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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第5章 長い旅路・ビエルカ大陸へ
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第42話 教皇の加護


出発前日、ボク達はエルヴェシウス教神殿を訪ねていた。

教皇・アンナマリーに挨拶をする為だ。

少し会話を進めてるうちに、アンナマリーはボクの膝の上に乗って来た。


「アンナマリーのお陰で、バルデレミー商会の人が協力してくれることになったよ。ありがとう。」

「そっかー、良かったね。でも…」

「でも?」

ボクの膝の上に座っていたアンナマリーが足をブラブラさせた。


「わたしは少し寂しいな。せっかくお友達が出来たと思ったのに…」

「ああ…」

ボクはアンナマリーの頭を優しく撫でた。


「そうだね、ボクも寂しいよ。でもボクは行かないといけないんだ。」

「うん…」

アンナマリーがボクにもたれ掛かった。

少しそうさせてあげよう。



「失礼致します。」

アンナマリーの部屋にアリーナが入って来た。


「ア、アニー!? 何と言う事を!? 降りなさい! リディ殿、すみません。」

「いーじゃん。リディが嫌がってないんだし。もう、お姉ちゃんはほんとにうるさいんだから。」


アリーナさん、叱る相手間違えていませんか?

普通だったら教皇を膝に乗せてる方を怒ると思うんですけど…?

