第54話 呪いのダマスカス刀剣
ボク達はスーサの町の寂れた武器屋の店主、カーライルに店の奥に通された。
彼曰く、ヒスイにピッタリの剣があるらしい。
本当だろうか?
正直そう思ってしまう。
それくらい寂れた店内なのだ。
「俺にピッタリの剣ってどんなのだろうねぇ?」
ヒスイはボクの隣でニコニコしていた。
まぁ、その剣を見てから判断するのが良いのだろう。
「お待たせいたしました。」
カーライルが奥から一振りの剣を抱えてきた。
形状は刀身の長さ80センチメートル程度の直刀の様だ。
「この剣は特に銘はありませんが、既に失われた技術で作られたものです。」
失われた技術?
それはいったい何なのだろう?
「見ていーい?」
ヒスイが口を開いた。
「ええ、どうぞ。」
カーライルがヒスイに剣を手渡した。
「結構軽いんだね。んじゃ次は…と。」
ヒスイは剣を鞘から抜いた。
「うわぁ、なにこれ!?」
ヒスイが驚きの声を上げた。
刀身には不思議な紋様が刻まれていた。
木目調の紋様は複雑なものだ。
「その剣は魔鉱化ダマスカス鋼という素材で作られています。現在ではダマスカス鋼精錬方法、そしてそれを用いた刀剣の製法は失われていて、現存するダマスカス刀剣は数えるほどしかありません。」
「そんなものが何故ここに…?」
「私の祖父は刀剣の専門家として、かつて世界を旅していました。旅の途中でとある異世界人の子孫に出会ったそうです。その人がダマスカス刀剣の最後の製作者だったらしく、作成した剣の内の一振りを譲り受けたとのことで。」
なるほど、確かにこの剣は不思議なものを感じる。
魔鉱物化していると言うのもあるだろうか。
でもこれは本物なのかな?
ボクは魔眼を通してみてみることにした。
とはいえプロスペールの様に分析能力があるわけではないので、見えるのは魔力の流れくらいだが。
それでも魔力によって何かの付加効果があれば、何かわかるかもしれない。
「ほう、魔眼ですか。」
カーライルがふむふむと言った感じに腕を組んだ。
魔眼を通してみると、この剣の内部に密度の高い魔力が内包されているのが見えた。
性能が良いのは間違いなさそうだ。
しかしそれともう一つ…
「カーライルさん。この剣は呪いが付与されていませんか?」
ボクは真面目な顔でカーライルに問い掛けた。
「流石ですね。見破られましたか…。その通りです。この剣には呪いが付与されており、使い手を選びます。使い手が剣に認められない限り、いずれ剣に呪い殺されます。それがこの剣に使い手がいない理由なのです。」
恐ろしい剣だ。
ボクの剣の様に魔力を吸い取る剣も恐ろしいものだが、剣に気に入られないと呪い殺されるなんて。
ボクはヒスイを見た。
この剣は刀身の長さや重さなどはヒスイにとって使いやすいように見える。
だがヒスイはこの剣に認められるだろうか?
「リディ、俺、この剣にするよ。」
ヒスイは刀身を見つめながら言った。
「ヒスイ? でも…!?」
ボクはヒスイを止めようとした。
「俺はもっともっと強くならなければならない。それこそ、リディを守れるくらいに。」
「・・・!?」
ヒスイの言葉に、ボクは言葉を失った。
ヒスイと出会ってから、たびたびこの子の成長を感じることがあった。
でもこの子は更に先に行こうとしている。
ならば、お互いに大切な存在と認める者として、それに応えなければならないのかもしれない。
「分かったよ。カーライルさん、この剣を譲ってください。おいくらですか?」
ボクはお財布を取り出しながらカーライルの方を向いた。
「そうですねぇ…。100グラハム金貨でいかがでしょうか?」
100グラハム金貨か。
城塞都市ロクロワでの依頼の収入で十分間に合うな。
「分かりました。それで売ってください。」
ボクは財布から100グラハム分の金貨を取り出し、カーライルに手渡した。
「確かに。それではその剣をお持ち帰りください。ああそれと、これはサービスです。」
カーライルは剣を体に結わいつける紐を鞘に取り付けてくれた。
「ありがとう!」
ヒスイが頭を下げた。
「いえ…。しかしその剣を使いこなすにはおそらくかなりの努力が必要でしょう。あなたにはその覚悟はありますか?」
「うん。俺は強くなって必ず使いこなしてみせるよ。」
「良い返事です。ではより一層頑張ってください。」
カーライルが頷きながら答えた。
「それじゃ、帰ろうか。」
「そうだね!」
「では失礼します。」
ボクは一礼すると、カーライルの店を後にした。
―――
翌日、街道の山岳路に出発する日になった。
集合場所はこの町に到着した時と同じ場所、市場の隣だ。
ボクとヒスイが馬車に乗り込むと、少し遅れて荷物を抱えたリシャールとプロスペールが乗り込んできた。
「荷物運びを手伝ってくれてありがとう。」
リシャールがプロスペールにお礼を言っていた。
「いえ、この馬車では男手はあっしだけですからね。」
プロスペールは汗を拭くと、椅子に座った。
「おや? ヒスイさんの剣が変わっていますね。」
プロスペールはヒスイの剣が変わったことに気が付いた様だ。
「うん、昨日リディに買ってもらったんだ。」
「そうですか。ちょっと見せて貰えませんか?」
「あ、うん。良いよー。」
ヒスイが自分の剣をプロスペールに手渡した。
「ふーむ…」
プロスペールがヒスイの剣を見つめている。
少し鞘から抜いて刀身を見てみたり、恐らく分析の能力を使っているのだろう。
「こいつは大したものですね。刀身の素材は魔鉱ダマスカス鋼でしょうか。かなり強い魔力を備えていますね。」
流石はプロスペールだ。
能力によって的確に分析をしている様だ。
「それと呪いの付加か…。これはとんでもないものを見つけましたね。反面、かなり攻撃力は高そうです。」
「やっぱりそうか…」
あえてプロスペールに分析をさせたが、やはりかなり面倒な剣の様だ。
そうこうしているうちに、馬車が発進した。
一団はスーサの町に北西側の門から山岳路に向かっていった。
この先の道はそれなりに厳しく、そして何者かの襲撃が予想されている。
気を引き締めていかないと…。
ボクは目の前にそびえ立つ山脈を見ながらそう考えた。




