勇者④
アクション部門(文学)でランキング日間1位になっていました。
急激なPV数の増加はそのためだったようです。ありがとうございました。
「いた・・・」
アレンの声にレミアが静かに頷く。
二人の視線の先には、四人の侵入者の姿がある。周囲をまったく警戒していない彼らの姿にアレンは正直呆れてしまう。レミアに目をやるとアレンと同じ気持ちのようだ。
彼らは今、自分達がどこにいるのか本当に理解しているのだろうか?先程の戦闘から少なくともここがアンデッドの出没する場所である事は十分分かっているはずなのに、彼らに周辺を警戒する意識がまったく感じられない。
しかも、あの四人の目的はアレンだ。そのアレンが気配を絶ち、自分達を撒いたというのに呑気に墓地を徘徊している様はアレン達にとって信じられない暴挙だった。
伏兵がいて、あの四人が囮である可能性を考え、周囲を警戒するが、一切伏兵がいないことはすでに確認済みだった。つまりあの四人のやることなすこと、アレン達にとって四人は警戒に値しないと断定していた。
「アレン、とりあえずあの人達に今夜は頑張ってもらいましょう」
「そうだな、レミア・・・」
アレンはため息をつく手前のような声だ。すかさず、投擲用のナイフを取り出し構える。
彼らとの距離は50メートル程、魔力による肉体強化を行いナイフを投擲することにする。
しかし、このまま何の気配も発しなければ普通に暗殺が成功してしまいそうだったために、一応念のために強い殺気を四人に放った。
ビクリとした四人の気配をアレンとレミアは察する。どうやら、ここまで強い殺気を放って気づかれなければどうしようかと思ったが、さすがにそこまで鈍くなかったようだった。
アレン達の四人に対する評価は、当初は『気配の絶ち方』からして素人でないという評価だったが、現在ではすっかり下がっていたために、大人が子どもと勝負する時と同様の手加減をする必要があったのだ。
アレンは強い殺気を放つことで、『これから攻撃しますよ』とわざわざ予告してナイフを投擲する。
シュン!!
投擲されたナイフは空気を切り裂き、あり得ない速度で四人の元に向かう。ジェスベルは剣を抜き、投擲されたナイフを簡単に弾いた。
キィン!!
剣とナイフのふれあう音が墓地に響く。ナイフが飛んできた方向を四人は見据え、それぞれ武器を構える。
『来たか』
という思いが、四人を昂ぶらせる。
だが・・・
いつまで待っても、四人の前には誰も現れない。
それもそのはずで、アレンとレミアは、ナイフを投擲するとその結果を見もせずにさっさと走り去っていたからだ。もちろん気配を絶った上でのことだ。
アレン達にとって単純にこの攻撃は、アレン達は物陰から襲うことも辞さないという人物であると意識付け、探索を慎重にさせるのが目的だったのだ。投擲すれば、もう成功したも同じだったのだ。
ジェスベルとその仲間達は、このアレンの行動についてあからさまな不快感を出す。
「やっぱり考えていた通り卑怯者だったか」
「ああ、実力差があまりにも開いているので真っ正面から来るのを避けたというわけか」
「卑怯者か・・・」
「ロフ、卑怯者を探す術式はないの?」
それぞれがアレンの行動を単なる不意打ちと思っている。常に正々堂々な戦いを心がける彼らにとって、真っ正面からこない相手は軽蔑の対象なのだ。
「いや、残念だがアインベルクは気配を完全に絶ってるし、魔術により追跡をくらましている」
「ということは・・・」
「虱潰しにこの墓地を探すしかない」
「仕方ない・・・」
ジェスベル達は魔術による探索が難しい事をロフから聞き、この墓地を探索することにする。
この段階で、国営墓地の臨時職員に就任したことを四人だけは知らなかったのだ。
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周囲を警戒しながらの墓地の探索は思いの外、時間が掛かった。
物陰から不意をつく相手なのだ、用心せざるを得ないのだ。だが、同時に先程の攻撃では、ナイフを投擲される前に強い殺気を感じたことで、四人はアレン達の実力がそれほどでもないと思っていたのだ。
ナイフの投擲を攻撃と思っている四人にとって(普通に考えれば当たり前の思考)、先程のアレンの殺気が安全のために放たれたものである事は想像の範囲外の事だった。
そんな、四人の前に、アンデットが現れる。
そのアンデットは先程のスケルトン、グールなどとは格が違うのは一目瞭然だった。
身長2メートル程、ぶ厚い筋肉に覆われた堂々たる体躯、顔はアンデットらしく死者の顔だった。肉の一切ない薄皮の張り付いた顔に、眼窩にある瘴気が異様な光を放っている。
右手には長大な剣、左手に持ち主の3分の2程の大きさのカイトシールドを持つアンデットである『デスナイト』だった。
グゴォォォォォォ!!
