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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第4章 侵入、エルヴェシウス教国
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第38話 決着、希望の絶望の先に


もうどれくらい時間が経ったのだろうか?

ボクとアンピプテラとの戦いは開始してかなりの時間が経過した筈だ。

互いにダメージは蓄積していた。




だがこれももうすぐ終わりを告げるだろう。

この戦いはボクの敗北で終了する。

ボクの力を大幅に引き上げてくれる“獣化”の能力。

これは元々制限時間があった。


ディートリヒがボクに“呪い”を掛けた時、ボクは彼にある“願い”をした。

彼はボクに3回獣化を発動したらその力を失うような呪いを掛けた。

だがボクはその後、呪いの“変更”を願い出た。


そう、1回の発動で力を失うように願い出たのだ。

その代わりに力の上昇値・継続時間限界が上がることになった。


だがそれももう終わる。

ボクには分かる。

相手(アンピプテラ)にはその様な制限時間は無い。

同じようにダメージを蓄積していても動きを停止させるような事が出来なければ、相手(アンピプテラ)はボクを攻撃し続けるだろう。




ブワァァァ!

目の前に焼け付くような(ブレス)が迫った。



「く…!?」

ボクは外套で身を包み、何とか攻撃を防ごうとした。


苦しい。

息をするのもやっとだ。


「ゲ、ゲホ…!」

攻撃を防ぎ切る事は出来なかった。

これは気管を火傷したようだ。

ボクはガクッと膝をついた。



動け…!

動け…!



ボクは何とか立ち上がろうとした。

…力が入らない。

蓄積したダメージもそうであるが、原因はそれだけでは無い。

そう、“獣化”出来る時間が終わったのだ。

ボクは霞んだ目で前を見た。

アンピプテラがゆっくりとボクに迫った。

もう魔眼を発動する体力も残されてはいない。




カール、今までボクを助けてくれてありがとう。

君はボクを待っていてくれたかな?

ボクももうすぐ君のところへ…




ボクはその場に崩れ落ち、静かに目を閉じた。

ボクは死を覚悟した。




「へぇ、頑張ったじゃないか。リディ。」

「後は儂等に任せて休んでいたまえ。」



この声は…!?



声の主は、ディートリヒとクリストハルトだった。


「リディ! リディ!!!」

そしてボクは誰かに優しく抱き起された。

何とか目を開けると、ぼやけた視界の先にはヒスイが見えた。

目にはたくさん涙を溜めていた。


「待っていろ。今回復魔法を掛ける。」

リシャールも精いっぱいの回復魔法を掛けてくれた。




「ほぅ…。あれはかつてディートリヒ殿と儂で討伐したアンピプテラでは無いか?」

「その様だね。まさか不死(アンデッド)化して復活しているとは思わなかったな。」




二人で討伐…?

確かに二人はかつて冒険者だったとは言っていたが。




「久々にあれをやろうか? 希望のクリストハルト。」

「そうであるな。だが儂はあの時と違い年老いたのだ。少しは手加減を頼むぞ。」

「ふん、泣き言は聞きたくないね。」

「貴殿は相変わらずだな。絶望のディートリヒ。」



二人はいったい何をするつもりだろう?



「さて、君達は死にたくなければ儂より前に出ない事だ。」

クリストハルトがボク達の前に立ち、両手を広げた。

すると前に薄っすらと輝く力場(フィールド)の様なモノが展開されていった。

所謂ハニカム構造の様な力場(フィールド)だ。


「これを見て生き残れるのはほとんどいないから、君達は幸運だよ。僕のチカラを良く見ておくことだね。」

そう言うとディートリヒは高く飛んでいき、アンピプテラに相対した。

手を掲げると黒い何かが湧き出して来た。



何だアレは…?

ゾワゾワとする、アレは良くないものだ。



「滅せよ、分子崩壊!」

ディートリヒから湧き出た黒いモノがアンピプテラを捉えた。

いや、あの黒いモノは無差別に飛び回るらしい。

それはこちらにも飛んできた。


だがクリストハルトの力場(フィールド)がそれを防いだ。

正確に言えば当たった瞬間には力場(フィールド)が損傷するのだが、すぐに修繕されていく。



グォォォォォ!!!



