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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第5章 長い旅路・ビエルカ大陸へ
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第46話 種族


船は海岸線に近い所を順調に南に進んだ。

この付近は遠浅の海で、実に穏やかなものだった。


「ねぇねぇ! 船の人に聞いたんだけど、この船、お風呂あるらしいよ!」

ボクはヒスイとリシャールに話し掛けた。

実はボクはお風呂が好きだ。



「お風呂ー? 俺、おなかいっぱいでもう眠いから…むにゃ…」

ヒスイが目を擦りながら答えた。


「そう…? リシャールはどうする?」

「私は、そうだな、後で頂くとするよ。ヒスイがもう寝たいみたいだから、一人にする訳にもいかないだろ。」

リシャールは本当に良いお姉さんと言う感じだ。

面倒見も良いし、実に助かる。


「じゃあ、ボク、お風呂入って来るね。ヒスイ、寝る前にちゃんとハミガキするんだよ。」

ボクはヒスイの頭を撫でた。


「ふぁ~い。」

ヒスイはあくび交じりの返事をした。

「じゃ、行ってくるね。」


ボクは自室を出て、船のお風呂に向かった。

船のお風呂は本来なら船倉になっている部分にあった。

船倉後部のを改造し、魔法で湯を沸かしているという事だ。



「あ、ここかな。」

ボクはそれらしい部屋に入った。

手前が脱衣所になっており、奥の部屋に湯船があるようだ。


ボクは服を脱いで、タオルを手にした。

浴室に入る前、ボクは鏡に映った自分の姿を見た。



白い。



やはり、以前の自分とは随分違う。

以前はサキュバスの様な容姿であった。

特に意識していなかったが羽と尻尾は失われた様だ。

この姿は色白な人族に近い。

この変化は“教皇の加護”の影響だろうか?



ボクは浴室に入った。

湯煙の向こうに人影が見える。

誰か入っているようだ。

湯煙が落ち着くと、その人物の姿が見えてきた。



「ぇ、リディ…様?!」

声の主はこの船の船長のローズだった。


「あ、ローズさん。ボクもご一緒させて頂きますね。」

ボクはにこやかに答えた。

「わ、私、すぐに上がりますから!」

ローズが湯船から出ようとした。

「大丈夫ですよ! ボク、体洗ってますからゆっくり浸かっててください。」

「・・・」

湯船は温泉施設の様に数人入れるほどの大きさだから、別に二人で入っても問題無いだろう。


ボクは髪の毛と体を洗い終え、ローズが入っている湯船に入ろうとした。

「ん…?」

ローズがボクの方をじーっと見ていた。


「ローズさん、どうかしましたか?」

「リディ様、綺麗…」

「へ…?」

ボクは目を丸くした。

この人は何を言っているのだろう?


「リディ様、透き通る様に白くて、凄い綺麗です。」

「そ、そうですか…?」

ボクはそう言いながら湯船に入った。

ローズはだいぶ温まっていた様で、湯船の縁に腰を掛けていた。


ボクはローズを見た。

ローズの種族はマインドフレイアで、確かに海棲生物の特徴がある。

脚や髪の毛は触手の様になっている。

胸部はリシャール程自己主張が激しいものでは無いが、実に美しいお山だ。


…ボクの様に標高の低いものとは違う。


「ローズさんも綺麗だと思いますよ。スタイル凄く良いじゃないですか。」

「そ、そんなこと無いですよ!」

ローズが恥ずかしそうに両手で頬を触った。


「リ、リディ様にそんなこと言われるとユデダコ、ユデイカになっちゃいますぅ…!」


ユデダコ、ユデイカ。

笑えねぇ。


「ところで、そのリディ様って言うのどうにかなりません? 前に言ったように、ボクはローズさんより上だとか思ってないんですけど…」

「そんな! 私のような下賤な魔族が…」

そこまで言って、ローズは口を噤んだ。

そして上目遣いでボクの方を見た。


「ごめんなさい…。私の種族はその容姿から、同じ魔族に分類されていても差別される対象だったものですから…」


この世界には数多くの種族が存在する。



人間達、人族。

獣人族や妖精族(エルフ)の様な亜人。

ヒスイの様なゴブリンも亜人に分類される。

他にも天使や精霊族の様な者達もいる。


そして魔族だ。

人族による分類では、魔族よりも下位に魔物(モンスター)を置くことが多い。

魔物(モンスター)の中で知性を持ち進化し、形態を変えた種族を魔族に含めることがある。

ローズが属する、マインドフレイアの様な種族がそれだ。

だがその様な種族の物は魔物であった頃の特徴を残すことが多い。

“元々魔族であった者達”は彼等/彼女等を魔物と見なす事がある。

魔族は階級/身分を気にする者が多いからだ。

ローズはそのような経験をしてきたのだろう。



ボクはあまりそう言うのは気にしない。

ボクの体に流れる“ウイユヴェールの血”は上級魔族のそれのようだが、ボクの思考回路には影響しなかったらしい。



「ローズさんは、ボクが魔王の子孫で、人間魔王の娘だって知っているんですね。」

ボクはローズを見た。

「はい…。リディ様のご先祖様と言えば、かつて世界の半分を席巻した魔族の中の王。そしてお父様は元人族でありながらノワールコンティナンの大半を支配する人間魔王様…」



父親か…。

ボクの父親はローズの言う通り、元人族でノワールコンティナンを支配する魔王だ。

野心さえ持てば、世界を席巻出来る力を持つ男。

そして、母さんを殺した男だ。

そんな父は、ボクのこの姿を見たらどう思うだろう。



「ローズさん。ボク自身は魔王じゃないし、階級なんてどうでも良いと思っている。それに…」

ボクは言葉を止めた。

それ以上はローズには関係の無い事だからだ。



「分かりました。リディ…さん。同じ魔族で、そんな風に言ってくれた方は、リディ…さんが初めてです。それじゃ私は先に上がりますね。」

ローズが顔を赤らめながら笑った。


「うん、明日からもよろしくお願いしますね。」

「はい…!」

ボクは浴室から出て行くローズの姿を見送った。






「うーん、良い天気だー。」

翌朝、ボクは甲板に出て大きく背伸びをした。

空は快晴で、穏やかな水面はキラキラを輝いていた。


「あ、リディさん。おはようございます。」

声を掛けてきたのはローズだった。

近くには数人の船員がキビキビと動いていた。

何かの作業をしているようだ。


「ローズさん、おはようございます。朝早くから何か動いているみたいですね。」

「はい。実はこの先4カイリ程先からになりますが、海流が速くなり、海棲魔獣が出ることもあります。それに備えての準備と警戒態勢を取っている所ですよ。」


なるほど、それほど警戒すべき状況が待ち受けているんだな。


「そうだ、ローズさん。ボクにも何か手伝えることはありますか? 何でも手伝いますよ!」

ボクはニコっと笑った。


「そ、そんな! リディさんに私達の仕事を手伝わせるなんて…」

「良いから良いから!」

「そうですか…?」

ローズはそう言いながら、顎に手を当てた。



「リディさんは目は良いですか?」

「目ですか?」


ボクは魔眼を持つから、目の良さには自信がある。


「それなりに良いとは思いますよ。」

「分かりました。この上に見張り台があります。そこから前方海域を見張っていただけますか? 部下をそこに立たせるつもりでしたが、目が良いのであればお願いします。」

「分かりました。念の為装備を整えてきますから少し待っていてください。」

「はい。お願いします。」

ボクは装備を取りに自室に向かった。



見張りか!

ボクの目の良さを活かせる役割かもしれないな!









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