ドローンで狙われてるけど、それ自体はまあ別に問題じゃないかも
5分しかない、という言葉どおり、ノセくんは早口で状況を説明してくれた。
「ドローンが飛んでるだろ。撮影用じゃない、狙撃用だ。ランナーだけじゃなく、沿道の人間もマラソンコースに入って走るようテロリストからの指示があって、大会スタッフが周知に走り回ってた。全員ゴールの親水公園目指して走れ、って要求だ。休めるのは給水ポイントで5分間だけ。コースアウトしようとしたランナーが、ドローンに積んだ小型のマシンガンで本当に撃たれた」
「え? え?」
「チキチキ、って音がして、その人は太ももを撃たれた。救急車のサイレン、鳴ってただろ?」
「・・・」
「さ、もうすぐ5分だ」
GPSウォッチを見て立ち上がるノセくんに一言だけ訊いてみた。
「何でわたしを」
助けに来てくれたの。
「転校して来た日に言っただろ? 好きだから」
「わたしなんかのどこが」
「取り敢えずは、顔、かな」
そう言って彼はもう走り出していた。わたしも後に続く。
「テロリストが全員の動きを監視できる訳がない。でも、たまたま監視されているのが自分だったら、撃たれるだろ?」
「うん」
「確率がゼロじゃないから走り続けるしかないんだよ」
「あれ? でも」
「何?」
「テロリストは家の中まで監視してたのかな。わたしカーテン閉めてたし」
「え、えーと、それはまあ・・・」
「もしかしてあのまま部屋にいた方が安全だったとか」
「いや、俺がコースアウトしてシハナの家に入った時点で危険はゼロじゃないだろ」
「でもそれはそもそもノセくんが来なければわたしは関係なかったんじゃないかな」
「いや、まあ、どうかな・・・」
「ねえ、ノセくん」
「・・・ごめん。ひょっとしたらそうかも」
わたしはくすっと笑った。
「別にいいよ。ノセくん、わたしをゴールまで連れてって」
「うん・・・責任、取るから」
わたしはノセくんとならどうなっても構わない、って思った。だって、これだけストレートに好きだなんて言われたら、引きこもりごときのわたしとにとっては過分な好待遇だし。それに、わたし、笑ったのほぼ1年振りだし。