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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第4章 侵入、エルヴェシウス教国
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第31話 ペンザ枢機卿国


ペンザ枢機卿国。

この国はエルヴェシウス教教皇家の傍流家が君主を務める国だ。

人口は1万人程。

当然の如く国民の殆どが敬虔なエルヴェシウス教徒だ。



ボク達の隊商は数日間の行程を経て、このペンザ枢機卿国へやって来た。


「北の方を見ろ。遠くに城の様なものが見えるだろう? あれがエルヴェシウス教国だよ。」

ディートリヒが指さした方角に確かに小さく城の様な建物が見えた。


「直行できれば楽なんだがな。まずはペンザ枢機卿国だ。」


急いては事を仕損じる、とも言う。

何事も焦ってはいけない。



「止まれー!」

ペンザ枢機卿国の城門に近付くと大きな声が聞こえた。

ペンザ枢機卿国の警備兵である。

この大陸にある人族の町は基本的に城の中にある。

人族の勢力圏が小さいのだから致し方ないことだ。


「私はロクロワ衛兵隊長のエクトルと申す。我等は城塞都市ロクロワ公式の隊商として参った。」

衛兵隊長のエクトルがこれに応じた。

「こ、これは失礼を…。恐れながら鑑札をお見せ頂きたい。」

警備兵は畏まりつつも、自らの任務を遂行しているようだ。


「ここに…」

エクトルは鑑札を取り出し、警備兵に渡した。

「確かに…。ではここをお通りください。おい、門を開けよ!」

警備兵が号令をかけると、ギシギシと軋む音を立てながら城門が上がっていった。


ボク達の馬車はそれ以上の検査を受けることも無く、城門を通過した。

2台目の馬車、つまりボク達が乗っている馬車を検められたら大変な騒ぎになっていただろう。

ここに乗っているのは皆、エルヴェシウス教徒が嫌う魔の者だけなのだから。

まぁ、ギルドマスターのディートリヒがロクロワ市長に促して発行させた正式な鑑札を持っていたのだから、そのリスクはかなり小さいものだったのだが。



「良いか? この町を含め、最終的な目的地のエルヴェシウス教国は僕達を敵視する者ばかりだ。行動には注意せねばな。」

ディートリヒはホロの隙間から町を見ながら言った。


「どうすると言うのだ? この国の使節団に入らねばならんのだろう?」

リシャールが口を挟んだ。


「幸いなことにこの国の為政者、ペンザ枢機卿とはパイプがあるのさ。この馬車は枢機卿の館に直行している。」

そりゃそうだよな。

そうでも無ければ使節団に入るなんて出来るものでは無い。



十数分後、どうやら枢機卿の館に到着したようだ。


「よし、降りて良いぞ。」

ディートリヒに促され、ボク達は馬車を降りた。

そこはすごい広いわけでは無いが綺麗に手入れされた中庭にような所だった。



「これはこれはようこそいらっしゃいましたな、ディートリヒ殿。お元気そうで何よりです。」

声がした方を向くと、法衣を着た人が良さそうな白髪の老人がいた。


「そう言うキミも元気そうだが、また年を取ったようだね。」

ディートリヒはそう言うと、パタパタを老人に近付いて行った。


「ハハハ。貴殿と一緒にしてはいかぬよ、絶望のディートリヒ。」


「ふふふ、そのあたりは相変わらずだな。希望のクリストハルト。」


どうやら二人は旧知の仲のようだ。


「おっと、これは失礼。紹介するよ。この人がペンザ枢機卿国の君主、クリストハルトだ。」

ディートリヒが小さな手で指さしながら言った。


「お初にお目にかかります。儂がクリストハルト・アウグスト・ペンザと申します。」

ペンザ枢機卿・クリストハルトが一礼した。


「あ、えっと、ボクはリディ・ベルナデット・ウイユヴェールと申します。この二人は仲間の、ヒスイとリシャールです。」

ボクはペコリと頭を下げた。

リシャールも続いて一礼した。

この辺り、一般的な常識があって助かる。


「ねえ、クリストハルトのおじちゃん。さっき言ってた希望の、とか絶望の、ってなぁに?」

ヒスイがボクの服の裾を掴んだまま言った。


「ヒ、ヒスイ! この人偉い人なんだから、ちゃんとしなきゃ…」

ボクはヒスイを止めようとした。


「いやいや、構わぬよ、リディ殿。絶望のディートリヒ、希望のクリストハルトと言うのは、ディートリヒ殿と儂に付けられた二つ名じゃよ。ま、その理由(わけ)はその内話して進ぜよう。さて…」


