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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第4章 侵入、エルヴェシウス教国
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第34話 洞穴深部


ここは薄暗い洞穴の中。

周囲には複数の魔物の気配を感じる。

傍らには“エルヴェシウス教皇”と“神殿騎士団(テンプルナイツ)団長”。

どうしてこういう事になったのか?

それは少し前に遡る。




「アンナマリー様をたぶらかす邪悪な魔族め。まずは貴様を成敗してくれる。」

神殿騎士団(テンプルナイツ)団長、アリーナが剣をボクに向けてきた。

この人の腕は先程見たとおりだ。

ボクの今の状態では勝てない。



獣化すればどうか?



勝てる可能性はあるだろうが…。



「おやおや、これは妙な事になっておりますな。」

アリーナの後ろから男の声が聞こえた。

姿を現したのは魔術師風の男だ。


「エイブラハム殿か…」

アリーナが少し後ろを見て男の名前を口にした。

神殿騎士団(テンプルナイツ)の人間が見知っているという事は教会抱えの魔術師なのかもしれない。



「なるほど。こやつが教皇、アンナマリー様をたぶらかしている輩ですか。」

「その通りだ。こいつは私が成敗する。貴殿はそこで見ていてもらおうか。」

アリーナはそう言うと再びボクの方を見た。

この女騎士一人でも打つ手がないのにもう一人仲間が来るとは…。

恐らくエイブラハムと呼ばれたこの魔術師も相当なモノなのだろう。



いったいどうすればいいのだろうか?

