第27話 ロクロワへの帰還
ボク達は黒妖犬討伐の依頼をクリアし、城塞都市ロクロワへと帰還した。
森の中の洞窟内で捕らえた男達はロクロワ到着後、衛兵達に連行されていった。
これから取り調べが行われることだろう。
ボク達は休憩もそこそこに冒険者ギルドに向かった。
依頼の完了報告を行うためだ。
ギィ…
古びたドアを開け、冒険者ギルドの建物に入った。
「あ、リディさん。お帰りなさい。」
受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
どうやら、この女性はボク達への敵愾心を持たないでいてくれているらしい。
その場にいる他の冒険者達はチラチラと視線を送ってくる者や、あからさまに怪訝そうな顔をしているものも見られる程から大違いだ。
「依頼の完了報告に来ました。処理をお願いできますか?」
「あ、それですけど、奥の部屋でギルドマスターがリディさん達をお待ちです。お会い頂ける様、申し付かっております。」
「ギルドマスターさんが…?」
ボクは少し上を見た。
ここのギルドマスターは確かこの冒険者ギルド唯一のAランク冒険者と言っていたな。
会ったことは無いがいったい何の用だろう?
まぁでも、面会がギルドマスターなら会わざるを得ないだろう。
「分かりました。お会い致します。…仲間も一緒で構いませんか?」
「もちろんです。冒険者カードは私にお預けください。依頼が無事完了していることは衛兵隊から確認済みですから、完了処理を行っておきます。報酬もその際にお知らせできるでしょう。」
「はい、お願いします。」
ボク達は冒険者カードを渡した。
「お預かりします。ではこちらへ…」
受付の女性に促され、ボク達は奥の部屋に向かった。
後方から冒険者達の視線を感じるが、気にしないでおこう。
「失礼します、リディさん達をお連れしました。」
「ああ、入ってくれ。」
ここはギルドマスターの執務室。
この中にその人物がいるのだ。
「リディさん、面会の申し出を受けてくれてありがとう。エクトルに報告を受け、一度お会いしたいを思っていたんだよ。」
「…ん、ん?」
視線の先には誰も見えない。
デスクもあり椅子もあるのだが、そこに誰も座っていない。
「えっと…、どこにギルドマスターさんが?」
ボクはきょろきょろとあたりを見渡した。
先程声は聞こえた筈だが。
「ピクシー…、机上のグラスだ。」
リシャールがボクの耳元でささやいた。
ボクは言われるまま、机の上に置かれているグラスを見た。
「う、うえ…?」
ボクは変な声を上げてしまった。
グラスの中には体長が20センチ程度の、背中に翼の生えた小人がいた。
あどけない少年の様な顔をしているが、この手の種族は長命だから年齢まではうかがい知れない。
これは精霊の一種とも言われる種族、ピクシーだ。
ボクは目を丸くした。
この町はエルヴェシウス教の町だったはずだ。
「意外かい? エルヴェシウス教の町の冒険者ギルドのギルドマスターが僕だということが…」
目の前のピクシーがにこっと笑った。
「い、いえ…。少しびっくりはしましたけど…」
「ふふふ。まぁそこのソファに掛けてくれ。」
ボク達はソファに腰掛けた。
少しすると、受付の女性が飲み物を持ってきてくれた。
そこまで見届けると、ピクシーがパタパタと飛んできて、ソファの前のテーブルに止まった。
「自己紹介が遅れたね。僕は城塞都市ロクロワ・冒険者ギルドのマスターのディートリヒだ。見ての通り、種族はピクシーだよ。Aランク冒険者だ。」
ディートリヒがぺこっと会釈した。
「ボクはリディ・ベルナデット・ウイユヴェールです。こちらは仲間のヒスイとリシャールです。」
「うん、お仲間の二人もかなりの実力者のようだ。最上位人鬼と高位黒妖精族か。僕も長く生きているが、目にするのは初めてだね。」
ディートリヒはヒスイ達の実力を的確に見抜いているようだ。
「そして君…リディ。君は…」
ディートリヒがボクの顔のすぐ前まで飛んできた。
「君については良く分からない。強いのか弱いのか、エクトルは強者だと言っていたが…」
「き、貴様! 我が友を愚弄するのか…!?」
リシャールが立ち上がろうとした。
「リシャール…!」
ボクはリシャールを制止した。
「訂正しよう。リディ、君は確かに強いのだとは思う。だが、“それ”は君のチカラか?」
「・・・」
ボクは何も答えられなかった。
ヒスイやリシャールはボクの魔力を持って進化した。
だがボクの魔力は彼らの進化を促しただけで、触媒になったに過ぎない。
紛れもなく彼ら自身の実力だ。
だがボクは…。
「まぁいい。この話は本題じゃないからね。さて…」
ディートリヒは再びテーブルに降り立った。
「本題に入ろう。まずは今回の依頼をクリアしてくれたことに感謝している。君達が受けてくれなければ、それを達成することは出来なかっただろう。」
「確かに、あの洞窟内で対峙した巨大な黒妖犬は強敵でしたが…。Aランクの貴方が出ていけばクリアできたのではないでしょうか?」
ボクは金色の魔眼でディートリヒを見た。
「それは君のチカラか、そうだな…」
ディートリヒは臆する事無く視線を合わせた。
「僕がピクシーでありながらギルドマスターをやっている。その理由は、この町の冒険者では僕が一番強いからだ。」
この言は偽りでは無いだろう。
魔力検知でもそれを示している。
「しかし、僕の力は実力無き者と共闘するには向かない。殲滅しない作戦は僕には向かない。」
ディートリヒがニヤッと笑った。
「黒妖犬を殲滅するだけなら、僕が出ていけばいいだろう。だが真相の究明までするには僕では無理だ。君達は黒妖犬を討伐してくれただけではなく、首謀者に繋がるかもしれぬ者どもも捕らえて来てくれた。」
感謝の言葉っぽい発言の中にしれっと自分の実力を自慢しているようだが、口を挟めるものでもない。
「ロクロワ冒険者ギルドとしては感謝の意を示さなければならない。エクトルから君達がエルヴェシウス教国に行きたいと聞いている。これについて提案があるんだけど聞いてくれるかい?」
ディートリヒが真面目な表情で言った。
これがエクトルが言っていた、唯一の手段か。
一体どういうものなのだろう?




