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ボクはボクっ娘 魔族の娘  作者: 風鈴P
第2章 旅立ち編
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第12話 旅立ちの日

数日後、ボクは自室として借りていた家屋で出発の準備を整えていた。

いつものフード付きの外套を羽織り、着替えなどの荷物を入れたかばんを肩にかけた。



そういえば、あの日以来ヒスイは顔を出してくれなかったな。

あの時の表情…、嫌われちゃったかもしれないな。



ボクはため息をついた。

まぁ、仕方のないことだ。

ヒスイは土鬼族の長の息子であり、将来は一族を背負って立つ身だ。

どの道、別れる時が来るものなのだ。


…少し寂しい気持ちにはなるけど。


「よう、リディさん。やっぱり出て行っちまうんだな?」

話しかけてきたのは魔導士だった。

「ああ。再建の道筋がついたら出ていくつもりだったんだ。今がその時だと思ってね。」

「ふーん。ま、俺は止めたりしねえけどよ。」

「あんたたちはまだここにいるのかい?」

「そうだな。他の奴らはどうだか知らねえが、俺はここで土鬼族の町に関われるのが楽しくなっちゃてよ。それに俺には戻る故郷は無いから、ここにいるのも良いかなって思ってるんだ。それより…」

魔導士が壁に寄り掛かった。


「リディさん。アンタ、ヒスイに何か言ったのか? あいつ、皆の前では見せねえけどよ。この前家の裏で泣いてるのを見かけちまったぜ。」

「・・・」

ボクは視線を落とした。

「ボクが族長様に町を出ていくつもりだと言うのを伝えた時、ヒスイに聞かれてたみたいなんだ。それ以来、ボクに顔も合わせてくれないよ…」

「そうだったのか…。それであいつは悲しんでたんだろうな。」

「・・・」

「しかしよ、リディさん。ここを出ていくんなら、ヒスイの奴にちゃんと別れの言葉は言うべきだ。アンタは少なからず、あいつの人生? に影響を与えたんだからな。それがけじめってやつだぜ。」


魔導士の言葉にボクの心はざわついた。

確かに魔導士の言うとおりだ。


「分かった。必ずそうするよ。あんた達も、達者でな。」

「おう。また近くに来たら寄ってくれよな。」


ボクは魔導士と別れの言葉を交わすと、かばんを肩に掛け直した。

そして家を出ると、町の門を目指した。


十数分後、ボクはその場所にたどり着いた。

そこには小柄な人影が一人…


「ぁ…、ヒスイ?」

「・・・」


そこにはいつもの戦闘メイド服の上にボクとお揃いの外套を着たヒスイが、少しうつむき加減で立っていた。


「あのね、ヒスイ…」

「・・・」


話しかけると、ヒスイが少し顔を上げ上目づかいでボクを見てきた。

顔を紅潮させ、頬を少し膨らませているような感じだ。


「俺も行く…」

ヒスイが小さい声で言った。

「え、な、何を…?!」


「俺も、リディと一緒に行くんだ!」

今度は大きい声でそう言うと、ボクに近づき服の袖口を掴んだ。


「で、でも君は土鬼族の長の跡取り息子だろう? ボクはもうここには帰ってこないかもしれないんだ。君を連れて行くわけには…」

「じゃあ俺は父上の跡なんか継がない! それでも、一緒に行っちゃダメか?」

ヒスイが目に涙を溜めながら懇願してきた。

「何て分からないことを…」

ボクはそう言いながらもヒスイの頭をくしゃくしゃっと撫でた。

ボクにとっても、この子は愛おしい存在ではある。

だからこそ、ヒスイには立派になってもらいたい気持ちがあるのだ。



「ほっほ、リディ殿。我が息子が苦労を掛けるのう…」

後ろから土鬼族の族長や主だった面々がやってきた。

「族長様…。族長様からも何か言ってやってください。どうか…」

「まぁまぁ、リディ殿。少し落ち着きなさい。儂の、いや、我等土鬼族の総意を聞いてもらいたい。」

「え…?」

ボクは戸惑った。

いったい何を言い出すつもりだろう。


「リディ殿。我等はあなたの友でありながら、恩恵を享受するだけであった。我等一族が、あなたにその恩返し出来ることがないか考えたのだが…」

長が腕を組んだ。

「そこで考え付いたのが、我が息子ヒスイをリディ殿に同行させ、あなたの助けをさせることだったのだ。」

「ちょっ…?!」


な、何を言い出すのですか!?族長様!!


「我等にはそれ以上の事は出来ぬ。そう言う訳だから、ヒスイを一緒に連れていって欲しい。」

長の言葉を聞いたヒスイがボクの服の袖口を強く握った。


「え、えっと…」

ボクはより一層困惑した。

どうも、強引な話のような気がするが…


「我が愛息を見知らぬ地へ遣るのは儂としても一族としても大きな損失にも繋がろうが、リディ殿との旅の経験は息子にとって大きなものとなろう。うむ、間違いない。」


族長様の中では、ボクがヒスイを連れて行くのはもう決定事項のようだ。


「・・・」

その時気付いた。

ヒスイが体を細かく震わせていることを。

ボクは左手で優しくヒスイを抱きしめた。


「でも族長様…。ボクは…」

「リディ殿。あなたは今泣いているでは無いか。それがどういう意味かは、儂は分からんがな。ただ一つ言わせてもらえば、儂は息子が悲しむ顔を見たくない。それだけだ。」

「・・・」


族長様の言うとおり、いつのにボクは涙を流していた。

その理由については、語る必要はないだろう。


「…分かった。一緒に行こう、ヒスイ。」

「ほ、本当か!? やったぁ!」

ヒスイが涙を流しながらも表情を明るくした。


「でも今後何が起こるかは分からない。危険な目に遭うかもしれない。」

「そうなったら、俺がリディを守る…!」

「ふふ、そうか。守ってくれるんだね。」


ボクはもう一度ヒスイの頭を撫でると、族長の方を向いた。

ヒスイもそれに従った。


「族長様、今日までお世話になりました。ヒスイは…しばらくお預かりします。」

「こちらこそ世話になった。ヒスイの事はよろしく頼むよ。」


「父上、俺、色々なことを経験してもっともっと強くなるよ!」

「ああ。だがリディ殿に迷惑を掛けんようにな。」


ボクとヒスイは土鬼族の面々に別れの挨拶を済ませた。

そして二人で町の外を向いた。


「ヒスイ、行こうか。」

「うん!」


ボク達は町の外へと歩き始めた。

これから色々な困難に遭遇するかもしれない。

だが二人で協力して乗り越えていこう。


ボクはボクの横に並ぶヒスイの笑顔を見て、そう決意を新たにした。


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