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勇者⑧

勇者達とのバトルを考えていた皆様方、ちょっと物足りないかもしれませんがご容赦ください。

 死の聖騎士デスパラディンとの死闘をなんとか勝利で終えたが、勇者一行はもはや戦闘力は皆無だった。

 四人はもはや墓地にとどまることは出来ないので、一刻も早く墓地から出るために出口へ急ぐ。


 だが、そこにはこの墓地の管理人であるアレンとレミアの二人が待ち構えている。


 出口付近に陣取る二人に対し、四人は敵意をむき出しにする。そんな敵意を当然ながらアレン達は察しているが、それには触れない。

アレンは和やかに笑い四人に声をかける。


「私達の代わりに墓地の見回りをやっていただき本当にありがとうございました」


 言葉を言い終わると、アレンはペコリと頭を下げる。まさに慇懃無礼を表現したらこうなるのだろうという見本がそこにはあった。


「なんだと・・・」

「お前達の代わり・・・だと?」

「どういうことだ?」

「何を言って・・・」


 四人は自分の中でアレンの言った内容を反芻する。そして、アレンの言わんとする事をほぼ正確に理解した。


 自分達はこの少年に踊らされていた事を・・・


 その事に気付いたときジェスベルは屈辱に身を震わせる。勇者である自分が、こんなガキにいいように利用されたのだ。到底許せるものではない。


「貴様!!俺を誰だと思っている!!がぁ!!」


 ジェスベルの激高は天剛で傷ついた体に激しい痛みを与える。それほどの代償を払ったジェスベルの訴えだったが、アレンの反応は首をかしげただけだった。アレンは別に嫌みで首をかしげたのではない。実際にアレン達はこの四人の素性を全く知らないのだ。


「誰?レミア知ってるか?」

「ゴメン・・・まったく分からないわ」

「でも彼は有名人だと自分では思ってるらしいぞ?」

「そんなこと言われても・・・」


 アレンもレミアもわざとジェスベルに聞こえる大きさの声で話し始める。この反応にジェスベルのプライドはさらに傷つく!!


「俺はドルゴート王国の勇者!!ジェスベル=リークバイドだ!!がぁ!!」


 ジェスベルのせっかくの名乗りはまたしても天剛の代償によりジェスベルに痛みを生じさせた。その痛みを伴う自己紹介を聞いてもアレンとレミアの反応は今一だった。


「え?あなたは勇者様だったんですか!?」

「へ~勇者様だったんだ」


 わざとらしく『様』をつけるアレンとレミアに四人は憤る。アレンとレミアの『様』の響きに嘲り、失望の感情がこもっている事を四人は察したからだ。もちろんアレンとレミアは四人を敵とみなしているため、半分は意図的である。

 

 見たところ四人は満身創痍だが、だからといって戦えないとは限らないし、油断することで思わぬ不覚を取る可能性もあるからだ。アレン達にとってこの会話ですら、戦闘の一環なのだ。


(しかし、勇者というわりには所々甘いな。それとも、これが当たり前なのか?)


 アレン達はすでに四人がいつ攻撃をしかけても対処できるように構えている。だが、この四人にそんな様子はない。


 この段階で戦闘にならないと思っているのだろうか?


 正直、アレンはこの四人の認識の甘さに呆れきっている。何しろアレン達は四人にナイフを投擲しているのだ。ということはとっくにアレン達は敵対行為を行っている事になるのだ。むしろ、この段階でアレン達が問答無用で襲わないことを不思議と思えない事がアレン達にとっては信じられなかった。


「それで、勇者様はなんでこの国営墓地に来たんです?」


 もはや、相手にするのもアホらしいが、相手が他国の勇者である以上、無視するわけにもいかない。


「そ・・・それは・・・」


 ジェスベルは言い淀む。いくらなんでも『お前を懲らしめてやろう』などという事は言えない。


「それは?」

「この墓地の調査だ・・・」


 ジェスベルは口から出任せを言ったのだが、この出任せは確実に悪手だった。アレンにつけいる隙を与えてしまったからだ。


 アレンの目が『ほぅ』という意思を発する。


「なんの権限でこの墓地を調査する?ここはドルゴートの施設ではないぞ。ここはローエンシアの国営墓地だ。お前らの調査はローエンシア王国の許可があってのことだろうな?」


