第66話 死霊の町・旧リンネ(3)
アルストロメリア大帝国の王都、旧リンネ。
ボク達は朽ち果てた市街を進んだ。
時折現れる不死系の魔物はレオン達王国兵が片付けていく。
しばらく進むとロータリーの様になっている広場に出た。
中央には噴水があり、在りし日は住民達の交流の場の一つになっていただろう。
「ここから北へ向かうと王城ですね。」
エリクが北側を指さした。
その方向には所々崩落した城が聳え立っていた。
全盛期は荘厳なものであったに違いない。
「ん…?」
ボクは王城の深部から異様な雰囲気を感じた。
「あれは瘴気かな…?」
魔眼を発動させると、崩落した部分から何か黒いものが立ち上っているように見えた。
「何かマズそうな気配だな。」
リシャールも何かを感じ取っているようだ。
「お二人は何かを感じられましたか?」
エリクがボク達に話しかけてきた。
「はい。あの王城には何か良くないものを感じます。この眼を通してみると…、瘴気の様に感じるものです。」
ボクは魔眼のままエリクを見た。
「む…。その眼はかなり強いものですね。」
エリクが少しふらついた。
「あ、すみません。」
ボクは慌てて魔眼の使用をやめた。
「いえ、大丈夫です。それよりも王城の調査は慎重に慎重を重ねたほうがよさそうですね…。まずはこの町の東側の調査から行いましょう。」
「東側ですか?」
「ええ。東側にはかつての商業区、そしてその先には帝国軍学校があります。そちらを先に調査してみたいと思います。」
「帝国軍学校?」
ヒスイがキョトンとした顔でエリクに質問した。
「かつての帝国軍の士官候補生を教育した学校で、アダルベルト将軍はそこの校長を務めていました。もしかしたらそこにも何かあるかもしれません。」
なるほど。
ボクはエリクが言った方向を見た。
相変わらず魔物の気配は感じるが、王城から感じたような瘴気は感じない。
エリクの言うように、まずはそちらから行くのが良いだろう。
「分かりました。早速行きましょう。王国兵の皆さんはずっと戦い詰めでしたから、次はボク達が先頭に立ちましょう。」
ボクは王国兵のレオンを見た。
レオンはまだ余裕がありそうだが、部下の中には少し息が荒い者もいた。
ここは無理をさせないほうが良い。
「は…。申し訳ございません。お心遣い感謝致します。」
レオンが頭を下げた。
「リディ! それなら俺が先頭で行っていい?」
ヒスイは意気揚々だ。
ヒスイは戦闘狂という訳ではないが戦いが好きな傾向にある。
「ん、ああ…。良いんじゃないかな。」
「それなら私も前に出るぞ! 少しは体を動かさなければな。」
リシャールもか…。
「あーどうぞどうぞ。んじゃ二人に任せるね。」
「やったー!」
「ああ! リディは力を溜めておいて良いんだぞ。」
ボクは小さく首を振った。
まぁ二人に任せておけば大丈夫だろう。
あの瘴気を感じる王城はともかく、この先はそれほど禍々しいものは感じない。
「それではそろそろ行きましょうか。…ヒスイ殿、リシャール殿任せましたよ。」
エリクが出発を促してきた。
ヒスイを先頭にボク達は再び出発した。
―――
噴水地点から東へ。
ボク達は再び出発した。
「やぁぁぁ!」
ドゴォ!
ヒスイの剣が骸骨兵を捉えた。
骸骨兵の体がが鈍い音を立てて崩れていった。
他方ではリシャールの火矢によって魔物の頭が吹き飛ばされていく。
この辺りに現れる不死系魔物は良いところC~Bランク下位と言ったところだろう。
ヒスイとリシャールは冒険者ランクこそCランクであるが、本当の実力はもっと高い。
Bランク上位もしくはAランクに手が届こうかと言う実力だ。
この辺りの魔物など問題にはならない。
「つ、強い…!」
王国兵の一人が驚きの声を上げた。
彼らも決して弱い者達ではない。
冒険者にすればBランク下位の実力であろう。
そしてその指揮官であるレオンのBランク中位程度の実力との事だ。
あれ?
そういえばエリクは戦えるのだろうか?
彼は種族としては人鬼である。
ヒスイは最上位人鬼であるが、それよりも下位のエリクは戦闘能力を保有しているのだろうか?
「…そういえばエリクさんは人鬼ですよね? 戦うことは出来るのですか?」
ボクは小声でエリクに話しかけた。
「ははは、この僕が戦えるように見えますか?」
エリクが笑顔で否定した。
「ヒスイ殿の様に最上位人鬼ではありませんからな。戦いの力など持たぬのですよ。」
「んーですが、ヒスイが人鬼の頃よりも高い知性を持つように見えます。」
「はは、はっきりおっしゃいますな。…僕も故あって人鬼に進化したのですが、戦闘能力は全く伸びず知性の面が一気に伸びましてな。そのお陰で人族の国でそれなりの権威を持つようになったのですよ。」
同じ種族での進化にもいろいろあるのか。
“故あって”と言うのには気になるが、それを聞くのは野暮というものだろう。
しばらく進むとボク達は商業区を抜け、先程エリクが言っていた帝国軍学校と思しき大きな建物が見えてきた。
帝国軍学校は大きさもそうであるが他の建物よりも崩落が少ない。
軍の施設ということでかなり頑丈に作られていたのだろう。
「もうだいぶ日が落ちてきたね。」
ヒスイが呟いた。
時刻はもう夕刻だ。
太陽が西に沈もうとしていた。
「そうですね。夜になってからの調査は危険です。本日の調査はここで終わりにしましょう。」
「町の中で夜を明かすのか?」
「それは流石に…。まずは軍学校の建物に入りましょう。」
「あの建物に入るんですか?」
ボクはエリクに質問した。
あの建物の内部は安全なのだろうか?
「軍学校の建物は他より強固です。あの内部に拠点を築くことができれば万が一の時に有用ですからね。」
確かにそれは一理ある。
「それについてはお任せください。僕も準備してきていますからね。」
エリクは数枚の呪文書を見せてきた。
門を開けた時のものと良い、相当な準備をしてきているのだろう。
「軍学校の扉は開きませんが、裏より侵入口を確保しました。」
軍学校周辺を調べていた王国兵が報告してきた。
「分かりました。それなら行きましょうか。」
「ええ。」
ボク達は帝国軍学校の建物に侵入した。




