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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第3章 暗躍するモノ
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第29話 掛けられた呪い


「…!」

ボクは意識を取り戻した。

次第に鮮明になってくる風景。

それはボクとロクロワ冒険者ギルドマスター、ディートリヒと会談していた部屋だった。


ボクは一体どれくらい気を失っていたのだろう?



「ボ、ボクはいったい…!? ディートリヒ様、ボクはどれくらい気を失っていたのですか?」

ボクはズキズキと痛む頭を押さえながら、声を絞り出した。


「なぁに、ほんの1分くらいなものさ。」

ディートリヒは笑いながら答えた。


「1分…」

ボクは目を瞑った。

そうだ、気を失う前、ディートリヒはボクに向かって手を翳した。

気を失ったのはその直後だ。



「ディートリヒ様、貴方はボクに何をしたんです…?」

どうも体の調子が良くない。

きっとディートリヒがボクに何かしたに違いない。


「ふふふ、悪いが君に呪いを掛けさせて貰った。」


「の、呪い!?」

ボクは顔を強張らせた。

そう言えば、ピクシーの一族は元来呪術的な能力(スキル)があると言っていた。


「一体どんな呪いを…」


「ふふふ、君にぴったりなものさ…。さっき君が行っていた部分的獣化。これの能力上昇幅と持続時間を大幅に伸ばした代わりに、回数制限を設けたのさ。」


「回数制限…?」


「ああ。あと3回部分的獣化を行うと、君はその能力を失う。」


「な…!」

ボクは愕然とした。

能力を失う、ということは大切な人(カール)を失うという事だ。


「ば、馬鹿な…!? 何故勝手にそんなことを…」


ボクの言葉を聞いたディートリヒが鋭い視線でボクも見てきた。


「君は何を甘えているんだ? 君は先程、部分的獣化(そのちから)は自分のものでは無いと言った。」


「う、う…」


「君は“今の仲間”が大切なハズなのに、“かつての仲間”の恩恵にしがみ付いている。だから僕はそれに見切りをつけられるようにしてやったまでだ。」


勝手な理論である。

だが、正論でもある。

ボクは“かつての仲間”の力で戦っている悩みを口にした。

その力は前述の通り大切な人のものだ。

その力無しに戦う姿を想像できない。


「本当は1回で失うようにしてやりたかったが、そこを3回にしてやったんだからありがたく思ってほしいものだな。ああ、もし君が“今の仲間”を切り捨てて、“かつての仲間”をずっと一緒にいたい、というのなら、その呪いを解いてやらんでもないな。」

ディートリヒがニヤリと笑った。


「・・・」


「さて、その様子ではこれ以上話をしていくのは無理だろう。もう帰って休むと良いよ。」


勝手に呪いを掛けておいて随分な事を言うものだ。

反論をしたい所だが、そんな元気は無い。


「はい…。失礼します。」

ボクはフラフラと立ち上がり、ギルドマスターの居室を後にした。


「…力を失った後どうなるか。それは君次第だよ、リディ。」

ボクを見送りながら、ディートリヒはこうつぶやいたらしい。

だが、ボクにはその言葉を聞き取ることは出来なかった。




その後、ボクは宿に帰った。

ヒスイとリシャールはボクの事を待っていてくれた。

憔悴した表情のボクを見ると二人はすぐに駆け寄って来た。


「どうしたんだ、リディ! その表情はどうしたんだ?」

「大丈夫? どこか調子悪い?」

ヒスイがボクの服にぎゅっとしがみ付きながら、ボクの顔を見上げた。

リシャールも一歩引いた位置で心配そうな顔をしている。



今、ボクの傍にはこんなに心配をしてくれる仲間達がいる。

それなのにボクは…。



「だ、大丈夫…。ちょっと疲れただけだから…」


「ほ、本当か!? あのギルドマスターに何か変な事を言われたんじゃないのか?」

リシャールが顔を紅潮させながら言った。


確かにあの流れからすれば、それも予想できることだろう。

だが仲間達にはあのやり取りは言えない…。


こんなに心配している仲間に、“かつての仲間”の事で悩んでるなんて言えるわけがないじゃないか。



「本当に大丈夫だから…。心配してくれてありがとう。」

ボクは近くにいるヒスイを引き寄せ軽く抱きしめた。


「・・・」

ヒスイが目を瞑りボクの胸元に顔を埋めた。


「し、しかし…」


リシャールが何かを言おうとしたとき、ヒスイが少し離れて再びボクの顔を見てきた。


「分かったよ、リディ。俺はこれ以上、何も聞かない。」

「ヒスイ…」


「俺はリディを信じてる。リディはいつも俺の事を考えてくれている。それはリシャールも、だ。」

ヒスイはチラッとリシャールを見た。

何かアイコンタクトのようものをしたのかもしれない。


「あ、ああ、そうだな。」

リシャールが頷いた。


「だが、私もリディの為に役に立ちたい。…もし私達で役に立てることがあったら、何でも言って欲しい。リディは私の恩人なのだから。」



何て頼もしく、優しい仲間たちなのだろう。

そんな仲間達に対して、ボクはどうすればいいのだろう?


いずれ決断の時がやってくるはずだ。












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