第1話 ボクはボクっ娘 魔族の娘
この話は拙作「俺・プリンセス」の登場人物のひとりである、リディ・ベルナデット・ウイユヴェールを主人公としております。
こちら単体でも読める様にしたいと思いますが、「俺・プリンセス」をお読みになると世界観が分かりやすいかと存じます。
よろしくお願い致します。
ボクの名はリディ。リディ・ベルナデット・ウイユヴェール。
青白い顔、紫色の髪、尖った犬歯。
そして衣服の下に隠れてはいるが小さい羽や尻尾もある。
そう、ボクは魔族だ。
フードを目深に被り、口元にはいつでも顔を隠せるようにスカーフをしている。
何故顔を隠せるようにしているかだが、残念ながら人族の間で魔族は嫌われる傾向がある。
勿論全ての人族が魔族の事を嫌っているわけでは無いけど面倒に巻き込まれるのも嫌だし、用心に越したことは無い。
人族は一部を除いて世界各地に生活圏を築いている。
彼らは(一般的には)魔族より力が劣る者が多いが、知恵や団結力を発揮して勢力を広げて来たのだ。
現在では人族の町で生活する魔族もいる。
冒険者ギルド等に行くと高い力、魔力なども活かして冒険者として活躍する者もいるくらいだ。
ノワールコンティナンという黒の大陸とも呼ばれる場所にある町の首長は、魔族と人族の混血だ。
それでも人族のいくらかは非常に排他的である。
かつての恐怖の裏返しか、人族の支配階級の中では魔族を軽蔑する者もいるくらいだ。
ボクは今荒野を、町を探して歩いている。
辛うじて道のようなものが見えることから、この道を行けば何かしら町のような所に辿り着けるかも知れない。
何故こんなことになっているかを語る為に少し時を遡ろう。
数日前、ボクは船に乗り込んだ。
その船はバルデレミー商会船籍の貿易船で、ボクの故郷、ノワールコンティナンへ向かうものだ。
ノワールコンティナンというのは先述の通り、黒の大陸とも呼ばれている。
人族が住まうそれなりの規模の町は貿易港を抱える一つしかなく、大陸の大半は魔族の勢力圏だ。
そんな所に航路を持つのは世界を股にかけて交易を行うバルデレミー商会しか無い。
ボクはかつてのツテを辿って、その貿易船に乗ることが出来たのである。
ところがその航路の途中、問題が発生した。
大きな嵐に遭遇し、船が大破・沈没してしまったのである。
乗組員は何とか救命ボートで脱出を試みた。
だが母船を大破させるほどの嵐である。
救命ボートのような小舟でそこから脱出するのは非常に困難だ。
辛うじてボクが乗ったボートは難破を免れ、海岸にたどり着くことが出来た。
陸に辿り着けたのはボクを含めて5名だけだった。
しかしそれで命が助かったかと言うと、そう単純な事ではない。
このボートに乗っていた中には重症を持った者もいるし、それにまずここがどこだか分からない。
そこで特にケガを負うことが無かったボクが、助けを呼ぶためにこうして町を探しているのだ。
歩き始めて3時間程度が経過した。
「おや、あれは…?」
小高い丘の上にいくつかの建物のようなものが見えた。
「もしかしたら、誰かが住んでいるかもしれないな。」
ボクはその場所へ急いだ。
十数分でボクはそこへ到着した。
「これは…誰も住んでいないのかな?」
そこは小規模な町ほどのものであるが、あたりは静まり返っている。
まるでゴーストタウンだ。
ボクは周辺を探索した。しかしあたりに生活感は全くない。
ボクは更に歩を進め、“町”で一番大きい教会跡の様な建物に差し掛かったその時である。
「・・・!」
何やら気配を感じる。
“人気”という生易しいものではない。
これは“殺気”と言っても良いモノだ。
ボクはその“殺気”を感じる方へ振り向こうとした。
「ウゴクナ。テヲアゲロ。」
すぐ後ろで声がした。
馬鹿な…。ボクはかつての仲間のアスカ程の腕は無いが、それなりのものは持っていたと思っていたのに。
まさか、こんなに簡単に後ろを取られるなんて。
「あ、ああ…」
ボクはゆっくりと手を上げた。
「ソノママソコニスワレ。」
「分かった。言われる通りにする。」
言われるまま姿勢を低くした。
ボクの背後を取った者が剣を突き付けたままボクの前に回った。
その者は緑色の肌と銀髪を持つ少年だった。
「君は小鬼か?」
ボクは手を上げたまま少年を見た。
「シツモンシテイイトハイッテイナイ。」
切先が頬に触れた。
「す、すまない。ボクには敵対する意思はない。」
「・・・」
少年は剣を少し引いた。
「オマエハナニモノダ? ナニヲシニココニキタ?」
「ボクの名前はリディだ。乗っていた船が沈没し、脱出した乗組員4人と海岸に漂着したんだ。怪我をしていて手当てが必要なものもいる。何とか助けて貰えないだろうか?」
「・・・」
ボクは少年の目をじっと見た。
少年もボクの事をじっと見て来た。
この時に魔眼を使っても良かったのだが、それが効かなかったときはきっと大変なことになるだろう。
何しろ彼はボクの後ろを取った程の人物であるのだ。
「オレニハキメラレナイ。オサニアワセル、ツイテコイ。」
少年がくるっと振り向いてボクを案内するような素振りを見せた。
「剣は…、置いて行った方が良いか?」
ボクは右腰に下げた剣を鞘ごと降ろそうとした。
「カマワナイ。オマエノメハウソヲツイテイナイヨウニミエタ。」
少年は振り向くことなく答えた。
「か、感謝する。」
ボクはそう言うと少年の後をついて行った。