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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第6章 ビエルカ大陸・西方への旅
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第58話 人質救出(3)


ボク達は旅を再開した。

さてテスカーリ共和国の民兵による“人質事件”の顛末を簡単に述べておこう。


ボク達の襲撃により、人質は無傷で解放された。

民兵側の被害であるが、流石に死傷者ゼロと言う訳にはいかなかった。

5名の民兵が死亡し、18名が負傷した。

そして夕刻、通報によって駆けつけたエラム王国の官憲によって連行されていった。

他国の領内に秘密裏に拠点を設け、街道を往く者を襲うなんてのは大事である。

だがエラム王国としても、軍事独裁国家であるテスカーリ共和国と事を構える訳にはいかない。

事件を(おおやけ)にしない形で被疑者達を引き渡すことになるだろう。

そしてエラム王国は二度とこのような事にならぬ様、国境の守りを固めるはずだ。



「あの民兵共の今後は…、まぁあんたなら分かるわね?」

イルマが遠くを見ながら言った。



つまりそういうことだ。

軍事独裁国家のテスカーリ共和国は事件を無かったことにするだろう。

つまり、“民兵(かれら)の存在も無かったことになる”と言うことだ。

民兵(かれら)は国に従っただけだと言うのに。

政治というものはそういうモノだそうだ。



「・・・」

山道を登る馬車の中、ボクは窓の外を見た。

どうも納得がいかない。


「リディさん。何というか、納得がいかなそうですね。」

プロスペールが口を開いた。


「…もしかして“分析”した?」

「しなくても分かりますよ。あの民兵達の処遇が納得いかないんでしょ?」

「うん。彼等がしたことは良くないことだけど、それは国に従ったまでだ。」

「そうですねぇ。テスカーリ共和国(あのくに)の事ですから、叔母ちゃんが言ってたのは間違いないでしょうねぇ。」

プロスペールはボクから目を逸らした。


「あ、そうそう。あっしはねぇ、エラム王国の官憲の一人を握手しておいたんですよ。念の為、探っておきましたけどねぇ。あの民兵共は、山道で襲撃してきた連中と一緒に引き渡されるそうです。明日、スーサの街から護送隊が出発するそうですが…」

プロスペールがそこまで言ってボクの方をちらりと見た。


「ずいぶん官憲の対応が素早いですよね。さっさと厄介払いをしたいところなんでしょうが、どこかのお人好しが急げば、まだ間に合う距離だと思いますけどねぇ。ま、あっしの独り言です。」


プロスペールの独り言を聞いたボクは拳をぎゅっと握った。




―――




山道を走る3人の影。

この道は街道から外れた廃道だが、距離的には近道なはずだ。

護送隊は既に出発した頃だ。


「ごめんね、ふたりとも。ボクのワガママに付き合わせて。」


「俺はよく分かんないけど、リディと一緒にいたいだけだよ。」

「お前のワガママは今に始まったことじゃないだろう。」

ヒスイとリシャールが答えた。

この二人は、本当に過ぎた仲間だ。



「お、あれじゃない? リディ!!」

ヒスイが指さした先にはエラム王国の衛兵隊に護衛された二台の馬車が見えた。

馬車が向かう方向の数キロ先はテスカーリ共和国との国境だ。

おそらくはそこで身柄受け渡しを行うのだろう。

何とか間に合ったわけだ。


「よし、ふたりとも顔を隠して。ボクが前に出て魔眼を使う。二人はその間にエラム王国の衛兵隊を無力化してくれ。」

「うん!」

「了解した。」



ボクは一気に駆け出し、エラム王国の衛兵隊の前に降り立った。



「む、く、曲者か!? ば、抜刀!!」

衛兵隊長と思しき男が号令を出した。

だが体が動かない。


「な、何だ!? 何が起きている!!」


ボクの赤眼の魔眼の効果だ。

魔法耐性の高い者で無いと抵抗(レジスト)するのは不可能だ。


「ぎゃ!!」

「どわっ!!!!」


隊の後方からはヒスイ達が衛兵たちを攻撃し始めている様だ。


氷矢(グラスフレッシュ)!」


数本の氷の矢がボクに迫った。


「お…!」

ボクは左手を前にかざし、魔法障壁で防御した。



ジュワ…!



氷の矢が魔法障壁に当たり消滅した。



「へぇ、ボクの魔眼をレジストするなんてね。」



氷の矢が飛んできた先には可愛らしい女性魔術師がいた。

魔眼が全く効いていないわけでは無いらしく、フラフラとした感じだ。



「ごめんね、少し痛いけど我慢してね。」

ボクは震えている魔術師に当身を食らわせた。


「ぐ…」

魔術師は顔を歪めながら崩れ落ちた。

ボクの魔眼に抵抗(レジスト)したのだから、将来有望だと思う。


その後全ての衛兵達を無力化させ、ボクは馬車の幌を開けた。



「な、何だ!?」

腕に手錠をされた民兵達がざわついた。

ボクはマスクを取り顔を見せた。



「お前は…!」

声を上げたのは民兵の指揮官の男だ。


「やぁ、1日ぶりですね。」

ボクは赤眼のままにっこりと微笑んだ。


「何をしにここに来たのだ…!?」

指揮官の男は少し震えていた。

石化の恐怖感があったのだろう。


「ボクは皆さんを解放しに来ました。」

「解放だと…!?」

指揮官の男が震えながらもボクを睨んだ。


「俺達を捕まえておいて、解放とは何のつもりだ…!?」


ボクは一歩近づいた。

民兵達は少しでも後ずさろうとした。


「あなた達は理解しているでしょう。このまま引き渡されたら、自らの母国に殺されるだろうということを。」

「そ、それは…」

指揮官の男が俯いた。

それは自分達が一番理解している事だ。


「なので、ボク達はあなた方を解放します。武装を与えることはできませんけど、このままどこぞへ逃げ散ってください。」

「き、貴様は俺達に情けを掛けるのか…?」

民兵の一人が口を開いた。


「情けを掛けるとかそんなつもりはありません。もしあなた方が山賊に身を落としたり悪さをしたら、ボクはあなた方を殺します。」

ボクは赤眼で民兵達を睨んだ。

この者達の多くがこの赤眼の恐怖を味わっているから効果は抜群だ。



「…分かった。感謝する。俺も部下を率いた責任がある。約束は守ろう。もし部下達が悪さをしたら、俺を真っ先に殺してくれ。」

少しして指揮官の男が頭を下げた。



「分かりました。ではあなた達の拘束を解きます。」

ボク達は民兵達の手錠を外した。

長時間拘束されていただからか、民兵達は体を伸ばすような動きを見せた。



「こら、お前達!」

指揮官が部下を見て一喝した。

民兵達は慌てて姿勢を直した。


「我々を救ってくれたことを感謝する。今後は人の道を外れぬ事を約束する。」

指揮官の男が言うと、民兵達も頭を下げた。


「約束に違わぬことを期待します。それではボク達はこれで失礼しますね。」

ボクはそう答えると馬車から降りようとした。


「貴殿は…魔族だろう。随分変わった御仁のようだな。」

指揮官の男がボクに言った。


「あはは、良く言われます。ま、これがボクだし、あなた方には関係ないでしょう。」

「それも…そうだな。」

指揮官はまたボクに頭を下げた。



ボクの“人質救出作戦”はこれにて集結したのである。




















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