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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第6章 ビエルカ大陸・西方への旅
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第51話 信頼の証


ビエルカ大陸に来てから5日。

今日は港町カルナックからの出発の日だ。



「ヒスイ、準備良い? あ~あ、紐が解けてるよ。ちゃんとしないと~。」

「あう~、ごめんなさ~い。」

ボクはヒスイの服の紐を縛りなおした。


「私の方は大丈夫だ。集合場所は町の南西側の門だったな。」

リシャールが荷物を背負いながら言った。

この荷物袋はエルヴェシウス教国で買い求めたものだが、魔法により多くの荷物を詰め込める優れモノだ。


「ああ、そうだね。…じゃ行こうか。」


ボク達は宿の従業員に礼を言うと、集合場所に指定されている町の南西を目指した。

その門からはビエルカ大陸を南方ルートで西に向かう街道が伸びている。

ちなみに北西側から延びているのは、今回回避した北ルートの街道だ。


15分程で、ボク達は南西の門に到着した。

そこには既に数台の馬車が停車していた。

周りには武具に身を固めた20名程の兵士がいた。

その内の3名程は重装の騎兵の様だ。

彼等は恐らく隊商(キャラバン)の警護兵だろう。



「おお、リディさん達じゃないですか。」

声を掛けてきたのはプロスペールだった。


「ああ、プロスペールさん。ここにいるってことは一緒に行けるようになったの?」

ボクは顔をしかめながら答えた。


「え、ええ。そうなんですけどね…」


あれ? この前の様なにやけた感じじゃないな。

何か歯切れが悪いし。


「おはよう諸君! 準備は出来ているかい?」


豪快な女性の声が響いた。

この声はまさか…

ボクは声がした方を振り向いた。


「あ、あれ? イルマさん?」

「おはようリディ。今日も可愛いね!」

イルマは満面の笑みだ。


「そして相変わらずアンタはやる気が感じられないねぇ。プロスペール。」

イルマがプロスペールの背中をバンバンと叩いた。


「い、痛えよ。叔母ちゃん…」

お、叔母!?

この人達、身内だったの?


「この子はねぇ、あたしの甥っ子でね。冒険者になったとか言っても、いつまで経ってもプラプラしてるから心配してたのさ。でもまさか、リディと知り合いとは思わなかったけどね。」

「うーん、知り合いと言うか、ベルゴロド大陸で1回会ったことあるだけだったんですけどね。」

ボクは目を丸くして答えた。



「あっしも叔母ちゃんがこの町のバルデレミー商会にいるとは思いませんでしたよ…」

プロスペールがため息をついた。


「オバオバオバうるさいねぇ! あたしはまだそこまでトシ取ってないつもりだよ!」

後で聞いたのだが、イルマさんは36歳だという事だ。


「続柄は叔母でしょうが…」

「あはは、そうだねぇ。」

イルマが再び豪快に笑った。

それを見たプロスペールが再びため息をついた。

どうやらイルマに頭が上がらないらしい。



「で…」

イルマがボクとプロスペールの方に手を回して顔を近づけた。


「どうだった? プロスペール。」


どう…?

ボクはキョトンとした。


「ええ、いますね。警護兵の中に。」

プロスペールが答えた。

いる? いったい何がいると言うのだろう。


「やっぱりそうか…。あんたがそう言うのならそうなんだろうねぇ。」

「え、えっと何の話ですか?」

ボクはイルマに問い掛けた。


「あ、すまないね。あたしはプロスペールの能力(スキル)を良く知っている。こいつに隊商(キャラバン)の警護兵にいるかどうか調べさせたのさ。…内通者がね。」


内通者だって!?

