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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第7章 ビエルカ大陸・魔女っ子ちゃん
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番外編 僕はココロの鍵を開ける(6)


3日後、僕、ヒカル・アンドウはナイザール王国査察官・ロイと共にドールニック辺境伯領の地下にいた。



「フム、ここは怪しさ満点な場所だな。」

「どどど、どうするんです?」



僕達の目の前には複数の魔物(モンスター)が出現していた。

ここには節足動物系や無機質系の魔物(モンスター)が棲息しているらしい。

戦闘能力の無い僕にはとても戦えそうにない相手だ。

しかも数が多い。



「まぁ慌てなさんな。俺に任せておけば良い。」

ロイがニヤリと笑いながら剣を抜いた。


「え、ええ…!?」

僕は声にならない声を上げた。

これからいったいどうなるのだろう…?




―――




この数時間前、僕はドールニック辺境伯と謁見するために辺境伯の館を訪問していた。

謁見の間はナイザール王国の王城とまではいかないものの、高価な調度品等も飾られ、ドールニック辺境伯の権勢が伺えた。



「これはお待たせいたしましたな。査察官殿…」



謁見の間に通されてから十数分後、ドールニック辺境伯が部屋に入ってきた。

左右に重厚な武装をした従者を従えていた。



「儂がドールニック辺境伯家当主、ギュンター・ヴォルフラム・ドールニックと申す。」



目の前にいる法衣に身を包んだ白髪の男性がドールニック辺境伯だ。

周りの高価そうな調度品等に比べると、意外なほど質素な出で立ちをしている。



「これはこれはドールニック辺境伯におかれましてはご機嫌麗しく…。俺が此度のナイザール王国査察官として参上した、ロイ・キャンベルと申します。横に控えるのは同じく、ヒカル・アンドウだ。」



ロイはニヤっと笑いながら頭を下げた。

僕も慌ててそれに続いた。



「何と粗暴な…。これが主筋であるナイザール王国の査察官なのか…?」

「こちらにおわすのは王国北方一の実力者、ドールニック辺境伯様なのだぞ…」

従者達がざわめき始めた。

確かにロイの見た目・態度は査察官と言うよりは冒険者のそれだ。

諸侯の中で高位な辺境伯に会うような人物には見えないのかもしれない。



「…控えよ。」

ドールニックが右手を挙げてそれを制した。


「は…!」

「申し訳ございません。」

それを見て従者達が押し黙った。



「お気になさらずに頂きたい。我等、あまり王国中央に行くことがありませんでな。井の中の蛙、と言ったところでしょうか。」

ドールニックが静かに話しかけてきた。

ナイザール王国中心部から遠い場所に領地を持つ諸侯はナイザール王家の事を「王国中央」と呼ぶ。


「いや、勿体ないお言葉ですな。特に気にしておりませぬよ。」

ロイがひらひらと手を振りながら答えた。


「して、かような時期に王国中央から査察官が参られるとはいったいどのような事なのでしょうな? 確かに近頃は領地経営の関係で、王城へ参勤をしておりませんでしたが…。我等、何か王国中央に対して失礼を働きましたか?」

