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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第1章 土鬼族の村編
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第3話 土鬼の村(2)

「まさか小鬼(ゴブリン)に助けられるとはな…」

船員の一人が小屋の中を見て呟いた。



ボク達は、土鬼族より村の家々から少し離れた一軒の小屋を宛がわれた。

怪我人には必要な手当てが施され、また木の実等森の食物が提供された。

「しかし…、温かい料理を食べたいもんだぜ。」

「ああ。小鬼(ゴブリン)の奴等、料理なんて文化は無さそうだしな。」

二人の船員が何やら口々に文句を言っているようだ。


「・・・」

ボクはそれを見て立ち上がり、二人に歩み寄った。

「文句を言うのはそこまでだ。君達は助けられた身だぞ。」

二人の船員がビクッと体を震わせた。

「そこで寝ている奴を見ろ。彼は船が座礁した時重傷を負った。助けが無ければ死んでいたはずだ。それに水や食料も尽きていたんだぞ。」

ボクは二人を睨み付けた。


「そうだな。お前の言う通りだ。」

それまで黙っていた魔導士の男が口を開いた。

「例え小鬼(ゴブリン)とはいえ、俺達は奴らに感謝を言わねばならん。その手筈を付けたお前にもな。」

ボクはその男を見た。

「だが奴等、小鬼(ゴブリン)は魔物だ。いつ掌を返すかも分からん。お前もな。」

「君は何が言いたのかな?」

「お前は魔族だ。やつら小鬼(ゴブリン)はお前の事を敵とは思わないかもしれないが、俺達人間はそうじゃない。」


ボクは魔導士の男をじっと見た。

「その通りだ。君達人間が彼らの事を敵視するのなら、そうなるだろう。もし君達が彼等を敵視するのなら、彼らの代わりにボクが君達を殺そう。そして…、ボクは彼らに殺される。ボクは彼ら、土鬼族とそういう約束をしたからな。」

「なんだと?」

魔導士の男は顔をしかめた。

「お前だったら、もし俺達を殺しても逃げおおせるくらいの力はあるだろう。それなのに、わざと小鬼(ゴブリン)共に殺されるというのか? そんな馬鹿な…」

「ボクは、自らの眼に誓った約束は破らない。君達も助かりたければ、大人しく彼らに感謝することだな。」

ボクは金色の魔眼で魔導士と船員達を見た。

特に麻痺等の特殊効果の付与はしていないが、それでも気迫が伝わったようだ。

「分かった、約束しよう。これまでの無礼な発言を許してくれ。そして感謝させてほしい。」

魔導士が頭を下げた。

船員達も戸惑いながらペコペコしている。


「ボクは感謝されるためにやったわけじゃない。それに感謝されるべきなのは土鬼族だ。」

ボクはそう言うと小屋を出た。

…感謝慣れなんかしていないから、居づらかったのは秘密だ。



小屋を出ると、そこには土鬼の長が立っていた。

「これは族長様、この度は彼らに助けを頂き、ありがとうございます。」

ボクは頭を下げた。

「堅苦シイ礼等良イ。リディ殿ヨ、少シ話セルカネ?」

「はい…。ボクで良ければ…」

それを聞いた長は少し歩みを進めた。

少し高台に位置しているこの小屋は、かつて土鬼族と友好的だった人間の木こりが所有していたものだそうだ。

その為人間が建てたものではあるが、壊されることなく来客用として維持管理されていたらしい。

「リディ殿。アナタノ名ニアル、ウイユヴェールダガ、カツテ世界ノ半分ヲ席巻シタ魔王ト同ジモノダナ。」

長はボクの顔を見た。

「リディ殿ハ、モシカシテソノ魔王ノ子孫カ何カデアルカ?」

「・・・」

ボクは押し黙った。

「答エタク無イノデアレバ、ソレデモ良イ。」

「…族長様のおっしゃる通り、3代前、ボクの曾祖父に当たるのが魔王ウイユヴェールです。もっと言えば、今現在黒の大陸・ノワールコンティナンの大半を支配し、新たに魔王と称しているリカロスはボクの父です。」

「ナント…!?」

「父リカロスは元人間で魔王ウイユヴェールを倒した勇者の孫だそうです。どういう訳か知りませんが魔王の孫であるボクの母と結ばれ、そしてボクが母の胎内に命を宿しました。」

ボクは視線を伏せた。

「ですが、ボクの母は人間に命を奪われたそうです。父リカロスは魔に魂を売り、禁術を用いて母を蘇らせました。その結果、ボクはこの世に生を受けることが出来たのです。しかし父の魂は魔そのものになり、危険を感じた母はボクを知り合いの魔族に委ねました。そして母はその後命を落としたそうです。」

「フム、辛イコトヲ話サセテシマッタヨウダナ…」

「いえ…。恩人である族長様には、嘘は言えませんからね。」

ボクは笑いながら答えた。

「ボクの血は魔族である母の血を多く受け継いでいるようです。でもその一方で、魔に魂を売る前の、父の、人間の血も受け継いでいます。父は魔に堕ちたとの事ですが、一度会ってみたいですね…」

「ソウダナ。リディ殿ハオ優シイ心ヲ持ッテオラレル。ソレハ紛レモナク、両親カラ受ケ継イダモノダロウ。我等ノヨウナ、魔族カラシテモ下賤デアロウモノモ良ク思ッテクレテイルシナ。…サテ、儂ハソロソロ行ク。何カアッタラ、ヒスイニデモ言ッテクレ。」

長はそう言うと背中を向け、坂を下っていった。



「…ありがとうございます。」

遠ざかっていく長の背中を見ながら、ボクは頭を下げた。




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