第13話 迷いの…?
ボクはヒスイと旅に出た。
“ブルー・ロジエ”からとりあえず東へ。
ボク達は辛うじて残る街道跡を歩き続けた。
「~♪」
ヒスイがニコニコしながら鼻歌を歌っていた。
人間の髪型でいう所のショートボブくらいの長さの銀髪が、風を受けてサラサラと揺れていた。
「やけに上機嫌だね、ヒスイ。」
「うん? ああ、俺、凄く楽しい。リディは楽しくないか?」
「まぁ、ボクも楽しいよ。」
そうこうしている内に、ボク達は森の入り口に差し掛かっていた。
道は森の中に続いている。
他のルートは無さそうだからこのまま進むしかないのだろうが、通例から言ったらここで迷うのがオチだ。
「ねえ、これこのまま進んで良いのかな? ヒスイは分かる?」
「え、俺? 俺に分かるわけないじゃん。」
実にあっけらかんとした答えだ。
「そ、そうだよねぇ…」
ヒスイは土鬼族の生活圏から出たことが無いようだから、期待するだけ無駄だったか。
「あ、でもあれを見てよ。」
ヒスイが森の奥に見える大樹を指さした。
「あれは妖精族の城みたいなものだよ。この大陸の妖精族はあの大樹を中心に住居があるんだってさ。あの木の中も人が通れるようになってるんだってさ。」
へー、それは凄い。まるで秘密基地じゃないか。
「ふーん、そうするとあの森の中は妖精族の勢力圏なのかな。」
「ん、ああー。考えてみればそうかもね。」
ヒスイは緊張感が無さそうだ。
「どれくらいの妖精族が住んでいるんだろう。」
「うーん、前に父上が言ってたのは妖精族自体は5000くらいらしいけど、その配下になっている一族、例えば樹木の精霊のような精霊系の一族を含めて8000くらいいるみたいだよ。同じ配下でも、俺達土鬼族みたいな魔物・魔人系は近くに住まわせても貰えないみたいだけどね。」
なるほど、確かに襲撃してきた妖精族の指揮官もそんな感じだったもんな。
妖精族は良く言えば高潔、悪く言えばお高く留まった存在だ。
自らと同じ精霊系の種族は認めても、土鬼族のような魔の存在は見下しているんだろう。
当然魔族であるボクも、嫌われるのだろうな。
「まーでもこの森を通らないと先に進めないみたいだから、このまま行くしか無いかぁ…」
「そう来なくっちゃ、だね。さ、行こ行こ。」
ヒスイがスタスタと先に進んでいった。
「あ、ちょっと!」
ボクは小走りでヒスイの後を追い掛けた。
ヒスイは何にも不安を感じていないみたいだな。
数分後、ボク達は森に入った。
精霊系の一族の勢力圏だからだろうか?
確かに不思議な感じのする森だ。
『何者だ、貴様等。』
暫く進むと、森の中になにやら声が響いた。
「早速何か出て来たね~。」
ヒスイは何だか楽しそうだ。
『貴様等、魔の者だな…? この森は邪悪な者の立ち入りは禁止だ。早く立ち去れ。』
ボク達を警告する言葉が続いた。
彼等はやはりボク達が嫌いらしい。
「ボク達は森の向こうに行きたいものでね。君達には興味は無いが、この森を通らせてもらうよ。」
「そーだそーだ。俺達に文句があるなら姿を見せて、力づくで排除すると良いよ。」
あのね、ヒスイくん。
そこまで煽らなくても良いんじゃないかな?
『愚かな者どもめ。後悔するが良い。』
明らかに辺りの雰囲気が変わった。
「ヒスイ、ボクから離れないで。ボクの腕を掴んで。」
「え、どうしたの?」
「多分、魔法で罠が張られた。」
ボクは金色の魔眼を発動させた。
魔眼と魔力検知の能力を通せば、全てでは無いが、幻の類を見定めることが可能だ。
案の定、道を迷わせる魔法が使われているようだ。
ボク達はそのような罠に惑わされることなく先に進んだ。
罠検知出来ないものはここで遭難し、命を落とすかもしれない。
『ば、馬鹿な…。魔法が通じぬだと…?』
「残念ながら、それはボク達には通じないよ。」
少しして、罠の魔法が解除された様だ。
すると数名の兵が姿を現した。
彼等は樹人だ。
樹人は樹木の精霊の様に樹木の精霊であるが、樹木の精霊よりは下位の存在である。
とは言っても決して弱い存在ではない。
その樹人を兵として使役する妖精族の権力の強さが伺える。
「魔の者どもめ、ここを通すわけにはいかぬ。速やかに立ち去れ!」
樹人の兵が枝を広げた。
「ねーね、この人達、どうしても邪魔したいみたいだよ。」
「ああ。困ったものだな。」
ボクは肩をすくめた。
彼等は説得しても無駄な感じがするな。
だとすれば押し通るしか無さそうだ。
「リディ、ここは俺に任せてくれ。」
ヒスイが剣に手を掛けた。
「一人で大丈夫かい?」
「もちろん! リディは俺よりも強いけど、その強さは時間制限があるんだろ? こういう雑兵は俺に任せて見ていると良いよ。」
まぁその通りだ。
部分的獣化はボクの能力を格段に上げるが永遠に持続するものでは無いし、再使用にはクールダウンが必要だ。
それにしても、精霊である樹人を雑兵なんて大したものだ。
人鬼であったころからかなりの手練れではあったが、剣の稽古以外で最上位人鬼での戦闘を見たことなかったから、それを見るのも良いかもしれない。
「分かった。無理はしないでね。」
「うん、任せて。“無駄な殺生をしないように”、無理せず戦うから。」
ヒスイがにこっとしながら答えた。
「貴様等、馬鹿にしおって。もう許さぬ、掛かれ!」
樹人達がヒスイに攻撃を仕掛けた。
彼等の枝が四方八方からヒスイを襲った。
ヒスイはそれに恐れることなく前に飛び出した。
樹人の攻撃はヒスイには当たらない。
ヒスイは攻撃を剣でうまく受け流し、また枝を切り落としながら前に進んで良く。
「馬鹿な! 何故当たらぬ!」
樹人が狼狽えた様な声を上げた。
「悪いけど、そこで寝てると良いよ。」
瞬く間に樹人に斬撃を食らわせた。
「馬鹿な…、こんな…」
彼等はこの程度で死ぬことは無いだろうが、手足の様にしていた枝や根を斬られた。
これでは暫く動けない事だろう。
「うん、お終い。悪いけど俺達を止めるなら、もっと強い人を寄こさないとダメだよ?」
ヒスイがにっこりしながら樹人に囁いた。
うん。この子、最上位人鬼になって相当に腕を上げている。
ボクはうんうんと頷きながらそう思った。




