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魔族Ⅱ⑨

 結果として、アレン達の完勝だった。


 アレン達は、さらに『隠し陣』の罠を引いていたし、形勢が悪くなれば撤退するための『空間転移』の用意もしていたが、それらを使うことは無かった。



 ネシュア達は結果的にアレン達を侮っており、前回と違う点はゼリアスを加えただけであった。

 この危機意識の無さにアレンは苦笑する。前回、いくら『不意をつかれた』『卑怯な手を使われた』などと考えたにしても、何のひねりも無い行動にアレンが呆れるのもしょうがなかった。

 結局の所、アレンとネシュアの戦いは始まる前から勝敗は決していたのだ。アレンはネシュアが現れてからの『卑怯者共め』という言葉ですでに勝利を確信していたのだ。無論、他の三人も危機感を抱かなかった。


 ゼリアスを加えただけといっても、実の所、ネシュア達は万全の用意をしてきたつもりだったのだが、その事をアレン達は気付いていない。


「それにしても、魔族と言ってもバカだと勝てないのね」


 フィアーネが容赦なくネシュアを評する。まったく同感だ。


「バカなのに学ばないのに勝てるわけ無いわ」


 レミアの評も容赦ない。まったくその通りだ。


「ネシュア程度が魔族の水準というのならまったく脅威ではありませんね。さすがにそうではないと思いたいのですが・・・」


 フィリシアの言葉の刃は鋭い。完全に同意だ。


「いずれにせよ、ネシュア達は斃したし、後片付けをして帰るとするか」


 アレンの言葉に三人は頷く。


「おい!!お前ら!!」


 アレンは男達を大声で呼ぶ。名前を知らないの(正確には知るつもりが一切無いので)で、常に代名詞で呼ぶのだ。

 アレンに呼ばれるまで、生き残った男達は呆然と座り込んでいた。アレンに呼ばれ『ビクッ!!』と体を震わせ、アレンの下へ急いで走ってくる。


 アレンは男達が近づくとフィアーネ達には絶対使わないような冷たすぎる声で命令する。


「お前らはここにある死体をすべて片付けろ。墓地の入り口にシャベルがあるから持ってきて埋めておけ」

「これ全部をですか・・・」


 男の一人がアレンにおずおずと聞いてくる。もはやアレンに対して恐怖しか感じないのだろう。


「お前ら如きがこの数を埋めれるだけの穴を掘れるわけ無いだろうが」

「え?」

「この死体達は自分で墓穴を掘ってもらう。お前らはそれを埋めるそれだけだ。それぐらいならお前らでも出来るだろ」


 アレンの言い分に男達に対する一切の情はない。ひたすら嫌悪感しか感じていない声だ。


「さっさと行け!!」


 アレンの声に弾かれたように男達は走り出す。シャベルを一刻も早く持ってこなければならないのだ。

 男達が走り去ってから、アレンは三人に向き合う。


「フィアーネはヘルケンの記録を回収しておいてくれ」

「うん」

「レミアとフィリシアは魔族達の持ち物をチェックしてくれ、武器、防具、道具などのものを特に念入りに、魔族に対する情報は貴重だからな。技術レベル、設計思想などが分かるからな」

