勇者③
「行くぞ」
ジェスベルは三人に告げ、アレン達を探しに出かける。
先程の戦いで、派手に【爆発】や【火矢】を使ったのは、アレン達に自分達の存在を知らせるためであった。
別の言い方をすれば宣戦布告を行ったわけだ。
あれほどの爆発音が生じたのだ。当然、アレン達がこちらに向かってくることを想定したのだ。
「ジェスベル、あいつらはどう出るかな?」
「奴の出方次第でこちらの対応も変わるがな」
ジェスベルの言葉に反応したのはロフだ。インテリ風の容姿から想像されるように、チームでは、参謀的な立場をとっている。
「どういうことだ?」
「ああ、アインベルクが堂々と正面から来るか、それとも卑劣な手で来るか、それを見極めたい」
ジェスベルの戦法は常に正々堂々としている。勇者という肩書きが卑怯な手段を使うことを最初から排除しているのだ。ジェスベルの言葉に三人は頷く。
「俺はアインベルクは正面から来るような奴じゃないと思うぜ」
「私も後ろから来る卑怯な奴だと思うわ」
「確かに、『死をもてあそぶ』なんて真似は卑怯な奴だろうな」
三人とも、よく知らないはずのアレンの事を蔑む言葉を口々に発する。もし、アレンがこの会話を聞いていれば、冷たい笑みを浮かべることだろう。
「じゃあ、さっさと行こうぜ。あのガキを地べたに這いつくばらせてやる」
「あんまり虐めんなよ。いくらアインベルクって言ってもまだ17~8の子どもだ」
カルスの軽口にジェスベルが応じる。やはり、どこまでもアレンを見下しているようだ。
だが、彼らは知らなかったのだ。
アレンティス=アインベルクという男の実力を・・・
そして、何より敵に対する容赦の無さを・・・
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爆発音を聞き、アレンとレミアは顔を見合わせる。
そして同時に首を捻った。
「なぁ、レミア、どんな意図だと思う?」
アレンの問う事をレミアは正確に把握していた。なぜ、自分達をつけていた者達がここに来てこんな目立つ事を始めたのかと言うことだ。
墓地に入り、すぐさまアレン達は追跡者を撒くために走り出した。それは実際に上手くいき、追跡者を撒くことに成功した。当然、ここからは気配を探り合い、お互いに先手をとるために裏をかこうとする情報戦のような戦いになると思っていたのだ。
アレン達なら追跡対象者が撒こうと行動すれば、即座に自分達も気配を完全に絶つ。そしてアンデットを使役し相手を弱らせてから直接行動に移すだろう。
アンデットを使役する術を持たないにしても少なくとも爆発音を発生させ自分達は『ここに居ますよ』などと存在をアピールすることは決してない。
そのため、追跡者の行動の意図が読めなかったのだ。
「う~ん・・・私達をおびき寄せてから罠に嵌める?」
「その罠の内容は?」
「伏兵かな。相手は気配を絶ってたわけだし、まさか数までバレてると思ってないだろうから、一人が隠れて狙撃といった感じかな?」
「・・・だよな。普通に考えればそうなるよな」
「うん」
「一応、俺は4人しか気配を感じてなかったんだが、レミアはどうだ?」
「私も4人分しか気配を感じてない・・・」
「他にもいるかも知れないからな。気を付けていこう」
「ええ・・・四人もかなりの手練れなんでしょうけど、それ以上の手練れが以内とも限らないから、警戒は怠らないようにしましょう」
二人は、気配も絶たずに墓地を廻る四人に見つからないように、いつでも不意をつけるように移動を開始する。
まっすぐにこちらに向かっていないために、アレン達を見失った可能性が高いと考えていたが、それも罠かもしれないのでアレン達は注意深くならざるをえなかった。
「あのさ、レミア」
アレンが歩きながらレミアに声をかける。たった今、思いついたことに対してどう思うか聞いてみたくなったのだ。
「なに?」
「あいつらは俺達の位置を把握してないよな?」
「うん、演技の可能性もあるけど、私達を見失った可能性の方が高いと思う」
「ならさ・・・」
アレンが黒い笑顔を浮かべて言う。
「このまま帰ってさ。見回りを奴らに押しつけようか?」
どうせ、相手は自分達を探して墓地を歩き回り、アンデットと遭遇すればご丁寧に駆除してくれる。これは別の見方をすれば、いつもアレン達がやっている墓地の見回りと一緒だったのだ。
「・・・ありね」
「だろ?」
「でも、アレンさすがに家にまで帰るのはやりすぎじゃない?職務放棄と言われても仕方ないわ」
「う~ん、それを言われると痛いな・・・」
「せめて、出入り口付近で四人が出てくるまでまったりしておきましょう」
「そうだな、それなら別に職務放棄とは言われないな」
とりあえず職務放棄と呼ばれることはないかもしれないが、それは立派な職務怠慢だ。その事にアレンもレミアも気付いていたが、お互いに気付かないふりをする。
「じゃあ、ちょっとだけ仕込みを入れるとするか」
「仕込み?」
「ああ、ちょっとあいつらにちょっかいを入れる」
「具体的には?」
「物陰からナイフの投擲」
「なるほど・・・」
物陰から攻撃を加えられれば、四人はこれはそういう勝負であると思い、用心深くアレン達を探し隅々まで探すだろう。そしてそれは大変時間のかかる行為だ。墓地を見回る時間がそれだけ長ければ長いほどアンデットに遭遇する可能性は格段に上がる。
もちろん、相手が気配を絶ち闇に紛れる可能性もあるが、それはそれで対処しておけば良い。
「それじゃあ、対応は決まったということで行こうか」
「うん」
アレンとレミアは四人を物陰から攻撃するために気配を絶ち近づくことにする。
幸いというか何というか、相手は気配を絶つなど考えてもいないみたいなので、簡単に見つかるだろう。
勇者一行は、本人達も知らぬ間にアレン達の臨時助手となってしまったのだ。
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少しずつですが、誤字、脱字を直していってますが、もう少し時間が掛かりますのでご了承ください。




