第10話 戦闘メイド服
妖精族来襲から1か月。
土鬼族の村は目覚ましい復興を遂げた。
元々人間の町を基礎としていたのもあるが、最早魔物の村と呼べるものでは無かった。
「へぇ~、大したものだね。」
ボクは町を囲む城壁の様になっている所から町を眺めた。
「“建築家”の知識によるものも大きいが、村人の一部が最上位人鬼に進化したのが大きいんだろうな。」
話し掛けてきたのは魔導師だった。
「ああ、アナタか。族長様達の魔導訓練はひと段落ついたのかい?。」
最上位人鬼となった土鬼族の長は数人の村人と共に、この魔導士に魔法を習っていた。
「そうだな。あのじいさん…、族長殿はかなり筋が良いぜ。魔力の高さもそうだが、元々魔法への適性も高い様だ。火、風、それと毒の属性の精霊と契約できたようだ。」
「ど、毒ね…」
毒属性の魔法なんて実に恐ろしい。
体力を奪う毒の外にも、麻痺毒、神経毒、精神に影響のある毒等、毒と言っても色々ある。
目に見えない攻撃を仕掛けることもできる場合もある。
…敵に回したくないものだ。
「それにしても、アナタもとんでもない魔法を使ったじゃないか。…あの威力は神級魔法だろう?」
「あー、あの時のあれか。あれはなー…」
魔導士が顎をポリポリと掻いた。
「俺は雷系魔法にしか適性が無えんだよ。他の属性は初級しか使えなくてな。その代わりに雷系魔法を極めようと訓練してきたのさ。」
なるほど、そういうことか。
適性がそれしか無い為に、それに特化した鍛錬を積んできた結果があれか。
「それによ…。俺の故郷はかつて、魔族に滅ぼさたんだ。ガキの頃の話さ。だから俺は誓ったんだ。」
魔導士がボクを見た。
「アンタのような強い魔族でも、うまく当たれば一撃で倒せるくらいの魔法を習得してみせるってな。どうだった? あの魔法、大したもんだっただろう?」
大したどころではない。
(魔力を持つから習えば使えるのかもしれないが)ボクは魔法を使わないから、対魔法障壁を使うことができない。
あれほどの威力を持った魔法がもしボクに放たれたならば、ボクは当たらないように逃げ回るしかないだろう。
しかしあれほどの高威力・広範囲の神級魔法から逃れられるのだろうか?
「ああ。あれは大したものどころか、化け物じみてると思ったよ。…ボクに対して撃ってほしくないと思ったさ。」
「はっはっは、アンタに褒めてもらえるなんて自信になるな。それに安心しねえ、アンタは魔族だが良いヤツだ。そんなことはしねえさ。」
…本当にそうであることを願う。
「リディーー!」
下のほうから声がした。
眼下を見ると、壁の下でヒスイが手を振っていた。
「ヒスイ、もうお仕事は終わったの?」
「終わったよ! 今そっち行くね。」
そう言うと、ヒスイは高くジャンプした。
近くに立つ建物の屋根を踏み台にしながら、まるで忍者のようにぴょんぴょんと登ってきた。
しゅた!
瞬く間にヒスイが近くにやってきた。
「お、おお…。お前、そんなことができるのかよ。」
魔導士が目を丸くして驚いていた。
ヒスイも最上位人鬼に進化したが、ボクと同じような戦闘能力の方に特化したようだ。
ヒスイはこの“機動力”を活かして一族内の情報伝達の役目を担っていた。
ま、平たく言えばお使いでもあるが…。
「それにしても、なんだその格好はよ…」
魔導士が笑いを堪えながら言った。
「な、何だよ。文句あるのか?」
ヒスイは頬を膨らませた。
…可愛い。
ボクはそう思う。
というか、これはボクの趣味だ。
そう、“戦闘メイド”である。
ボクはかつての仲間、アスカからいろいろな事を教えて貰った。
戦うメイドは萌え要素満載、との事である。
ボクもそう思う。
そう思ったから、可愛い男の娘に進化したヒスイに着せたのだ。
「…っと、これ以上冷やかすとこっちの魔族殿に痛い目に合わせられそうだ。そんな金色の眼で俺を見るなよ…」
魔導士が肩を竦めた。
どうやら無意識に目が変わってしまっていたらしい。
「リディ! この後剣の練習に付き合ってくれるんだよね!」
ヒスイがボクの服を掴みながら話しかけてきた。
「ああ。でも腹が減っては何とやら、だろ? もうお昼だよ。」
「そうだった! 俺、村のみんなにお昼の時間だよって、使えて回ってたんだった!」
ヒスイが恥ずかしそうに頭を掻いた。
復興作業がひと段落するまでは各家庭で食事を用意するより、纏めてした方が効率が良かった。
ぴょんぴょんと縦横無尽に駆け回るメイド服男の娘がお昼時間を伝えて回るお使い。
うん、可愛い。
「よし、それじゃ食堂にもなってる族長様の家まで競争だ。ヒスイ、ボクについてこれるかな?」
ボクは足に力を籠めた。
「うー、俺だって負けないよ! えーい!」
ボクとヒスイは城壁の上から一気にジャンプした。
このまま屋根伝いに移動することになるだろう。
「うーん、俺にはついていけないねえ。ま、ゆっくり行くとするかな。」
それを見ていた魔導士がヤレヤレといった表情でつぶやいた。