目の前の強者二人を見ながらボクは考えた。

この窮地を脱するには、全力を出すしかない。

ボクの後ろに隠れているアンナマリーはボクの服をぎゅっと掴んでいた。

こうなれば致し方ないか…。



左拳に力を入れて獣化しようとしたその時、エイブラハムが口を開いた。



「それでは困るのですよ、アリーナ殿。神殿騎士団(テンプルナイツ)が我が国最大の戦力なのはお認めしますが…」

「…? 貴殿は何を…!?」

「“魔王”の子を仕留めるのは我等神殿魔術師(テンプルソーサラー)で無いとね。」

エイブラハムが両手を一度天に翳したあと、その両手を地面に置いた。

その刹那、ボクやアンナマリーだけで無くアリーナをも包み込む様に魔法陣が展開された。



「な、何だこれは…!?」

魔法陣から光が発せられた。

動くことが出来ない。


「エイブラハム! 貴様、何のつもりだ!?」

アリーナが何とか振り向こうとした。


「我等、神殿魔術師(テンプルソーサラー)が国を牛耳るには貴女は邪魔だ。貴女がいない神殿騎士団(テンプルナイツ)等恐れるに足らぬ。」


「何故アンナマリー様も巻き込むのだ!? 貴様にとっても主であろう…!」


「フン、そんな小娘、いてもいなくても変わらぬが、我等に都合の良い主を担ぐには邪魔なのでな。」


「き、貴様ぁ! この不忠者がぁぁ!」

アリーナが一歩エイブラハムに近付いた。


「さてお喋りは終わりだ。闇の中で教皇やその魔族共々、魔物に引き裂かれるが良い。」

エイブラハムがそう言った瞬間、魔法陣からの光が一気に強まった。

そしてそのすぐ後、目の前が闇に包まれた。





次に目が覚めると、ボクは真っ暗な場所にいた。

体を動かすとあちこちが痛い。

高い所から落ちた様だ。

しかし幸いにも打撲だけで済んだみたいだ。


「ここはいったい…」

闇に眼が慣れてくると、ボクの腕の中にアンナマリーがいるのが見えた。

目の前が暗くなった時、抱き寄せたのが功を奏したらしい。

ショックで気を失っているようだが、大きな怪我は無さそうだ。


ボクは周囲を見渡した。

まずはここがどこかを確かめなければならない。


「あ…!」

少し離れた所に、神殿騎士団(テンプルナイツ)団長のアリーナが倒れていた。

ボクはアンナマリーを静かに地面に降ろした。


彼女は左手で右腕を押さえていた。

声を上げることは無いが顔には脂汗をかき、歯を食いしばっていた。

どうやら利き腕を骨折しているようだ。

ボクはそんなアリーナに近付いた。


「う…!?」

アリーナがボクに気が付いた。

そしてすぐに視線を落とした。

ボクに剣を向けていた時の様な殺気はまるでなかった。

寧ろ生気を失い、自分の運命を受け入れているようなうつろな表情だ。

先程までボクに剣を向けていたのだ。

ボクに殺されると思っているのだろう。



「・・・」

ボクは道具袋から呪文書(スクロール)を取り出すと、アリーナの傍で膝をついた。

アリーナはボクに目を向けた。


「解放…」

ボクが呪文書(スクロール)を解放すると、優しい光がアリーナを包み込んだ。


「おまえ、何のつもりだ…」

アリーナが言葉を絞り出した。


「動かないで。効果が出るまで少し時間が掛かる。」

ボクが使ったのは治癒魔法の呪文書(スクロール)だ。

かつての仲間に書いてもらったものだ。

その仲間は治癒魔法が得意だったから、即効性は無いがかなりの治療効果が期待できる。


それはアリーナも感じ取ったらしい。

アリーナは再び目を伏せた。


「ど、どうしたの?」

アンナマリーの声が聞こえた。

どうやら意識を取り戻したようだ。


「アリーナさんがケガをしていたんだ。でも大丈夫、治療しているからね。」

「ほ、本当?」

「うん。ちょうどそういう呪文書(スクロール)を持ってたからね。」


暫くすると、呪文書(スクロール)の光が消えた。

治療が終了したのだ。


「そ、その、すまない。」

アリーナがボクに視線を合わせることなく言った。


「ああ、気にしなくていいよ。」

ボクは立ち上がって洞窟の壁に寄りかかった。

ボクも大怪我している訳じゃないが所々打撲しているから痛いのだ。


「アンナマリー様、申し訳ございません。私がついていながら、この様な危険な目に…」

アリーナが膝をついて畏まった。

アンナマリーはどう反応したらいいか分からないような表情だ。


「アリーナさん。あのエイブラハムとか言う魔術師はボク達に転移魔法陣を使ったようだ。あの口ぶりでは、ここはかなり危険な場所だと思う。今はまずはどうしたらここから脱出出来るかを考えよう。」

ボクは口を挟んだ。


「そ、そんなことは分かっている。…エイブラハムの不忠者め、許さぬ。」

「そのイキだ。貴女にとってボクは忌むべき存在だろうが、まずは休戦しよう。」

「な、何だと!? 誇り高き神殿騎士団(テンプルナイツ)の私が貴様の様な…!?」


あーメンドクサイ。

誇り高いのは良いが、凝り固まったこの考えは如何なものか。

ボクにとっては生き残る為なら誇りなんてもはやどうでもいい。


「アリーナさん、貴女ね…」

ボクがそう言い掛けた時、アンナマリーがスクっと立ち上がった。

そしてボクとアリーナの前に立った。

その目は意を決したかのような力強いものだ。


「アリーナ、もうおやめなさい。わたしの友であるリディを貶めるのは、わたしの事を貶めるものと心得よ。」

「ア、アンナマリー様…!?」

アリーナが目を見開いた。

アンナマリーは自らに巻かれている包帯を解き始めた。


「お、おやめください!」

アリーナが止めようとした。

だがそれでもアンナマリーは解くのをやめない。


そして包帯で隠されていた部分が露わになった。


「ア、アンナマリー…」

ボクは愕然とした。


包帯で隠されていた部分。

左の目は本来白い部分が黒く、通常瞳がある部分が小さく光っていた。

その目の周りには痣の様なものがあり、その痣は左腕にも表れていた。

左腕の痣はまるで蛇が巻き付いているような模様だ。


「エルヴェシウス教歴代の教皇は力を得るために魔を取り込む呪法を受ける。教義では魔を排斥すると言っていると言うのに。…特にその力の影響を受ける者はわたしのように表層にまでそれが現れるんだ。」


「・・・」

アリーナがガクッと肩を落とした。

アリーナは元々知っていたのだろうが、ディートリヒが言っていた教皇に関わる秘密と言うのはもしかしたらこの事なのかもしれない。


「アリーナ、わたしにも魔の部分がある。もう一度言う。リディを侮辱するのは許さぬ。」


「…分かりました。リディ殿、今までの無礼を許して頂きたい。」

アリーナがボクに向かって頭を下げた。


「あー、大丈夫だよ。アリーナさん。頭を上げてくれ。」

謝罪している者を拒絶しようとは思わない。


「感謝する…」

アリーナはそう言うと傍らに落ちていた剣を鞘に納めた。

もうボクに対しての敵意は無いのだろう。


「ところでここはどこだろう? 何か心当たりはない?」

ボクは二人を見た。


「そうだな。エイブラハムの転移魔法は3名を同時に転移させたから、さすがに凄い遠くまで転移させられない筈だ。エルヴェシウス教国内だと考えると、北方の山岳地には深い洞窟があった筈だ。」

アリーナが腕を組んだ。


「かつては神殿騎士団(テンプルナイツ)神殿魔術師(テンプルソーサラー)の修練場として使われていたらしいが、ある時強大な力を持つ魔物が住まうようになったらしい。それ以来足を踏み入れる者はいなくなったそうだから、詳しくは分からんがな…」


どうも想像以上に面倒な場所の様だ。


「それでも出口を探すしかないじゃない。」

ボクはアンナマリーの包帯を巻きながら言った。

ここにいたって何も始まらない。


「そうだな…」

「うん。」


二人も頷いた。

こうしてボク達は即席パーティを組んで、謎の洞窟の中を歩き回ることになったのだった。





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