茶会①
今回はちょっと短いです。
アレンがアディラに通された場所は、前回と同じ王族用のサロンである。
「アレンお兄ちゃん、座って~♪」
アディラのすすめに従い、サロンにある一つの席にアレンとアディラは向かい合って座る。
アディラの後ろにはメリッサとエレナの二人のメイドが控える。その立ち居振る舞いからアディラの護衛も兼ねている事をアレンは察している。
「アディラ、今日はのんびりとお茶を楽しもうか」
アレンの返答にアディラの笑顔の幸せ度が増す。誰が見てもアディラの幸せが見て取れるようだ。
「はい♪」
もちろん、アディラはアレンとお茶を楽しむつもりであったが、それ以上に目的があったのだ。その目的は以前、フィアーネ達と決めたアレンの胃袋を掴む作戦に出ることだった。
今日、アレンが出仕し、報告をあげる事を早い段階で知ったアディラは、早速行動を開始した。父親のジュラスに謁見まで時間をかせぐように頼んだのだ。
そしてその間に、アレンのために一生懸命、練習したクッキーの製作に入る。城の料理人達はアディラにクッキーの作り方を親切丁寧に教え、今回のクッキー製作の監修を行ったのだ。
出来上がったクッキーは素晴らしい出来だった。上品な甘さとさっくりとした食感はお茶うけに最適だった。
アレンとアディラの前に紅茶とクッキーが準備される。
アレンは紅茶を一口飲むとアディラに語りかける。
「アディラは年が明けてすぐに入学するけど、準備は忙しくないか?」
「う~ん、一応みんなが手伝ってくれるから私自身はほとんど関わってないの」
「まぁ王女だからな、自分で何もかもやってしまったら使用人の方々の立場がないしな」
「うん、分かってる」
アレンとアディラはそれから他愛のない話を続ける。アディラは少しでも早く、アディラ作のクッキーを食べてもらいたかったが、もし手作りであることを先に知ってしまえばアレンのことだ。絶対に『おいしい』と言ってくれるだろう。それはそれで嬉しいが、やはり、頑張った身としては素直な感想を聞きたいものである。
そして、アレンがついにアディラのクッキーを一つ手に取り口に含む。アディラはその様子をじっと見つめる。
アレンは、クッキーを口に含んだときに、わずかに『ほぅ』という顔をして、小さく頷いた。
アディラはその様子を見て、クッキーの成功を確信した。
「アレンお兄ちゃん、そのクッキーどう?」
「これ、美味しいな。どこの店で買った?それとも王宮の料理人が作ったの?」
予想以上の高評価である。まぁ城の料理人達が監修しているのでまったく関係はないというわけではないのだが、それでもアレンに褒められ、アディラの心には幸せしかなかった。
「えへへ~実はこのクッキー・・・作ったのは私なの♪」
「え!?そうなの?アディラ・・・いつの間にこんなクッキーを作れるようになったの?」
「えへへ、アレンお兄ちゃんに食べてもらいたくて一生懸命、練習したんだ♪」
アディラの言葉にアレンはさすがに気恥ずかしくなる。ここまで純粋に好意を向けてくれるアディラを意識しないはずがなかった。
それと同時に先日のアルフィスとの会話を思い出す。アディラがフィアーネ達三人と共にアレンの妻となろうとしていると言う話だ。
その考えに思い至ったが、口に出すのはさすがに躊躇われ、素直にアディラのクッキーを褒めることにする。
「へぇ~アディラが俺のために作ってくれたんだ。正直、嬉しいな」
アレンの言葉にアディラはうつむく。そして、プルプルと震えている。その様子を見てアレンはアディラの機嫌を損ねる事を言ったのかと心配になり、アディラに戸惑いがちに声をかけた。
「お、おいアディラどうした?」
その言葉を聞いた時に、ガバッ!!と突然頭をアディラは上げる。その勢いにアレンはちょっと腰が引けてしまった。
顔を上げたアディラの顔は、それはもう蕩けきってる。
「ぐへへ~お兄ちゃんが嬉しいって・・・ぐへへ」
どうやら蕩けきったのはアディラの理性だったらしい。エロ親父のような笑い声が王女としての威厳もなにも消しとばしている。
実に残念な美少女がここにいた。
「お、おい、アディラ」
「ぐへへ~これはもう口吻しても許されるわよね?ぐへへ」
エロ親父化したアディラは妄想を垂れ流しにしている。これ以上の妄想垂れ流しはアディラの社会的地位を著しく下げるため、正気に戻そうと声をかけようとしたところ、別の人物の声がアディラにかけられる。
「なんちゅう声を出してるんだ・・・アディラ」
アレンが振り返るとそこには、ローエンシア王国の王太子アルフィスとその婚約者のクリスティナが完全に引きつった笑顔を向けている。
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