「分かったわ」

「分かりました」

「俺はゼリアスを調べる」


 アレン達は後片付けに入った。それほど、数は多くないので、すぐに回収は終わる。


「回収はもう終わり?」

「記録は回収終わったわよ」

「魔族の装備も終わったわよ」

「私も終わりました。これで取りこぼしはないと思います」

「俺も終わった」

「あれ?アレンはゼリアスの鎧を持って帰るんじゃないの?」

「いや、俺が知りたいのは、鎧の材質と剣の材質だったから鎧は一部あれば用足りる。剣の方は鍛冶屋さんに見せて、このサイズの大剣が製作可能かを確認するだけだ」

「なるほど」

「じゃあ、最後の後片付けをしとくか」


 アレンはそう言うと、墓地に漂う瘴気を集める。拳大の球体からスイカほどの大きさになり、巨大な瘴気の塊が形成される。

 瘴気に塊は触手のように伸び、死体を覆うとデスナイトに変貌する。デスナイトとなった死体達にアレンが墓穴を掘るように命じ、最後に自分たちも入るように命じた。


 デスナイトの数は6体、死体の数から相当な穴を掘らねばならないだろうが、デスナイト6体ならばそれほど時間はかからないだろう。

 デスナイトが穴を掘り始めてから、しばらくして男達が戻ってくる。


 デスナイトが穴を掘っているのを見て、明らかに『ギョッ』とした表情を浮かべる。そこにアレンの冷たい声が響く


「お前達はすべての作業が終わったら屋敷に戻ってこい。戻ったらその辺で寝てろ」


 アレンはそう命じると男達に目もくれず、帰宅のために歩き出す。それにフィアーネ、レミア、フィリシアが続く。


 とりあえず、アレン達の今夜の仕事はすべて終わったのだ。





-----------------


「ボールギント子爵が行方不明だと?」


 声を出したのは、魔族が統治するベルゼイン帝国の第二皇子のアシュレイである。


 アシュレイは銀髪に彫りの深い容貌をしている。鍛え抜かれた体躯は、歴戦の戦士を思わせる骨太の体格だ。

 事実、アシュレイは軍に所属し、ベルゼイン帝国がガーンスヴァルク大陸(アレン達は暗黒大陸と呼ぶ)を統一するときに前線で戦った剛の者である。


 鋭い双眸が報告に来た魔族に突き刺さり、魔族は恐怖のため背中に冷たい汗を滝のように流している。


「は・・・四日前から姿を見ておりません」


 アシュレイは『そうか』と一言いい、報告に来た魔族を下がらせる。


 アシュレイの執務室には、現在二体の魔族がいる。一体目は勿論、この執務室の主であるアシュレイ、そしてもう一体はアシュレイの従者にして、護衛を兼ねるエシュゴルである。


「どう思う?エシュゴル」

「は・・・おそらくボールギント子爵は、もはやこの世にはおりますまい」

「根拠は?」

「ボールギント子爵が魔剣士ゼリアスを雇ったという情報はアシュレイ様もご存じかと」

「うむ」

「魔剣士を雇うということは戦闘しかも相手はただならぬ相手と言えます」

「うむ」

「その魔剣士を伴って戦いに赴き、未だ帰らぬと言うことは・・・」

「敗れたと言うわけか」

「御意・・・」


 アシュレイの考えもエシュゴルと同様だった。ネシュアは自分の派閥に属する貴族であった。勿論、それなりに遇していたが、それほど能力を高く評価していたわけでは無い。だが、魔剣士を伴って敗れるほど戦闘能力がひくいと思ってはいなかった。

 エシュゴルの言ったように『ただならぬ相手』と見るのが自然だろう。


 困ったことに、ネシュアは誰と戦うかという事を一切知らせていない。相手を知るのは少しばかり時間がかかりそうだった。


「アシュレイ様・・・」

「なんだ?」

「ひょっとしたら、ボールギント子爵の相手は人間かもしれません」

「人間だと?」

「はい、ボールギント子爵は人間相手に戦うのに魔剣士を雇い入れたのを恥と思い、誰にも知らせなかったのかもしれません」

「・・・」

「魔剣士を雇い入れ人間と戦うということは、ボールギント子爵はその人間に一度敗れたのかもしれません」

「・・・エシュゴル」

「はっ」

「お前は爵位を持つ魔族と魔剣士が人間に敗れたというのか?」

「自分でも愚かな考えである事は自覚しておりますが、その可能性もあるかと」

「ふむ・・・確かに人間全てが弱者であるとは限らんな」

「御意」

「いずれにせよボールギントの行方を捜し、破れたというのならその相手を探さねばならんな」

「はっ」

「その件、お前に任せるぞ」

「御意」


 アシュレイはエシュゴルにそう告げると、執務に戻る。だが、エシュゴルの『人間』という言葉が妙に気になった。


2016年7月23日に60000PV突破しました。読んでくれてありがとうございます。


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