第23話 黒妖犬討伐(3)
一行は街道から外れ、森の入り口に差し掛かった。
「目撃情報から、黒妖犬はこの森を根城にしているようですね。」
案内役のヴィクトルが前方に広がる森を見た。
「ふーむ、中々深そうな森だね。」
「ああ。それに強い魔力も感じるな。」
ヒスイとリシャールが感想を口にした。
なるほど、確かに二人の言う通りだ。
ボク達3名の保有属性と同じような“闇属性”の魔力が森全体から発せられているのが感じられた。
「ヴィクトルさん。ボク達はこれからこの森に入る事になりますけど、あなた方は大丈夫ですか? 結構な魔力が感じられますので、ある程度の耐性が無いと魔力に当てられてしまうようです。」
「そ、そうですか? それでは…」
ボクの言葉を受け、ヴィクトルは部下達と話し始めた。
「リディ殿。森へは私とこのデニスが一緒に行くことになりました。馬車はここに置いていく事になりますから、残りの2名はこの場所の確保を申しつけました。」
「分かりました。」
ボクは二人を見て魔力検知を発動した。
確かにこの二人であれば、強大な敵さえ現れなければ大丈夫だろう。
「では行くとしよう。ボクが前を行って前を視る。リシャールは定期的にポイントを作ってもらえるかい?」
「帰りを迷わない様にする、という事だろう? 任せておけ。」
リシャールは頷いた。
ボクは魔眼があるから罠をある程度見破ることは出来る。
だが地図が無い所を行くわけだから、来た道をマッピングすることが必要である。
リシャールはそのあたりに長けていた。
さすがはかつて兵を率いていた、と言う所か。
「ねえねえ、俺は俺は!?」
ヒスイがぴよんぴょん跳ねながらボクの服を掴んできた。
「ヒスイはボクの横にいてくれればいいよ。」
「わぁい! 俺、横にいる!」
「ヴィクトルさんたちはボク達の後ろにいてください。後方の警戒はお任せします。」
「心得ております。」
「では行きましょう。」
態勢を整え、ボク達は森に入った。
さて闇属性の魔力が漂ったこの森だが、特に名前は付けられていない。
ヴィクトルの話によれば、有史以来特に人の手が入ったことは無いらしい。
「リディ殿、どんどん進まれているが、何か当てがあるのですか?」
随行のデニスが声を掛けてきた。
「当てと言いますか、魔力が強く感じられる方向に進んでいます。その方向に獣道が出来ておりますし、黒妖犬はこの先から来ていると見て間違いないでしょう。」
ボクは前方を指さした。
草木がなぎ倒された後、獣道が森の奥へ伸びていた。
「なるほど…。確かにそうですな。」
「周囲から感じる魔力が強くなるにつれて、黒妖犬の気配は感じにくくなります。気を付けて。」
魔力が薄い状態ならば魔物の気配を感じるのは容易だが、魔力が濃くなると気配が隠れてしまう。
かつての仲間は風の流れを察知して敵の気配を探っていただが、ボクにはとても出来ない。
ボク達は更に奥に進んだ。
時折現れる、群れからはぐれた黒妖犬を討伐しながら、である。
「リディ! あれは何だろう!?」
ヒスイが何かに気が付いたようだ。
ボクは魔眼を発動させた。
魔力が流れ出てくる先、何かが見える。
明らかに人工物のようだ。
「何かの入り口のようなものが見える。あそこまで行こう。」
近付くと、崖のようになっている所にある扉のようなものだという事が分かった。
この中はかなり魔力が濃いのだろう。
扉の隙間から魔力が流れ出ている。
「フム、我々の領域に、招かれざる客が来たようだな。」
「生きて帰れると思わぬことだ。」
後ろから声がした。
声のした方を振り返ると、妖精族が男が二人立っていた。
この二人は黒妖犬の群れを従えているようだ。
「これは、噂通りであったのか。お前達はグランアルブルの非主流派の者達だな?」
リシャールが少し前に出た。
「何と…。貴様は黒妖精族か。魔族や人間達と一緒に居るとは、実に変わった組み合わせだが…」
妖精族の男は少し驚いたような表情を浮かべた。
「えーっと、あなた達は妖精族ですよね。教えてくれるとが思っていませんが、一応聞きます。この場所は何ですか? 魔を嫌うあなた方が、何故黒妖犬を従えているんですか?」
ボクは二人に問いかけた。
まぁ、教えてくれることは無いだろうが。
「フン、これから死する者に語る時間は無駄なだけだ。」
妖精族の一人が手を上げた。
すると後方に控えていた黒妖犬がわらわらと前に出てきた。
やはり黒妖犬の群れは支配下にあるらしい。
「リディ、次は俺、って約束だよね。」
ヒスイは剣を抜きながら、ボクをチラッと見た。
「ああ。だけどその妖精族の二人は殺さない様にしてくれよ。」
「分かってるよ。」
ヒスイはてくてくと前に進んで良く。
「けっ…。人鬼風情が馬鹿にしおって。 まずはお前から殺してくれる。」
どうやら逆鱗に触れた様だ。
黒妖犬の群れが一気に動き出し、ヒスイに襲い掛かった。