ドールニックはそう言いながら、椅子に深く腰掛けた。



「我が主、ベルクール王は貴殿の忠誠に些かの疑いも持っておりませぬよ。」

「…では、何故?」

「疑いは持っておりませぬが、少々良からぬ噂も耳にしておりましてな。」

「噂…? どういう事です?」

ドールニックの表情が硬くなった。



「…貴殿は自らの領地において、国を揺るがしかねない“モノ”を隠し持っているとの噂です。」

「ほう…」

ドールニックが腕を組んだ。



「査察官殿はそれは何だか分かっておいでなのかな?」

「はは、小官には皆目見当もつきませぬよ。」

「…話になりませんな。」

「そうでしょう? ですから貴殿はあらぬ疑いを晴らすべく、俺達の査察を全面的に受け入れていただきたいのですよ。」



ロイの言葉に、ドールニックは一瞬上を見てすぐに視線を戻した。



「もちろん、我等をとしては王国中央への忠誠を示すために査察官殿の仕事を邪魔する気はありません。…だが我が領民の生活に関わる所だけは遠慮願いたいものですな。」

「ほう…、それはどのような?」

「我が領地の中には独自の産業・技術などもあります。それらは我が領地のアイデンティティでありますれば、それを盗まれる事は耐え難いことですからな。」

「なるほど、貴殿のおっしゃることはもっともです。」

そこまで言って、ロイが立ち上がった。



「そのあたりは最大限配慮いたしましょう。…それでは我々はこの辺りで失礼を致します。」

ロイは一礼し、ドールニックに背を向けた。

僕もそれに続く。



僕達はドールニックの屋敷を後にした。



「さて、これから忙しくなるぞ。」

「え、どういうことです?」

「感じないか? 後ろから2人だ。」

「え、え…?」

僕は後ろを見た。

しかし僕には何も感じられない。



「そうか、お前は戦闘は駄目だったんだっけな。特別に身体強化を付与してやる。」

ロイが腰の袋から呪文書(スクロール)を取り出した。

呪文書(スクロール)が少し発光した途端、僕の体が急に軽くなった。


「少し走るぞ。俺についてこい。」

ロイが急に走り始めた。

僕も慌てて後を追いかける。

ロイの走るスピードはかなり速かったが、身体強化の魔法を施された為何とかついていけた。


「そこの路地を左だ。」

僕は言われるまま路地を左折した。

路地は狭く、人通りが無いような場所だった。


「そのまま俺の後ろにいろ。」

ロイが振り返って今曲がってきた路地の入口の方へ振り返った。

そして剣に手をかけた。


すると路地の入口の方から2名の男が駆け込んできた。

待ち伏せをしていたロイに驚いたのだろう、彼等は足を止め身構えた。

彼等は軽装備であったが、黒装束に身を包んだそれは隠密行動をする為の装備なのだろう。

僕はまったく気配に気が付かなかった。

ロイはそれに気が付いたのだ。



「…お勤めご苦労。お前達はドールニック辺境伯の手の者だな? 暗部の者と見るが、俺に何の用だ、と聞くだけ野暮かな?」

ロイがニヤっと笑った。


「・・・」

兵達は何も答えない。


「ドールニックは俺達の行動を監視し“何か”に近づくようなら処分しろとでも言ったのだろうが、俺達もそうされるわけにはいかなくてね。」

ロイが兵達に明らかな殺気を向けた。

彼等は一瞬気圧されたが、思い直したか腰の短剣を抜いた。

顔を隠し、短剣を持つ黒装束の者達、まるで忍者だ。


その内の1名がロイに接近し斬りかかった。

ロイは動かない。



「ロ、ロイさん!?」

僕は叫んだ。

このままでは斬られてしまう。



「ふん…!」

その瞬間、ロイが抜刀した。

剣筋が全く見えなかった。



ギィィ!



剣を剣が当たる音がした。

黒装束の男が攻撃を受け止めたのだ。



「ほう、今のを受け止めるか。だが…」

ロイはさらに力を込めた。


「ギ…!?」

黒装束の男が歯を食いしばらせた。


「それ、剣ごと斬ってやるぞ!」

「ぐ、ぐわぁ…!」



なんと、ロイは黒装束の男の剣を圧し折り、両断してしまった。

血を吹き出しながら倒れる男…。



「あ、ああ…」

僕は茫然とした。これが“死”だ。

一歩間違えば、僕もああなる。

これはこの世界だ。



「く、くそ…」

もう一人の黒装束が逃げようと振り返った。



「逃がすと思うのか?」

ロイが追撃した。

相手は隠密行動に長けた者で、足が速いはず。

だがロイは容易く追いついた。


「う、うわあ。や、やめ…!」

「…命乞いをするくらいなら、最初から後を付けぬことだな。」

その瞬間、黒装束は地に伏した。



「ああ…」

目の前で2人の男が命を失った。

震えが止まらない。

この世界に転生したとき、それを見るのは覚悟したはずなのに。



「怖いのか? ヒカル。」

剣についた血を拭いながら、ロイが僕に話しかけてきた。


「こ、怖いですよ! 貴方は怖くないんですか!?」

僕は言葉を振り絞って答えた。



「俺だって怖いさ。」

ロイが剣を鞘に納めた。



「だが、躊躇していたら俺が死ぬ。…お前もな。」

「あ…」

僕は押し黙った。

そうだ、(ロイ)は僕も守ってくれたんだ。



「お前が戦えないのは知っている。だが、お前は俺が守ってやる。だから、覚悟を決めることだな。」

ロイが笑いながら僕の頭をポンポンと叩いた。



僕は何も言えなかった。

この世界は生易しいものでは無いんだ。



この数時間後、僕達はこの街の地下に潜りこむことになる。


































































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