第6話 妖精族来襲(2)
それは妖精族の兵士が土鬼の長に斬りかかった所だった。
ガシュ!!
「ぐわっ!」
切断された腕と共に宙に飛ぶ剣、悲鳴を上げる妖精族の兵士。
そう、ボクは妖精族の兵士との間に割って入ったのである。
ヒュン! シュバ!
自分が来た方向に目を遣ると、ヒスイが2名の敵を切り伏せていた、
「オオ、リディ殿! ヒスイモ!」
土鬼族の長が声を上げた。
「間一髪間に合いました。族長様。」
「スマヌ。妖精族ガ突然攻メテキタノダ…!」
長がよろよろと立ち上がった。
ボクは長を支えながら対峙している妖精族達を見た。
「お前達は何故ここを攻めて来たんだ? 一体何のつもりだ!?」
ボクは大きな声で怒鳴った。
それに対し、先程見た指揮官らしき妖精族の男が少し前に出て来た。
「フム、新手ですか。あなたは魔族の様ですね。」
妖精族は整った顔の者が多いが、この男は他よりも優美ないで立ちだ。
男は腕を組みながら話を続けた。
「なるほど。あなたと、そこのホブゴブリンは中々腕が立ちそうです。本来ならばこの村を滅ぼす理由をいちいち説明する必要はありませんが、特別に話して差し上げましょう。」
男がニヤリと笑った。
相変わらず整った顔であるが、その内は実に醜悪なモノに見えた。
「その小鬼共は我等、妖精族と契約し、我等はこやつ等に力を授けました。そして我等に組し、あの町に巣くっていた人間共を滅ぼしたまでは良かった。」
妖精族の男が遠くに見える廃墟に目を遣った。
「我等の僕たる間は良い。だが、小鬼共はそこな人間を助けたと言う。敵を助けたのだ。ならばこやつ等は我等の敵だ。打ち滅ぼすのに何のためらいがありましょうか?」
「ソレハ詭弁デアロウ。ドノミチワレワレヲ切リ捨テルツモリダッタノデアロウガ。」
土鬼族の長はこの男を睨みつけた。
「ククク。下賤な魔物の割には頭が回る。さて…」
妖精族の男が手を前に翳した。
「もう良いでしょう、これ以上は時間の無駄です。遊びはここまでにして、終わらせるとしましょう。」
指揮官の言葉を受け、妖精族の兵が身構えた。
総攻撃してくるつもりだろう。
さて、どうしたものか。
傷ついた土鬼族を守りながら戦うのは簡単ではない。
“魔眼”が効けば良いが、妖精族の高位の者は状態異常に耐性を持つという。
それは固有スキルなのか魔道具によるものなのか分からないが、“魔眼”発動時には制約を受ける事が多いからこの状況で使うのは得策ではない。
そうすると“部分的獣化”で身体強化しつつ敵を牽制し、一人一人倒していくしか無さそうだ。
それは土鬼族を守りながら出来るだろうか?
周りを見るが、まともに戦える土鬼族はヒスイを含めて十数名と言ったところだ。
実にマズイ。
『おい、リディさん…』
「!?」
頭の中に声が響いた。
『聞こえたら、答えてくれ。頭の中で念じるだけで良い。』
(これは、念話!?)
『そうだ。俺だ。』
これはケガを負って膝をついていた魔導士が送って来た念話の様だ。
(あなた、念話なんて仕えたの?)
『念話は魔力を多く消費するから要点だけ伝える。俺は今から魔力を練る。10分、いや、5分で良い。時間を稼いでくれ。』
(何か手があるのか?)
『ああ。奴等、妖精族に特大な奴をお見舞いしてやる。魔力を練っている間は無防備になっちまう。だから頼む。』
(・・・)
魔導士は妖精族を攻撃する手立てがあるという。
それが本当なら状況が良くなるかもしれない。
…念話が使えるくらいの魔導士だ。
ここはひとつ信じてみるか。
(分かった。何とか時間は稼いで見せるよ)
『ありがてえ。頼むぜ』
魔導士は頷くと杖をぎゅっと握りしめた。
口元が動いているから、何か魔法の詠唱を始めたのだろう。
ならばこちらも仕事をするしかないな。
「妖精族よ。ボクが来たからには君達の好きにはさせない。」
ボクは体中に力を巡らせた。
紫色の髪の毛がユラユラを揺れ、ローブもバタバタと揺らめいた。
「フン、隻腕の魔族が何を言う。我等、妖精族の戦士に敵うと思うなよ! かかれ!」
号令を受け敵兵が迫って来た。
「ヒスイ、敵を押しとどめるだけで良い!」
「ア、アア…!」
ボクはヒスイと共に敵に立ち向かった。