第69話 死霊将軍アダルベルト(2)
『ヒスイ!! その動きは甘いぞ! 相手が手練れだったらどうするのだ!?』
「ひ、ひい! ごめんなさい!」
ヒスイを叱る骸骨。
この骸骨は死霊将軍のアダルベルトだ。
なぜこんなことになっているのか?
話はこの日の朝に遡る。
―――
死霊将軍・アダルベルトに邂逅した翌日。
アダルベルトはボク達が拠点としていた部屋の外で待っていた。
「お、おはようございます。」
ボクはアダルベルトを見上げた。
古びていながらも威厳のある出で立ちのアダルベルトはとても威圧感がある。
敵意が無いと分かっていても、内心ではビクビクしてしまう。
『フム、貴殿はリディであったな。』
アダルベルトは声を発している訳では無い。
肉体は既に朽ち果てており、音を発する事が出来ないからだ。
だがボク達の頭の中に響くようなもので、コミュニケーションを取っている。
念話のようなものだろうか?
「はい。仲間達も準備を整えている最中です。」
『そうか。ではそれが整い次第出発するとしよう。』
昨夜のアダルベルトの願い。
それはボク達と共に旧リンネの城に向かうことだ。
ボク達はもともと旧リンネを調査するためにここに来ていたし、別に断る理由は無かった。
それにアダルベルトはかなり強そうだから、戦力増強になるのはありがたい。
「リディ、お待たせ!」
ヒスイ達が準備を終え、奥の部屋から出てきた。
『フムフム…』
アダルベルトがヒスイをじっと見た。
「う、うぇ!?」
ヒスイがビクッと体を震わせた。
それは仕方ない。
何しろ見てきたのは自分よりもかなり背の高い骸骨なのだから。
『お前は名を何という?』
「え、えっと…。ヒスイだけど…」
『お前は剣を使うのか…?』
「え…。うん…」
ヒスイが頷いた。
『最上位人鬼と言うだけでも珍しいのだが、剣まで使うとは…。よし!』
「…へ?」
『我が稽古を付けてやろう。まずは実力を見せてみろ。』
―――
と言うことで、即席の師弟関係が出来上がったのだ。
城に向かう道中で魔物に遭遇するのだが、それをヒスイに倒させ、剣の指導を行う。
威圧感満点の骸骨戦士が指導をしている姿は実に異様だ。
「あー、あれは大変そうだね?」
「そ、そうだな。」
その様子を見ながら、ボクとリシャールは心の中で声援を送った。
ヒスイ、頑張って!
そのような感じで、ボク達は城に向かう道を進んだ。
軍学校から城に向かうこの道は旧リンネの東側から城に向かうものであるが、元々軍用のものだったらしい。
周囲には住宅の様な建造物は見られないが、整備されたものだった。
魔物は相変わらず不死系のものが多かったがその大半は軍装のものだった為、生前は帝国兵だったのだろう。
『ふむ、貴様等は我が同胞だった者達か。もしかしたら我が教え子も含まれてるかもしれないが、我等が手で仕留められるのがせめてもの供養と言えよう。』
アダルベルトがそう言いながら背中の大剣を抜いた。
この大剣の刀身は120cmくらいはあるのだろうか。
非常に大きな剣だ、これはボクには扱えそうにないな。
ボクの刀の刀身も90cm程度ありそれなりに長いものであるが、あれはそれよりも長いし両刃で重そうだ。
『フン!!!!』
ガシャァァ!
アダルベルトの剣が、大きな音を立てながら次々と敵を両断した。
まさに敵を粉砕したと言えよう。
凄まじき剛力である。
「す、凄い…!」
近くでそれを見ていたヒスイが呟いた。
ボクも同じ感想だ。
『ここらの敵はだいぶ倒せただろう。さて…』
アダルベルトが足を止めた。
「アダルベルト将軍、あの城門を抜ければ城内ですな?」
エリクがアダルベルトに話しかけた。
『その通りだ。…城に入るのも久方ぶりであるな。』
アダルベルトが城を見上げた。
「アダルベルト様。今あの中はどうなっているのでしょう?」
ボクはアダルベルトを見上げた。
『正直分からぬな。我が兵を挙げたときには皇帝陛下の近衛兵が、1000名程いた筈だが…』
『皇帝陛下が魔の業にて瘴気を発した際に、その近衛兵もかなりの被害を受けていたようだ。我の部隊が何とか城に侵入した際には残存の近衛兵共も半数が我が方に付き陛下を封じる事が出来たのだが、最期の瘴気で城内にいた者は…』
まさに地獄絵図だったのだろう。
もし皇帝の封印が解け、また瘴気が発生しているのだとすればかなり危険だ。
だがその瘴気はボクの魔眼で見えるようだから、回避が出来るかもしれない。
「…ここからはボクの魔眼の出番ですね。ですが以前程では無いにせよ、魔眼発動中の戦闘力は落ちますから、サポートをお願いします。」
ボクは仲間達を見た。
以前のボクは魔眼を使っている最中は戦闘での“頼みの綱”であった部分的獣化が出来なかった。
“白い魔族”になった今ではその様な縛りは無くなったがどうしても体内の魔力を魔眼に集中せざるを得ず、全ての力を戦闘に使うことができない。
強大な敵が現れたとしたら、仲間達の協力が必要だ。
『では向かうとするか。我が前に立とう。』
アダルベルトを先頭に、ボク達は旧リンネの中枢であった城に入城した。