 アレンが勇者様と呼ばずに『お前ら』と呼んだことに四人は気付く。自分達は今、とんでもない窮地に陥っているのではないかという恐怖を感じている。


「いや・・・それは・・・」

「許可はなし・・・という事はお前らに命令を出したのはドルゴート王国というわけだな」

「ち・・・ちが・・・」


 完全に決めつけたアレンの口調に、ジェスベル達の狼狽はさらに高まる。


「レミア、こいつらはどうやらドルゴート王国の密命を受けて、ローエンシアを探りに来たスパイらしいぞ」

「なるほど、他国の者が国営墓地でどんな情報を得ようとしたかは分からないけど、とりあえず捕まえましょう」


 アレンの口からスパイ疑惑が浮上したことに、四人は仰天する。まさか勇者一行である自分達がスパイとして捕まろうとしているのだ。これほどの屈辱はなかった。


「勘違いするな。勇者である俺や仲間達がスパイのわけはないだろう!!」

「ま・・・待って、私達はスパイなんかじゃない!!」

「誤解だ!!」

「待ってください!!我々はスパイではありません!!」


 四人は顔を青くして必死に弁解する。


 もちろん、アレン達は四人がスパイでないことは十分理解している。というよりも、アレンは四人をスパイに『仕立て上げる』つもりだったのだ。

 アレンはこの四人がこの国営墓地にまっとうな目的で来たとはまったく思っていない。もし、この四人が単純にアンデットを駆除するために、ここに来たのなら、気配を絶ってアレン達の後をつけるわけがない。

 普通に考えればアレンは国営墓地の管理者だ。まず、何かしらアレンに接触し墓地に入る許可をもらいに来るはずだ。

 それが一切ないのだから、何かしらやましい事をするつもりであることは明白だった。


 そして、そのやましい事とは『アレンを害する』事に他ならない。この事だけでアレンが四人に容赦する理由は地平線の彼方まで探しても見つからない。

 敵には容赦しないしないのが、アレンの行動哲学なのだ。


「ほぉ~スパイでないのなら何しにここに来た?しかもご丁寧に気配を絶って俺達の後をつけてまで?」


 四人は言葉を発することが出来ない。気配を絶ってアレン達を尾行したのは事実であり、しかもそれは客観的に見て怪しすぎる行動だったからだ。


「う・・・」

「ほら、答えられない。スパイ決定だな。レミア、こいつらを捕まえて、騎士団に引き渡そう」

「そうね」


 アレンの声にレミアが応える。


 具体的に引渡先が提示されたことで、四人の顔色はさらに悪くなり、もはや死人と変わらない。


「ま・・・待ってくれ!!言う言う!!俺達はお前を懲らしめてやろうとしたんだ!!ぐぅ!!」


 ジェスベルは、スパイと認定される事がどうしても嫌だったらしく。大声を出してしまい、またしても体の痛みに耐えることになる。


「ふ~ん・・・懲らしめるね・・・お前らに責められるような事は何一つしてないぞ?」


 アレンの返答は冷たい。さらにアレンは続ける。


「もし、俺が責められるような事をしたという具体的な事例とそれに俺が関わっているという根拠は?」

「アインベルク家は『死をもてあそぶ家』だ。アンデットの研究をしているのはそのためだろう」

「お前はバカか?」

「何?」

「俺は具体的な事例を挙げろと言ったんだ。『死をもてあそぶ家』が具体的な事例か?アンデットの研究?この国営墓地の管理を行う以上、アンデットの研究をするのは当然だろうが、お前らは情報を何一つ事前に掴む事なく行動するのか?」

「・・・」

「情報を軽んじるから、お前らは三流なんだよ」

「・・・」

「他には?」

「え?」

「だから、具体的な事例だよ。お前らが俺を懲らしめるに足りる具体的な事例」

「アインベルク家が生者をアンデット化して近隣の村々を襲わせている」

「だから、具体的な事例って言ってるだろ!!なんだその近隣の村々ってのは!!」

「・・・」

「いいか、具体的ってのは、いつ、どこで、誰が、どのような被害にあったかという事を言うんだよ」

「・・・」

「俺がアンデットに村を襲わせたのは何年の何月何日だ?」

「・・・」

「俺がアンデットに襲わせた村の名は?」

「・・・」

「犠牲者の名前と数は?」

「・・・」

「襲われた村の被害内容は?」

「・・・」

「何より俺がそれに関わっている証拠は?」

「・・・」


 矢継ぎ早に出されるアレンの追求にジェスベルは何も答えられない。元々、そんな証拠などあるはずないのだ。アレンは関わっていないのだから。


「つまり、お前らは何ら証拠がないのに俺達を殺そうとしてこの国営墓地に来たというわけだな。よしレミア、こいつらはスパイでないようだが、殺人未遂犯として騎士団に突きだそう」

「そうね、自分の口から私達を殺害しようとした事を白状したし、手加減する必要は無いわね」


 ジェスベル達はスパイから殺人未遂犯にクラスチェンジしている。ちなみにどちらにしても官憲に捕まることは変わりない。


 ジェスベル達の顔色はさらに悪くなっていく。


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