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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第5章 長い旅路・ビエルカ大陸へ
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第44話 白い魔族


「な、何だ…その変化は…!?」


先程、ボクに相対するエクトルが呟いた言葉だ。

どうやらボクの見た目は何かが変化したらしい。

ボクはそれを確かめるように自らの左腕を見た。




…白い。




元々ボクの肌は魔族らしい青白いものだった。

それが雪のよう白い色に変わっていた。

また風に揺れて視界に入る髪の毛も、紫から真っ白に変わっていた。

鏡を見たわけじゃないから顔は分からないが、肌や髪の色はある異世界人が言っていた『雪女』のような感じと言って良いだろう。



そして変化していた箇所がもうひとつ。



それは右腕だ。

ボクは以前の戦いで右腕を失っていた。

しかし“それ”はあった。

でも“それ”は左腕とは違うものだった。


二の腕からは真っ黒な“それ”が伸び、左腕より筋肉の形が分かるような感じだ。

そして右手の爪は鋭いものだった。

まさにこの“黒い右腕”は獣化したようなものだったのだ。

この右腕はそれなりの攻撃力がありそうだ。



「・・・!」



エクトルが何かを叫んでいる。

恐らく部下の神殿魔術師(テンプルソーサラー)達に何か指示を出しているのだろう。

それを受け、神殿魔術師(テンプルソーサラー)達が魔法を発動させている。

放たれた魔法が次々とボクに襲いかかった。



スローモーションだ。

ボクにはその魔法の軌道が良く見えていた。

ボクの感覚は非常に研ぎ澄まされていた。

ボクは魔力を込めた剣圧で魔法を相殺した。


このタイミングで、エクトルは踏み込んでくるだろう。


目を向けると剣を振りかぶったエクトルが接近してきていた。

ボクはそれに対し、“黒い右腕”で対応することにした。



「ガフ…!」



ボクの“右腕”がエクトルの脇腹を捉えた。

エクトルは苦悶の表情を浮かべてその場に膝をついた。



「エクトル様。状況を分かっていますか? あなた方では今のボクには勝てません。降伏してください。」

「馬鹿にするなよ化け物め…。私とて、覚悟無く戦っているわけでは無いのだ!」

エクトルはボクの服を掴んだ。

何が彼を突き動かしてるかは分からないし、知ろうとも思わない。

ボクは冷酷にはなれない性格ではあるが、覚悟を決めた敵を野放しにするほど甘くは無い。



「ではテンプルソーサラー(かれら)はどうしますか? あなたの覚悟は理解しましたが、彼等もそれに巻き込みますか?」

「ククク。貴様は化け物の癖に甘い奴だな…。これは私の戦いだ。始末は私がつける。」



その瞬間、エクトルから黒い魔力が噴き出してきた。

ボクはエクトルの手を振り払い距離を取ってその様子を見た。



「ウォォォォ!」



エクトルがまるで人族とも思えないような咆哮を上げた。

魔力の噴出と共に、前身の筋肉が盛り上がっていた。

彼の部下達も呆気に取られたような表情だ。


ボクは“これ”を見たことがあった。

そう、あれは以前戦った巨大な黒妖犬(ブラックドッグ)のようだ。

あの時の巨大な黒妖犬(ブラックドッグ)も、禍禍しい魔力と共に筋肉が肥大化していた。



「コロス…。絶対に…!」



エクトルはその肥大化した力に、精神が押され始めているようだ。

徐々に人としての意識は消えていきそうだ。

彼が人間の内にどうにかしてあげるのが慈悲と言うものだろう。



ダン!


ボクは一気に差を詰めた。


「グォォォォ!」

エクトルはそれに対応しようと、肥大化した右腕を前に出した。


バシュゥゥ!

ボクは“黒い右腕”で攻撃した。

エクトルの右腕が切断され宙に舞った。



「!!!」

エクトルはカッと目を見開いた。

だがそれに怯むことなく残った左腕で剣を拾い直し、ボクを攻撃しようとした。

ボクは素早く左側に回り込み、左手に握った剣を振り下ろした。



「グェェェェ!」

エクトルが断末魔の悲鳴を上げた。

傷口からどす黒い血が噴き出した。

エクトルから流れ出した血液は、人族のそれではない。

傷口はブクブクと音を立て、まるで血液が沸騰しているようだ。


このような血液(モノ)を内包していたなんて…。

エクトルも辛かっただろう。


「エクトル様、お世話になりました。あなたは演技だったのかもしれませんが、エルヴェシウス教徒の多いこの大陸で、ボクや仲間達に偏見を持たず接して頂いた事に感謝します。」