クリストハルトが手を上げた。

すると法衣を着た部下達が数人出てきた。


「立ち話も何だから奥に入られよ。ディートリヒ殿が友人を伴ってくるというから楽しみにしていたのだ。豪勢という訳にはいかないが、食事を用意している。荷物は部下達がお運びする。来なさい。」


「ごはん! やったぁ、俺おなかすいていたんだよ!」

ヒスイがぴょんぴょんと飛びながら喜んだ。

つい最近まで成長したと思ったのに…、現金な…。

だがそこがいい!



そんなこんなでボク達は枢機卿のもてなしを受けることとなった。

クリストハルトは豪勢ではない、と言っていたがそんなことは無く、どこから見ても豪勢な食事だった。


「おいひ~~!」

ヒスイなんかはニコニコしながらご飯を頬張っていた。

ボクはその様子を目を細めながら見ていると、クリストハルトに話し掛けた。



「リディ殿、食事はもう良いのかね?」

「クリストハルト様…。はい、とても美味しく頂きました。えっと、すいません。ボクは小食な種族なので、せっかく豪華なお食事を出して頂いたのですが。」


「ははは、良い良い。そうだ、少し話さんかね?」

「あ、はい。ヒスイ、リシャール。ちょっと枢機卿様とお話ししてくるからね。」


「ふぁ~い。」

「安心しろ。リディの分は私が食べておいてあげよう。」

リシャールも同類だった。



ボクは軽くため息をついた。


「リディ殿、こちらのテラスで話そう。」

「は、はい…!」

クリストハルトに促されボクはテラスに出た。


そこからはペンザ枢機卿国の街並みが一望出来た。


「綺麗な町ですね。」

「ありがたいお言葉だな。だが、君達にとっては住みにくい町、ではあるがね。」

クリストハルトはそう言いながら席に着いた。


「我が旧友とも大っぴらに会う事も出来ん。」

「ディートリヒ様、の事ですか?」

「ああ。儂はペンザ枢機卿の名を継ぐ前は冒険者だったのだ。ディートリヒ殿は仲間など作ったことないと言ってたと思うがな、実際に彼と組むことが出来たのは儂だけだったのさ。」


「えー、僕は君なんか仲間だと思ったことは無いよ。」

話しているのが聞こえたのか、ディートリヒがパタパタと飛んできた。


「貴殿と組めたのは儂だけだったのは、間違いないだろうが。」

「ん、ああ。それはそうだね…」

ディートリヒがクリストハルトの傍に降り立った。


「まぁそれは良いさ。しかしディートリヒ殿は来る度に変わったものを持ち込むものだ。」

「それはそれで面白いだろ?」

「そうだな…」

クリストハルトがボクの方を見た。



「今日連れてきたのがあの古の魔王ウイユヴェールの血筋で、現“人間魔王”リカロスの子だものな。」

「・・・!」

ボクはクリストハルトに視線を合わせた。


「だとしたら、どうだと言うのです? エルヴェシウス教に仇なすものとしてボクを討ちますか?」

「ははは。討つつもりなら既にそうしてる。」


この言葉は嘘では無いだろう。

この人には底知れぬもの(チカラ)を感じる。


「そうだな。クリストハルトならリディを殺るのはワケないだろうな。リディは、魔王2人の血を引いている割には弱い。」

ディートリヒが真面目な顔で言った。


そうだ。ボクは弱い。


「だが君の覚悟は受け取った。“その後”どうなるかは君の覚悟の強さ次第だ。」

ディートリヒの言葉で、クリストハルトは何かを感じ取ったようだ。


「ふむ…」

クリストハルトはボクを凝視した。

「なるほど。リディ殿は“絶望の”呪いを受けられたのか…」

「はい…」


クリストハルトがディートリヒを見た。

「貴殿はこの様な少女に呪いを掛けるとは何を考えているのか!?」


「うぇ!? そ、そこ?」

ディートリヒは目を丸くした。



何か二人が言い合いを始めたが、ボクは聞くのをやめた。

二人は本当に仲がいいんだな。


言い合いをしている二人を置いて、ボクは部屋の中に戻った。




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