魔族Ⅱ⑦
ネシュアは地面に倒れ伏している。いかに魔族といえども体を数本の剣で貫かれれば致命傷となってもおかしくない。
ネシュアが倒れ込むと、周囲のデスナイト達を構成する瘴気が舞い散る。瘴気が舞い散った後に依り代となった男達も役目を終えたとばかりに倒れ込む。未だにデスナイトになっていなかった(絶命していなかった)男達は、自分たちを縛る力の消失を感じ、その場にへたり込んだ。
生き残った男達は3人である。
「ぐ・・・がはぁ・・・」
ネシュアの口から血と苦しげな声が吐き出される。
「それでは、回収しときましょうか」
フィリシアは、倒れたネシュアのもとにかけより、記録の回収をフィアーネに要求する。
すでに、魔物達を斃していたフィアーネとレミアは倒れ込むネシュアの元に来る。
(回収?・・・なにを?)
ネシュアはもはや声を出すことも出来ない。だが、魔族の生命力の高さのために未だに意識があったのだ。
フィアーネは右手をかざすと魔法陣を展開させる。ネシュアの頭から漏れ出た靄のようなものはフィアーネの掌にあつまり球体に変化していく。やがて拳大の球体に変化し、黒い光を放つオーブになる。
(な・・・なんだ?)
ネシュアの困惑にフィアーネが答える。
「前回の戦いで、あなたに記録の術式を仕込んでいたのよ。それから現在まであなたが見聞きしたものがこのオーブには記録されているというわけ」
「な・・・なんだと・・・」
フィアーネの言葉にネシュアは声を絞り出す。
「あなたをあの時、殺さなかったのはあなた自身で情報を運んできて欲しかったのよ」
フィアーネの言葉はネシュアに衝撃を与える。まさか自分が人間に利用され、あまつさえ情報を与えることになるとは・・・。
ネシュアにとってもはや屈辱などと言う言葉でも生ぬるかった。
こいつらに反撃がしたいのに・・・体が動かない
こいつらを魔術で焼き殺したいのに・・・魔力がない
こいつら・・・を・・・
ネシュアの目から光が消える。ネシュアは絶望を抱えて死後の扉を開けたようだ。一つの戦いが終わり、アレンがゼリアスに向け冷たい光を放つ。
「さて、お前の雇い主は死んだぞ?まだやるか?」
アレンにとって、ゼリアスはネシュアに雇われただけの存在であり、ネシュアが死んだ今、戦う必要はないと思っての言葉である。
「ふん、確かに子爵は死んだが、お前と俺との勝負はまだ終わっていない。勿論このまま続けるさ」
「そうか・・・まぁしょうがない」
「別に一対一でも無くて良いのだぞ?そちらの3人も入ってもらって構わん」
このような言い方をされれば、普通、一対一と言い出しそうなものであるが、アレンはあっさりとこの申出を受ける。もとより一対一でやるつもりなど無かったのだ。なぜならこれは元々、アレン一行とネシュア一行の団体戦というべきものであり、最後の一人になったからと言って一対一でやる必要は全くなかったからだ。
しかも、ゼリアスからいいだしたのである。
「そうか、そりゃ助かる。フィアーネ、レミア、フィリシア、一緒に戦うとするぞ」
アレンの呼びかけに三人は快く応じる。
フィアーネは空間魔術で自宅の宝物庫に、ネシュアの記録を投げ込むとアレンの側に来る。
「さて、アレン一応聞くけど作戦は?」
「ない。このまま力業でいく」
「シンプルだけどそれが一番手っ取り早いわね」
「では、アレンさん。今夜、最後の相手ですからがんばりましょう」
アレン達は言い終わると同時にゼリアスに攻撃を開始する。
アレンが5体の闇姫を突入させる。5体の闇姫達は思い思いの方向に散っていく。それぞれの手に拳大の瘴気の塊を発生させ、ゼリアスに放つ。
計10発の瘴気弾がゼリアスに向かってくる。しかもその瘴気弾は、着弾箇所、タイミングが微妙にずらされており、すべて躱すには大きく動く必要がある。
ゼリアスはすべて躱すことは不可能では無かったが大きな隙が出来る事を嫌い、大剣で打ち落とすことにする。当然、隙が生じることになるが、仕方の無いことだった。
シュパ!!ザシュ!!
ゼリアスは剣を最小限度にふり、瘴気弾をすべて打ち落とす。
わずかな隙ではあるが、アレンはゼリアスに間合いを詰め、剣を振り下ろす。アレンの剣をゼリアスは受け止めたが、フィアーネの拳撃がすかさず襲い、反撃は出来なかった。
大剣がフィアーネに振り下ろされるため掲げられたが、フィアーネのとった選択はゼリアスの懐に飛び込むことである。懐に飛び込んだフィアーネの拳が鎧に覆われた腹部に決まる。
ゴギャァァァァ!!
凄まじい音が周囲に響く。鎧のためにかなり打撃は減殺されたが、完全に防ぐことは出来なかった。
ゼリアスの鎧は『魔鉄』『黒鉛』『ミスリル』の合金で出来ており、この鎧に守られている限り、ゼリアスの安全は保証されたも同然だったのだ。
が・・・
その自慢の鎧はフィアーネの拳により大きなヒビをが入っていた。
ゼリアスがアレン達に恐怖を感じたのはこの時である。ようするにゼリアスは所詮、人間の繰り出す攻撃が自分の鎧を貫くことなど出来ないとアレン達を舐めていたのだ。だが、それが誤りであったことを悟ったのだ。
フィアーネが右から回り込む。そして容赦ない剣撃をゼリアスに見舞う。フィリシアの剣は鎧の継ぎ目を正確に狙い、ゼリアスを消耗させる。
レミアも攻撃に参加し、ゼリアスの首を直接狙ってくる。その斬撃の鋭さにかろうじてゼリアスは躱すことが出来た。
アレンもフィアーネも参加し、ゼリアスは防戦一方になっていく。
四方八方から繰り出される攻撃をすべて防ぐことはゼリアスであっても不可能であった。実際にアレン達の剣は鎧に何度も振り下ろされており、鎧には切り傷が数秒ごとに増えていく。
本来であれば傷をつけることすらできないはずの鎧なのに、アレン達の剣は傷をつけていく。
そのくせ、ゼリアスが大剣を振り回すと、アレン達はあっさりと距離をとる。そしてそこに、容赦ない闇姫達の瘴気弾が降り注いだ。しかも、闇姫達の瘴気弾は最初のものとは比べものにならないほど巨大だった。アレン達が攻撃している間に瘴気をため込んでいたのだ。
そして、闇姫の攻撃が終わると再びアレン達が間合いを詰め、四方八方から攻撃を加える。
じりじりとゼリアスは追い詰められていく。
いや、もはや詰んだといっても良かった。
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