まぁこの際、何も言うまい。


「アンナマリーとアリーナって、もう本当の姉妹みたいだよね。仲良し姉妹って感じ。」

ボクはにこやかな顔で言った。


「そ、そうか!?」

「ほ、ほんと!? えへ、えへへへ…」


赤面しながら答える二人も満更じゃないらしい。


「あーあー、そろそろ入っても良いかね?」

咳払いをしながら枢機卿・クリストハルトが部屋に入って来た。


「まったく幸せな連中だよ。」

肩にはディートリヒが止まっていた。


「クリストハルト様! ディートリヒ様!」

ボクはアンナマリーを抱えて立ち上がろうとした。


「いや、そのままで…と言うかリディ殿は今、膝に教皇猊下を乗せているのだぞ。儂より下座に下がろうとせんでくれ給え。」

「あ、それもそうですね。」


てへぺろ☆

転生者の友人が言っていた。

これはこういう時に使う言葉らしい。


「・・・」

ディートリヒが呆れた様な表情で見つめていた。

まったく冗談が通じない奴だ。



「さて本題に入ろうか。リディ、君は明日ここを立つ様だね。」

「はい。バルデレミー商会の協力で、南のビエルカ大陸に向かう事になっています。」

「なるほどね。だいぶ遠回りになるが、それしか方法は無いという事か。」

ディートリヒはフンフンと頷いた。


「リディ殿達がここを立った後も、儂等は神殿魔術師(テンプルソーサラー)の件を調査するつもりだ。」

「それとリディが解決してくれた黒妖犬(ブラックドック)の事もね。」


そう言えば黒妖犬(ブラックドック)討伐の依頼(クエスト)で捕まえた連中は城塞都市ロクロワに引き渡しんだったな。


「そうですか。よろしくお願いします。」


「儂等は貴殿に感謝している。何だかんだ、リディ殿がいなかったら何も事態は動かなかっただろう。」

「僕はあまり感謝していないけどね。」

「こら、ディートリヒ殿!?」

「あいた!」

クリストハルトがディートリヒを人差し指で突いた。

この人達も相変わらずだ。


「いたた…。そうだ、これはこの前の依頼(クエスト)報酬を兼ねた選別だよ。」

ディートリヒがパタパタと飛びながら、ボクに袋を渡して来た。

ピクシーのディートリヒの体躯と同じほど袋はズシリと重かった。


「今回の教皇猊下救出の報酬の分も足しておいた。…それとこれは儂からの礼だ。何かあった時に使うと良い。」

クリストハルトからは呪文書(スクロール)を数枚渡された。


「お二人とも…、ありがとうございます。」

ボクはペコリと頭を下げた。


「わたしも何かあげたいところなんだけどなー、そうだ。」

膝の上で足をブラブラしていたアンナマリーが、くるりとボクの方を向いた。


「わたしからは“これ”をあげるね!」

そう言った直後、アンナマリーの顔がボクに接近した。




「え、あ…。むぐ~~~~~!」




唇に触れる感触。

そう、これはアンナマリーの唇だ。




「こ、こら! アニー! なにしてるの!?」

ボクは目を瞑っているので見えないが、おそらくアリーナが止めに入ろうとしているのだろう。




数秒後、アンナマリーがボクから離れた。


「・・・!」

ボクはアンナマリーを見た。

アンナマリーは少し顔を赤くしながらニコっと笑った。

ボクはもともと青白い顔色だから分からないだろうが、普通の人間ならボクも顔が紅潮していただろう。


「うふふ、今のは“教皇の加護”だよ。そんなの貰えるひとなんて、滅多にいないんだからね。」

それはそうだ。

教皇と言えば、その宗教における王である。

そんな人物から直接加護を受けられる者なぞ、その宗教を信じる者でさえ滅多にいるものでは無い。

…それも口付けなんて。


「口付けと言うものは最も簡単で、最も強力な契約方法のひとつと言われている。何の恩寵(チカラ)が与えられたか分からんが、有難く受け取っておくことだね。」

ディートリヒがニヤニヤしながら言った。


「え、あ、はい…」

ボクは自分の口を押さえた。

特に何も変化は感じないが、これが恩寵だと言うのならそう思う事にしよう。


「…それじゃ準備もあるのでそろそろ戻ります。お世話になりました。」

ボクは目の前の“友人達”を見た。


「ああ。リディ殿のお陰で色々と事態が動いた。こちらからも礼を言うよ。体には気をつけてな。」

「そうだね…。少しは面白かったかな。」


「リディ、また会えるかな?」

「私にはこんな事しか言えないが…。リディ殿、ご武運を!」


“友人達”はボクに優しい見送りの言葉を掛けてくれた。

ボクは彼等に再び礼を言うと、エルヴェシウス教の神殿を後にした。





翌日、ボク達はエルヴェシウス教国を出発した。

まずはここから東方にある、バルデレミー商会管理の港を目指すそうだ。

てっきり陸路で南方に向かい、そこから船に乗るものだと思っていた。


かつてはペンザ枢機卿国より南方に港があったそうだがこの大陸に住まう人族の勢力が縮小するにつれ街道が荒廃し、現在では使用されなくなったらしい。

もっとも東の港を出港した後は陸伝いに航行し、南方の港跡近傍まで向かってから更に南方の大陸に向かうという事の様だ。


3時間程経っただろうか。

ボク達の一行は然したる問題も無く、バルデレミー商会の港に到着した。

“港” と言ってもそれ程大きなものでは無くバルデレミー商会の管理事務所と警護兵の詰め所、そして桟橋があるこじんまりしたものであった。

桟橋の先には中型規模の帆船が係留されていた。


「出航は1時間後です。皆様はそれまでお待ちいただけますでしょうか。ご希望であれば私共の施設でお休み頂くことも可能です。」

バルデレミー商会の担当者がそう告げてきた。


「そうですか…」

ボクは少し上を見上げた。


「いや、大丈夫です。この近くでブラブラしていても良いですか?」

「それは構いませんが…、出発まで近くにいる様にしてください。」

そう言うと、バルデレミー商会の担当者は自身の施設の方に歩いて行った。


「ねぇ、リディ。どうしてあの人たちのお部屋で休まないの?」

ヒスイがボクを見上げた。


「あーうん、ちょっとね…」

ボクは南西方向の丘のほうを見た。




間違いない。あの方向から誰かが見ている。







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