アンピプテラの断末魔の悲鳴が辺りにこだました。

ディートリヒが放出した黒いモノが当たった所から、アンピプテラの体がチリチリと崩壊していく。



「あれは…ロクなもんじゃない…」

その光景を見ていたリシャールが呟いた。

リシャールは魔術師だ。

当然、魔法に関する知識は豊富に有していた。

だがあれはそれのどれにも該当するものでも無い。

土鬼族の村を守る時に人族の魔導士が使ったような神級魔法とも違う。

アレは全ての規格から外れているような代物だ。



「ち…。相変わらず重い。」

クリストハルトが顔をしかめた。


「クリストハルト様、アレはいったい何ですか…!? どう見てもまともな魔法じゃない。」

「あれはディートリヒ殿の最大能力(スキル)、分子崩壊だ。あの黒いモノに接触した物を、分子レベルで崩壊させる。彼は命を吸い取る能力、と言っているがね。」

「分子、崩壊…!?」

「ああ。彼は、ディートリヒ殿は転生者だ。彼は前世での仕事が、あの力を獲得するのに役立ったと言っていたがね。儂には良く分からんが…」

クリストハルトは少しよろけたが、すぐに体勢を立て直した。


「あの分子崩壊を防げるのは儂の完全防御しかない。もっとも、気を抜くと分子崩壊に突破されるがな。」


「アハハ、喋ってないでしっかり防御したらどうだい? 君もまだ死にたくないだろ?」

ディートリヒが高らかに笑った。


「ぬかせ。儂は寿命以外で死なぬと決めておるのだ。」

「その意気だよ、クリストハルト。」

ディートリヒはそう言うと更に力を込めた様だ。

更に多くの黒いモノが放出され、アンピプテラを包み込んだ。



グワァァァァァ!!!!!!



先程よりも大きな悲鳴だ。

そして数分後、アンピプテラの姿は欠片も無く消滅した。





戦いが終わり、あたりはシーンと静まり返った。

「ふー、さすがに疲れたね。」

ディートリヒがすーっと近くまで降りてきた。


「儂も、ヘトヘトだ。」

クリストハルトもよろよろと座り込んだ。


ボクはリシャールの回復魔法で何とか最低限の体力を取り戻した。

それでも体を起こすのはきつかった。


「リディ!」

アンナマリーがアリーナに抱えられ、ロープで下まで降りてきた。


「良かった、間に合って…」

アリーナも安堵の表情だ。


「アンナマリー達が、クリストハルト様達にここを伝えてくれたんだね。でもまさかこんなに早く…」

ボクはクリストハルトとディートリヒを見た。


「ああ…。今朝、神殿魔術師(テンプルソーサラー)副団長のエイブラハムと言うのが教皇猊下が行方不明だと告げてきたのだが、奴はアリーナと魔族が怪しいと言っておった。だがそのエイブラハムと言う奴の主張は怪しかったのでな。神殿魔術師(テンプルソーサラー)を探っておったのだが、一部がこの洞穴の近くに部隊を振り分けたという事が分かったもので、この辺りを探索していたのだが…」


「そうしたら、教皇とその女騎士が神殿魔術師(テンプルソーサラー)から逃げていたので保護し、ここを聞いたって訳だよ。」



なるほど、そう言う事だったのか。

もしボク達が逗留していた村にいたままだとしたら、ここまで早く来ることは無かっただろう。

ボクは命拾いしたわけだ。



「お陰で命が助かりました。ありがとうございます。」

ボクは二人に礼を言った。


「いや何、礼なら教皇猊下とアリーナ殿に言うのだな。二人が命懸けで神殿魔術師(テンプルソーサラー)の囲みを突破してこなければ、儂等はここに来ることは出来なかったのだ。」


「そうだね。二人ともありがとう。」

ボクはアンナマリー達を見た。


「わたしは大事な友達を助けたかったから…」

「アンナマリー様の仰る通りだ。アンナマリー様の友は、私にとっても友だ。リディ殿は私の心を晴らしてくれたのだ。私の方こそ、礼を言わせてくれ。」


「お姉ちゃーん? わたしはアンナマリー様、じゃなくてアニーでしょー?」

「い、いや。それはあの村の時だけのことで…。私はアンナマリー様の配下でありますし。」

「それなら主筋として、あなたに命じます。わたしの事は今後もアニーを呼びなさい。その代わりにわたしは貴女の事をお姉ちゃんと呼びます。」

「え、ええ…?!」

アリーナはしどろもどろになった。



辺りには笑い声がこだました。

アンナマリーやアリーナは最初に会った時と違って生き生きとした表情になった。


ボクはついに、かつての仲間の能力を失ってしまった。

今後、ボクは大幅に力を落とすだろう。

だが結果として一人の少女と女騎士を明るく変える事が出来たのだ。


ボクは自分を納得させるように小さく頷いた。











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