番外編 僕はココロの鍵を開ける(2)
ある日、僕は王都バイゼル城にやって来た。
その町の規模は、エレオノール大陸有数の大国の名に恥じないものであった。
王都へは馬車で入城した。
城門での検問はあったが所持品検査のみで特に身分・出身などの確認をされることも無く、正直呆気にとられたものだ。
僕は馬車を降り、とりあえず町を散策することとした。
前述の通りこの世界においてはかなりの大都会であるが、所々に崩落した箇所・廃墟のような建築物が見えた。
町の奥に見える王城も然り、といった状況である。
「あの、僕はエレオノール大陸の南の片田舎から来たんですが、この町は所々破壊されているようです。一体何があったのですか?」
僕は商店街で話を聞くことにした。
「何だいアンタ。そんなことも知らないのかい? この町…と言うかこの国には戦乱があったのさ。実はね…」
おかみさんの話を要約すると、
・先代国王の第二王子によるクーデターに端を発した、大陸全体を巻き込む戦争が勃発。
・第二王子に幽閉されていた先代国王を第一王子が救出、両王子派による内戦へ発展。
・第一王子派による王都バイゼル城奪還作戦が発動。
・王都決戦中に第一・第二両王子が死亡。
・王国の混乱を防ぐ為、第一王子派として活動していた傍流家の養子となっていた従兄弟の現国王が即位。
こんな感じらしい。
「あれ? そうすると第一王子に救出されたと言う先代の国王様ってどこに言ったんですか? もしその方が健在ならば、王位が変わる事も無さそうですけど。」
「そう言えばそうだねェ…。ま、アタシらにとっちゃ王様が誰とか関係無いのさ。重要なのは今の王様がアタシらの方を見てくれる方かどうかって事さ。」
おかみさんの言う事は最もである。
余程の信念があるのなら話は別だが、私利私欲の為にクーデターを起こしたり他国に侵攻するような為政者はロクな者では無い。
それに反抗した第一王子と言うのも眉唾物であろう。
「今の王様はどうなんですか? 第一王子派だったって事ですけど、漁夫の利を得た感じですが。」
「今の王様かい? そうだねェ…。一言で言えば、王様っぽくない感じかな?」
「王様っぽくない…?」
「ああ。今の王様はベルクール様って言うんだけど、どうも見た目、というか服装がみすぼらしいんだよ。まぁ、町の復興に尽力してくれているから、良い王様なんだろうけどね。」
なるほど。
このおかみさんの話を総合すると、今のナイザール国王であるベルクール王は変わり者の様だ。
とは言え、民の方を向いていると言う意味では良い国王の様だが。
「分かりました。お話ありがとうございました。あ、これひとつ下さい。」
僕は礼を言いながら、焼きまんじゅう(の様なもの)を指さした。
「毎度あり! また来てね。」
おかみさんはニコニコしながら僕に焼きまんじゅう(の様なもの)を渡して来た。
僕はそれを頬張りながら町を進んだ。
色々と情報を集めると、現国王即位の経緯を含めて、この国には何か闇がありそうだ。
解き明かしてみたい。
僕はそう言う興味にかられた。
転生する前は何かに興味を持つという事が出来ない境遇であった。
これはその反動であろう。
焼きまんじゅう(の様なもの)を食べ終えた僕は、王城へと歩を進めた。
城に近付くに連れ兵隊の姿が多くなってきた。
城下町にも巡回の兵の姿はあったが、ここまでの数では無かった。
そしてこちらには重装歩兵の姿も見えた。
「そこの旅行者の方、ここで何をされているのかな?」
他の兵とはいで立ちが違う男が声を掛けて来た。
恐らくこのあたりの部隊の指揮官なのだろう。
「僕はバイゼル城に初めて来たものですから…。色々散策してたらここまで来てしまいました。不味かったでしょうか?」
「いや、不味いってことは無いがな…。城においても未だ復旧半ばであるから、警戒を厳にしておるのだよ。」
なるほど。
という事は警戒をすり抜けさえすれば、王城に忍び込む隙があるのかもしれない。
「出来ればもう少し近くでお城を見たいんですけど、どこまでだったら行くことが出来ますか?」
「ふむ。確かに旅行者にとっては王城を見るだけでも記念になろう。よし、俺が案内致そう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
僕は礼儀正しく頭を下げた。
その後僕はこの兵士の案内で、外からではあるが城を見ることが出来た。
バイゼル城に来るまでに所持しているのに気づいた能力がもう一つあった。
それは地図自動書記、自らの足で歩いた所を記憶できる能力だ。
これも監禁されていた反動のものだろうか?
自分が持っている能力は前世の反動の部分が大きい気がする。
「兵隊さん、案内して頂きありがとうございました。これから城下町に戻ろうと思います。」
「いや、楽しんでいただけたかな?」
「それはもう! 僕は田舎から来たので王城まで見ることが出来て感動しました。」
「それは良かった。我が国はまだまだ復興途上であるが、それでもエレオノール大陸有数の国だと自負している。旅行者にも喜んでもらえるような国造りをするのが、現国王様の方針だ。是非良い思い出を作って帰ってほしい。」
「はい。これから宿を取って、数日滞在しようと思います。…ありがとうございました。」
僕は再度頭を下げた。
「うむ。では道中気を付けてな。」
兵士が僕に返礼した。
僕は城間町の方に取って返した。
外から城を見た感じでは、自身の能力を持ってすれば忍び込めそうな隙があった。
親切に案内してくれたあの兵士には悪いが、実に有益な下見となった。
今日の所は一休みして体調を万全にするとしよう。
決行は明日だ。




