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ノセくんは悪くないけど、引きこもりの引き金ではあったよ

ノセくんの言う、「給水ポイント」にたどり着いた。でも誰も水なんて飲んでない。頭を抱え込んで泣いている男の人や、鬼気迫る表情でスマホを操作する女の子、くそっ、くそっ、と怒鳴り散らすおじいさん。


「水、飲んどけよ。5分しかないからな」


ランナー用に並べられたものだろうか、テーブルの上の紙コップを取り上げて飲んだ。家から2キロぐらい走ったので喉は渇いている。ノセくんもゆっくりとスポーツドリンクを飲んだ。


「シハナって、結構走れるんだな」

「中3の夏までテニスやってたから」

「そうだったな」


思い出したくないわたしの引きこもりの原因。3年の夏の引退試合の日からわたしの生活は変わった。ほんの些細な誤解から部の同輩からも後輩からもいたぶられるようになったわたし。みんなから「シハナ」ってちゃんと名前で呼んでもらってたのに、その日以後、「クソ子」がわたしの呼び名になった。部の仲間だけじゃなくって、クラスにもその呼び名が広められた。わたしははっきり言って受験どころじゃない地獄の生活に突入した。


3年の秋にわたしのクラスに転校して来たノセくん。


「ノセって言います。まあみんな受験でお互い忙しいでしょうから、付かず離れずで卒業までよろしく」


そんなノセくんの初日の行動が、わたしに一つの決断をさせてくれた。


「あーあ、うんこくさい」

「クソ子がいるから」

「来るんじゃーねーよ。受験の邪魔だから」


いつも通りの日常茶飯事に無言で問題集を解くふりをしていると、ノセくんが女子と一部男子の集団の所にやって来た。


「お前が来んなよ」


ノセくんの一言に場がしん、となる。積極的にわたしのいたぶりをやってた男子が応酬する。


「ノセ、お前もクソ夫にしてやろうか」

「やれよ。別にどうでもいいから」

「・・・お前、クソ子のことが好きなんだろ」

「ああ、好きだよ。一目惚れした」


瞬間に全員爆笑した。でも、ノセくんは笑いもせずにその男子に淡々と話す。


「将来お前が結婚して子供が生まれた時。お前の父親はクラスの女子をクソ呼ばわりするクソ野郎だったって教えてやるよ」

「何?」

「俺はやると言ったことは必ずやるぞ。根性なしのお前と違って。お前の子供はその時でもお前のこと、お父さん、って呼び続けてくれるかな」

「・・・」

「楽しみだな。お前がシハナをクソ呼ばわりした事実は消せないぞ。もうお前は人の親になる資格のないゲス野郎なんだよ。ずっとお前につきまとって必ずお前の子供に事実を教えるからな」


ノセくんに殴りかかろうとした男子の後頭部をわたしはステンレスの水筒で力任せにはたいた。

次の日からわたしは不登校になり、引きこもり生活を始めた。


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