デスナイトは四人を見つけると気味の悪い雄叫びを上げ、四人に突進してくる。その速度は鈍重では決してない。いや、体格、武装を考えれば俊足といって良いだろう。戦闘は不可避だった。
「デスナイトだと!!」
ジェスベルの声に緊張が走る。そして他の三人も緊張した空気を発する。
四人に先程のピクニック気分はもはやない。デスナイトは『勇者』であっても決して油断できないアンデットなのだ。
四人はすかさず戦闘態勢を整える。恐怖に支配されることなく一瞬でデスナイトに対応する心構えを持てるのは、さすがに『勇者一行』と言うべきだろう。
ドロシーは弓を構え、立て続けに三本の矢を放つ。突進してくるデスナイトはカイトシールドを構え突進してくる。放たれた矢はカイトシールドに突き刺さる。
そして次の瞬間にカイトシールドに刺さった矢の三本が立て続けに爆発する。
ドゴォォォォォ!!ドゴォ!!ドゴォォォォォォォォォォ!!
すさまじい爆発がデスナイトを襲う。爆発による土煙がはれたときにカイトシールドと左腕を失ったデスナイトだったが、かまわず突進してくる。突進してくるデスナイトの左腕とカイトシールドが再生する。
その様子を見ても四人に動揺はない。
デスナイトが再生するのは分かっていたことだ。それに見かけはまったくノーダメージに見えるがそうでないことを知っていたからだ。
瘴気により形作られたアンデットが、ダメージから再生する時には核に貯められている瘴気を使用する。見かけは変わらなくても確実に弱っているのだ。
だが、この事はほとんど知られていない。この墓地においてはデスナイトは普通に発生するが、他の地域ではデスナイトのような強力なアンデットはめったに発生しないのがその理由だし、他の理由としてはほとんどデスナイトと出会って生き残る事などできないからだ。
続いて、ロフが詠唱を始める。魔法陣が展開され、【氷槍】を展開する。空中に5本の長さ70㎝ほどの氷槍が浮かぶ。ロフが手を振り下ろすと凄まじい速度でデスナイトに氷槍が向かう。
氷槍のうち3本はデスナイトのカイトシールドを貫き、デスナイトの腕、肩、胸に突き刺さる。
残りに2本は足の甲を突き刺さり、地面にデスナイトを縫い付ける。
デスナイトは満足に動けなくなった事態が不満なのか暴れ始める。
そこにジェスベルとカルスが突進する。
ガギィィィ!!
デスナイトの振り回す剣をカルスの両手斧が受け止める。その時にカルスはあまりのデスナイトの膂力に吹き飛ばされそうになるがかろうじて堪えた。五体満足の状況であればカルスは吹き飛ばされていた可能性が高い。だが、ロフの【氷槍】により両足が地面に縫い止められ、左半身も氷槍が刺さっていたために不自由だったのが幸いした。
そこにジェスベルがデスナイトの首をはね飛ばし、次いで右腕を剣ごと斬り飛ばす。切り離された首と腕は地面に落ちると塵になって消え去った。
それからすぐに右腕と剣、そして頭が再生する。
ジェスベル達は再び、右腕と頭を斬り飛ばそうとするが、デスナイトは再生した剣で自分の両足を切断する。当然、デスナイトは倒れ込むが、そのまま転がり、足を再生させ立ち上がった。
氷槍からの拘束を足を切断し逃れたのだ。
デスナイトはこれまでの攻防でかなり瘴気を使用したようだが、まだまだ戦闘は可能のようである。
ここまではジェスベル達にとって、かなり狙った展開だった。直接切り結ぶ危険を出来るだけ避け、体の大部分を再生させ瘴気を使用させる事に成功したのだ。
「みんな、このでくの坊をさっさと片付けるぞ」
ジェスベルが明るく声をかける。自分達が負けることなど一切考えていない者の声だった。
ジェスベルの声に他の三人もそれぞれに応える。
「ああ」
「さっさと片付けましょう」
「私達が負けるわけないわ!!」
墓地管理の臨時職員の墓地管理は始まったばかりだった。
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