部分を斬るしかない。けど、あの二人はもう駄目よ…)
そうしているうちに二人の体が崩れ始めた。
「うわぁぁぁぁ…」
彼らは声にならない声を上げていた。
彼らは生きながら体が腐っていく。
まさに生き地獄だ。
「ク…!」
レオンが苦渋に満ちた表情を浮かべた。
それはそうだろう。
自分の仲間たちが目の前で仲間が地獄の苦しみを味わっているのだから。
そして、二人は物言わぬ姿になり果てた。
「お、おのれぇ!!!」
レオンは傍らにエリクを下ろし剣を抜いた。
今にもマクシミリアンに飛び掛かりそうな勢いだ。
「レオンさん! 落ち着いてください!」
ボクは何とか諫めようとした。
「奴に仲間が殺されたのだ! 私は彼らの仇を討たねばならない!」
レオンは聞く耳を持たない。
彼の心情は分かる。
だがはっきり言って、彼の実力でマクシミリアンに挑むのは無謀だ。
「気持ちは分かる! だがあなたは足手まといだ! あなたはエリクさんを守ってくれ!」
「く、く…!」
レオンが顔を下に向けた。
厳しいことを言うようではあるが、これは致し方のないことだ。
犠牲になった二人には申し訳ないが…。
「ち…。うまく躱されたか…」
マクシミリアンは第二撃を繰り出そうとしているのか?
そうはさせない。
ボクは剣を左手に持ち替え、マクシミリアンに迫った。
瘴気の出る部分はスペクトルが教えてくれる。
ガキィィィン!
剣は防がれた。
だが本命は右腕だ。
ボクは右腕の形状を変化させ、先程傷を負わせた部分に爪を立てた。
(リディ! そこには瘴気が…!)
スペクトルの警告が聞こえた。
ミスったか!?
「く、何だそれは…!?」
マクシミリアンが表情を歪めた。
「瘴気が効かん…?」
瘴気が効かない?
そうか!
魔力で形作られたボクの右腕には瘴気の影響を受け無い様だ。
これは使える。
「あぁぁぁぁ!」
ボクは力一杯、マクシミリアンの体を切り裂いた。
「グォォォォォ!!!! 貴様ぁ…!」
マクシミリアンが咆哮した。
その目は怒りに満ち、ボクを睨みつけた。
そして、驚きの表情に変わった。
そうだ。
リシャールとシルビアの詠唱が終わったのだ。




