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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第5章 長い旅路・ビエルカ大陸へ
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第50話 港町カルナック(3)


「おい…、あんたもしかして…」



誰かに後ろから話しかけられた。

振り返ると、どこかで見た様な冒険者の男が立っていた。

うーん、誰だったかな。



「えっと、どこかで見かけた様な気がしますがすみません、お名前は存じ上げませんね。」


「そりゃそうですねぇ。あっしはあんたには名乗ってませんからねぇ。」

男が肩を竦め、下品な笑いを浮かべた。

ああ、この少し下品な感じの態度は…。



「思い出した。貴方、ロクロワの冒険者ギルドにいた人ですね?」

「やはりあんたはあの時の魔族ですか。…それにしても、随分見た目が変わっちまいましたね。」

男はボクの方を上から下まで舐めるような視線を送って来た。

…何か嫌だ。


「見ての通りです。ボクとしては会ったことがあっても名前も知らない人と話し続けるつもりはありません。みんな、もう行こう。」

ボクは軽く会釈をして男の横を通り過ぎようとした。

「まぁまぁ、そんなこと言わずに…」

男がボクの左腕を掴んできた。



ぞわ…!



その瞬間、得体の知れない悪寒のような感触を感じた。


「…!」


ボクは男の手を振り払って身構えた。

今の感触はいったい…


「リディ…!?」

ヒスイが心配そうな声でボクに呼びかけた。


「大丈夫、大丈夫だから…」

そう言いながらも、ボクの呼吸は乱れていた。

戦ってもいないのにこんなのは初めてだ。


「貴様、今リディに何をしたのだ?」

傍らのリシャールが怒りを露わにした。


「ああ、何もしていませんよ。あっしはそこの、リディさんと話をしたかっただけでね。」

男が再び大げさに肩を竦めた。


「言ったでしょう。ボクは名前も知らぬ相手を話すつもりは無いってね。」

ボクは男を睨みつけた。


「…その紅い眼はあっしに対する敵意ですかね?」


どうやら無意識に魔眼が発動していた様だ。


「まぁ、あんたの言う事ももっともです。あっしの名はプロスペールと申します。以後、お見知りおきを。」

プロスペールと名乗った男が会釈をした。


「そのプロスペールさんがボクと何を話したいと言うんだ?」

ボクは何とか呼吸を整え、再びプロスペールを見た。

眼も元に戻した。


「立ち話も何ですから、あそこにでも座りましょうか。」

プロスペールはギルドの隅にあった席を指さした。

ボクは仕方なくプロスペールの後に続き、その席に腰を掛けた。


「何か飲みますか? そっちのお仲間を宜しければ…」

「お断りするよ。」

ボクは間髪入れずに拒絶した。


「あ、そうですか。そんなに嫌わなくても良いと思うんですけどねぇ。じゃあ、あっしだけ。おーい、こっちにビールを一つ頼みますよ。」

何と、この男は暢気にビールを飲むようだ。


「リシャール、ジュースを3つ頼んできてくれ。」

ボクはリシャールを見た。


「あ、ああ…」

リシャールは頷くと、酒場のカウンターに歩いて行った。


「何だ、結局飲むんじゃないですか。」

「何故だか貴方に奢られたくない気分でね。」

ボクはムスッとした表情のまま答えた。

それを見てプロスペールがまた肩を竦めた。


「ビールと、ジュースを3つお持ちしました。」

ウェイターが飲み物を持って来た。


「おっと、それそれ。」

プロスペールはウェイターからビールを受け取りグイっと飲んだ。

ボク達は各々ジュースと受け取り、自分の前のテーブルに置いた。


「お楽しみの所悪いけど、話って何?」

「あ、ああ。すみませんねぇ。」

プロスペールがビールジョッキをテーブルに置いた。


「単刀直入に言いましょう。実はですね。あっしはこの町から西に行きたいんですがね?」

「それで?」

「あっしは冒険者で特殊な能力(スキル)は持っているのですが、戦闘に関しては素人でしてね。あんたもロクロワでエクトルの旦那の言葉を聞いていたと思いますが、実は好きでコバンザメをしてた訳じゃないんですよ。」

「戦闘が出来ぬから、その時々の仲間にくっ付いていたと?」

リシャールが口を挟んだ。


「その通りですよ、お嬢さん。食い扶持は稼がないといけないからそうするしか無いんでさぁ。…話はそれましたが、先程あんた達がバルデレミー商会から出てくるのを見ました。バルデレミー商会(あいつら)に絡んでるんなら、もしかしてあんた達は西に行くんじゃないかとピンと来ましてね。」

プロスペールがニヤッと笑った。


「なるほどね。次はボクたちにコバンザメしたいってことか。」

「もちろんあっしに出来ることはお手伝いをしますよ。戦闘以外であれば、ですが。」


ボクは腕を組んだ。

プロスペールが言う、特殊な能力(スキル)は気になる。

先程ボクが感じた悪寒はそれだろうか。


「悪いけど、はい分かりました。と言うわけにはいかない。ボク達が西へ向かうのは事実だが、バルデレミー商会の護衛役を頼まれたんだ。貴方はボクの仲間では無いから、バルデレミー商会の許可無しに同道させるわけにはいかない。」

「それはもっともですな。ではバルデレミー商会へはあっしが自分でお願いしてきましょう。それではあればよろしいですか?」

「それともうひとつ。ボクは貴方を信用していない。先程貴方はボクに何らかの能力(スキル)を使おうとした。あれはなんだ?」


ボクはプロスペールに強い視線を向けた。


「ああ、あれですか。確かに使おうとしましたが、あんたは勘が鋭かったようで、使う前に回避されてしまいましたね。」

プロスペールは悪びれた様子が無かった。


「良いでしょう。あっしの能力(スキル)を話す事で少しでも信用して頂けるのならお話しましょう。」

プロスペールがビールを一口飲んだ。


「…ええ。あっしの能力(スキル)は透視・分析です。対象が無機物であれば組成や内部構成、生き物であれば能力(スキル)、弱点や思考等の情報を得ることが出来ます。ま、全ての情報を引き出すには、それなりに長く触れる必要がありますが。それと触れなくても表層を探れる事もありますが、あんたみたいに魔力が高い者には通用しませんね。」

「なるほど。さっきはボクの事を探ろうとしたわけか。」

「ええ。だが先程ぐらいだとあんたが魔族…、それも魔王の子孫たる上級魔族としか分かりませんでしたけどね。」


この透視・分析の能力(スキル)は魔力の流れを伴うのだろう。

ボクが感じた悪寒は恐らくそれだ。


「これから協力を求めようする相手のプライバシーを探るなんて感心できないな。」

ボクはプロスペールを睨み付けた。


「そ、そうですね。すいやせん…」

プロスペールがポリポリと頭をかいた。

まったく、どれくらい反省しているのやら。


「とにかくボクには判断できないから、バルデレミー商会に聞いて欲しい。話が以上なら、ボク達はもう行くよ。」


ボクはジュースを飲み干した後立ち上がった。


「分かりました。ではまたお会いしましょう。」

プロスペールが応じた。


「ああ、それと…」

ボクは傍らに置いてあったジュースの伝票を掴んだ。


バン!


大袈裟な音を立てながらプロスペールの前に叩き付けた。


「え、っと、それは…?」

「3人分、奢ってくれるんでしょう?」


ボクはそう言い仲間と共にその場を後にした。

チラッと後ろを見ると、プロスペールがやれやれと言うように頭を掻いていた。




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