ボクはそう言うと、切先をエクトルに向けた。


「フフフ…。貴女達に偏見などは…持っていませんでしたよ…。私は…力に目が眩んだ…。それだけです…」

エクトルが傷口を押さえながら膝をついた。

意識が戻ったのか。


「リディ殿。貴女は魔族だが、慈悲深い…。決着は…つきました。」

エクトルは目を瞑った。

止めを刺してほしい、と言う事だろう。


「分かりました。それでは…」

ボクは剣を振り下ろした。

城塞都市ロクロワ衛兵隊長、エクトルは絶命した。



ボクは剣を鞘に納め、エクトルに対して一礼した。

全力で挑んできた相手には敬意を表したかったのだ。

そしてその場にいた神殿魔術師(テンプルソーサラー)達を見渡した。


「戦いは終わりました。皆さんを率いていたエクトル様は死にました。ここで手を引くなら見逃しましょう。でももし戦いを続けたいというのなら、最後までお相手しますよ。」

最後まで、と言うのは彼等の死まで、と言う意味だ。

彼等もそれなりに高位の魔術師ではあるが、彼等では今のボクには勝てない。


彼等はもう戦意は喪失していたようだ。

一人、また一人とその場を離れていった。


ボクのほうの戦いは終結した。

港の方はどうだろうか?

ボクは別働隊が港を襲撃するかもしれないと考えていた。

とりあえず港へ急ごう。



数分でボクは港に到着した。

やはり別働隊の襲撃はあったようで所々煙が上がっていたが、船は無事なようだ。


「リ、リディ!?」

ボクの姿を見たヒスイが駆け寄ってきたが、ボクの変化にビックリした様だ。

後に続いて来たリシャールも同じ表情だ。


「やっぱこっちにも敵が来た?」

ボクは二人に問いかけた。

「う、うん。魔術師が攻めてきたけど、皆と協力して撃退したよ。」

「味方に数名の死者は出てしまったが、敵の方により大きい被害を与えることが出来てな。」

「そうなんだ。ボクのほうは、エクトル様がいたよ。残念ながら…、彼は敵に与していたようだ。」

「エクトルのおじちゃんが…!?」

ヒスイが表情を変えた。


「それでエクトル殿はどうしたのだ…?」

「エクトル様は、ボクが殺した。ボクのこの変化は、その戦いの中で起きたものだよ。」

ボクは自分の両手を見た。

すると“黒い右腕”が僅かに光り、数秒後に消えてしまった。

戦いを終えて、魔力の流れを弱くしたからだろうか。

以前の部分的獣化の様に、時間切れで消えた感じではない。


白く変化した髪や肌は元に戻らないようだ。


「リディの“右腕”は魔力の塊の様だな。」

リシャールも同じように感じたみたいだ。


「ところで、ボクの顔ってどうなってる? 同じ感じ?」

「ああ…、鏡を見るか?」

リシャールが道具袋から手鏡を取り出した。

リシャールは美人な高位黒妖精族(ハイ・ダークエルフ)と言うのもあり、とても女性的だ。

彼女の持ち物は割と女性的なアイテムが豊富だ。



鏡に映されたのは左腕等と同様な雪のような白さの顔だった。

目の色は黒で変わらないようだ。

髪の毛はやはり艶やかな白髪に変わっていた。

今までより少し伸びただろうか、サラサラと風に靡いていた。



魔眼はどうだろう?



ボクは魔眼を発動させてみた。

前までは魔眼を発動させると目は金色に変化したが、今は赤く変化するようになったみたいだ。

この効果については検証する必要があるだろう。



「うーん。この肌とか髪の色って元に戻らないのかな? 何か今のボクって魔族っぽくないよねぇ。」

「そだねー。でもさ…」

ヒスイがボクの服の袖をギュッと掴んだ。


「今のリディ、すっごく可愛いよ! 前のリディも可愛かったけど、何か天使さんみたいですっごい可愛い。」

ヒスイが満面の笑みで言った。


「・・・!」

ボクは顔がカァーッと熱くなるのを感じた。

ちらっと鏡を見ると、頬がほんのりピンクになっているのが見えた。

前までは青白い顔で、顔色が変わることはほとんどなかったと言うのに…。



ヒスイは何の気になし凄いこと言うから気を付けないといけない。

色々とばれちゃうから…。







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