あの兵隊さん達の中に内通者がいるのか。


「あっしは自己紹介を兼ねて、警護兵の全員と握手したんでさぁ。そうしたら2名いました。あそこの騎兵と、その横にいる歩兵がそうですね。」

プロスペールがチラッと後方を見た。

なるほど、透視・分析の能力(スキル)か。


「詳しくは後で話しましょう。叔母ちゃん、あっしはどこにいればいいので?」

「リディ、あの馬車はあんた達の為に用意したんだけど、うちの甥っ子も一緒させてくれるかい? イヤかもしれないけどね。」


うーん、一緒かぁ。

でもボク達も連れてってもらう立場だし、断る訳にもいかないか。


「分かりました。大丈夫ですよ。」

「本当かい? 悪いね。」

イルマがにこっと笑った。


「すいやせん。よろしくお願いします。」

プロスペールも頭を下げた。


「ところでイルマさんも一緒に行かれるんですか?」

「ああ。今回の積荷はウチにとっちゃ重要なモンだからね。あたし自ら運送の指揮を執るのさ。」


積荷は魔鉱物化したミスリル銀だったか。

高価なものらしいし、それも納得だな。


「それじゃあたしは準備してくるからね。あんた達は馬車に乗ってておくれ。」

イルマはそう言うと警護兵達の方に向かって行った。


「もうすぐ出発みたいだし、ボク達も馬車に乗って待機してようか。」

ボク達は馬車に乗り込むことにした。





―――





30分程の後、馬車が動き始めた。

車窓から外を見ると、当り前だがまったく知らない景色だ。

この隊商(キャラバン)には内通者がいるらしいし、注意しないと。



「ええと、お三方?」

プロスペールが口を開いた。


「何かな? プロスペールさん。」

「何であっしの側は一人なんですかねえ?」


それは座っている位置だ。

この馬車は2人ずつゆったり座ることが出来る、向かい合わせに椅子があるものだ。

プロスペール1人に対して、ボクのほうは3人座っている。

リシャールの体躯は長身の女性のそれだが、ボクやヒスイは小柄だからそんなに狭くは感じない。

まあ確かにバランスは良くないけれども。


「それは…ねぇ?」

ボクは仲間を見た。


「うんうん、そうだよね!」

「うむ、その通りだ。」

仲間達はボクの問いに頷いた。


「はぁ…、そうですか…」

プロスペールは残念そうな表情になった。


「・・・」

ボクはプロスペールの顔を見た。

この人は本当は悪い人では無さそうだ。

ただその能力(スキル)能力(スキル)だけに、信用されにくいのかもしれない。


ボクは中腰で立ち上がると、プロスペールの隣に座った。


「え、リディさん?」

プロスペールが少し呆気にとられたような顔になった。

ボクはそんなプロスペールに手を差し出した。

そして同時に紅い魔眼を発動させた。


「ボクのこの眼は色々な状態異常の効果がある。そしてある程度の魔力の流れを見ることも出来るんだ。」

「は、はぁ…」

「ボクと握手しなよ。…そしてボクを分析すると良い。これはボクの、貴方に対する信頼の証だ。」

「・・・」

プロスペールは無言でボクの手を取った。

しかし、この前感じた様な悪寒を伴うような魔力の流れは感じなかった。

プロスペールは首を振ってから手を離した。


「いえ、あんたに対してそのような事は出来ません。あっしを信頼してくれた人に対して、弱みを握るような事は…。あんたは本当に良い人、いえ、魔族ですね。」

プロスペールは表情を明るくした。


「あんたは今一緒にいるお仲間だけでは無く、色々なものに守られている様だ。それはあんたの心が為せるものだ。教皇の加護に守られている魔族なんて初めて見ましたよ。」

「そ、そうかな…?」


ボクはそこまで言うとあれっと感じた。

ボクはこの人に教皇の加護については言及していない。


「貴方、分析しないって言いながら実はしたな…?」

「ああ、つい癖で…! でも表層だけですよ! 深く分析すればあんたの眼に引っかかるはずです!」

プロスペールは慌てた様子で答えた。

まぁこれは真実だろう。


「ふふふ、それなら良いよ。プロスペールさん、一緒に旅している間だけは、ボク達が貴方を守ってあげるよ。ねぇ、みんな?」

ボクは改めて仲間を見た。


「うん、俺は良いよ。」

「ああ、リディがそう言うのならな。」

仲間が頷きながら答えた。


「あ、ありがとうございます。」

プロスペールが頭を下げた。

プロスペールの拳が少し震えているように感じた。


まぁ、気のせいという事にしておくか。




























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