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魔族Ⅱ⑥

『バカが釣れた』


 これが人質をとったネシュアに対するアレン達の正直な感想だった。アレン達にとってこの男達は身の程知らずにも、アレン達を殺そうと襲ってきて、返り討ちにあった連中だ。アレン達にとって、人間にカテゴライズされることは決して無い生物だった。


 実際、アレンはこの男達を許していなかった。いかに慈悲を乞う目を見せても、アレンの心にまったく届かなかった。


 襲撃の日にアレン達に向けた嘲り、尊厳を踏みにじろうとする卑しさにアレンの嫌悪感は高まった。そのやりとりだけで、こいつらが被害者に対しどのような行動に出ていたかが判りそうなものだった。



 そんなクズの代名詞とも言えるような男達に、アレンは、いやアレン達に一切の情は無かった。本当に死んでくれたら清々するといった感じだったのだ。


 そんな男達のケガを治癒魔術によって癒やしたり、魔法陣に囚われようとしたのを助けたのは、『利用』するためであった。

 すなわち、ネシュア達にこいつらは人質として有効ですよと思い込ませるためである。


 アレン達にとってネシュアは大した脅威では無い。普通に戦えば完勝することも難しくない。そのために、男達を使う必要などそもそもなかったのだが、どうせならより屈辱を与えるために男達を使うことにしたのだ。


「どうした?こいつがどうなってもいいのか?」


 ネシュアは一人悦に入り、男の首に剣を当てている。


(どうなっても良いに決まってんだろ)


 アレンは、笑いを必死に堪える。ネシュアが一人悦に入っている様子はひたすら滑稽だったが、もう少し、この茶番に乗ってやることにする。


 先程まで戦っていたフィリシアも、魔物と対峙しているフィアーネもレミアも笑いをこらえているようだ。おそらくアレンがどんな演劇を見せるつもりなのか楽しみなのだろう。


「貴様!!人質をとるなど恥ずかしくないのか!!」


 アレンは笑いを堪えるが、ネシュアへの弾劾はとりあえず違和感なく行えた。


 アレンの演技にすかさず、未来の嫁達(自称)が、援護射撃を行う。『夫婦は助け合いうべし』という信念のもと三人は行動したのだ。


「そうよ!!爵位を持っている貴族のくせに恥ずかしくないの!!」

「なんて汚い奴!!ゲス中のゲスね!!」

「なんて無様なんでしょう」


 アレン達の弾劾を受け、ネシュアは嗤う。自分が優位に立っておりこの場を支配しているという思い込みがネシュアの顔に醜悪な笑顔を浮かべさせたのだ。


(もういいかな?十分に得意にさせたし、あとは落として屈辱にまみえさせるとするか)


 アレンは、そう決めると、ゼリアスとの勝負を再開することにする。


「さて、茶番はここまでにして魔剣士殿、続きをしようか」


 アレンは瘴気を集め出す。アレンの周囲に集まった瘴気は拳大の球体となり核となる。形成された核に瘴気がさらに纏わり付き形をかえていく。その数は五個

 わずか数秒で、成年女性と同程度の身長になる。瘴気によって形成されたそれは女性であった。

 その女性達はは、背中に妖精の羽をはやし、その肌は瘴気によるどす黒い色をしている。女性達の顔かたちは美しく、スタイルも抜群で一糸まとわぬ姿をしているが、その姿を見ても劣情よりも禍々しさを感じる。


「なんだ?それは?」


 ゼリアスがアレンに問う。


「ああ、俺の創作した瘴気を材料にした彫刻のようなものだ」

「彫刻だと?」

「ああ、『闇姫』と名前をつけている」

「闇姫・・・」

「彫刻といっても当然だが、動かないわけじゃ無いぞ」


 アレンの声に応えるように五体の闇姫達は動き出す。闇の美姫達を従えるアレンは、どちらかというと魔王のようである。

 ゼリアスは大剣を正面に構え、闇姫達の攻撃に備える。


 そこにネシュアが喚き散らす。


「貴様!!抵抗すればこいつがどうなるか分かっているのか!!」


 男達もアレンを非難するような目でみる。アレンはその目を見て、『もういいか』と術式を展開する。


(な・・・なんだ!!)

(え?足が勝手に・・・)

(ひ!!まさか!!)

(口が動かない!!)


 男達は自身の身に起こった事の意味が分からず困惑する。自分の体の自由がまったくきかず、意思とは無関係な動きをしているのだ。その動きとは剣、盾を構え、ネシュアに近づいているのだ。


 ネシュアはそれに気付いた。


 そこにアレンの冷たい声が響く。


「やれ」


 その声を聞いた瞬間に男達は、一斉に動き出す。


 ネシュアは人質の男の喉を一気に切り裂く。同時に男を離す。喉を切り裂いた以上、男は倒れ込むと思っていたのだが、男は倒れない。それどころかネシュアに掴みかかる。

 一瞬の驚愕だったが、所詮は人間の力だ。あっさりと引き離した。

 

 と思ったが、すぐに喉を切り裂かれた男は再びネシュアに掴みかかる。他の男達もネシュアに殺到した。ネシュアは慌てること無く男達を始末するつもりだった。


 だが、喉を切り裂かれた男を瘴気が覆い、デスナイトに変貌すると冷静さを失った。ネシュアにとってデスナイトは警戒に値しないアンデットだ。問題は『誰』がこいつをアンデットにしたかと言うことである。


 自分では無い、ゼリアスでもない、ゼリアスが呼び出した魔物達でもない。ということは答えは・・・


 この人間達の誰か!!


 この考えに至ったときに、ネシュアは完全に理解した。


 アレン達に遊ばれていたことを!!


 得意気に優位に立ったとアレン達を見下した己の滑稽さを!!



 ネシュアのその考えは完全に正しかった。アレン達は人質にもならないような駒を人質に脅すネシュアをとことん蔑んでいたのだ。


 一方で、男達も自分たちが思い違いをしていたことをこの段階で理解した。アレン達は自分たちを部下としてなんか見ていなかったのだ。


 これについては男達が勘違いしたとしても仕方の無い言い方をアレンがしたのが原因の一つなのだが、アレンにしてみれば『欺されてんじゃねえよ』という気持ちだった。


 確かに、今まで命乞いをする者に『助ける』と言って刺し殺した事もある男達に対して因果応報と考えれば何も文句は言えない。



 ネシュアの剣が一人の男のカイトシールドを突き刺し、男の眼球を突き刺し、後頭部から突き抜ける。ピクッピクと数度痙攣し力が抜ける。ネシュアは剣を男の頭から引き抜いたが、男は倒れない。


 そして、数度痙攣すると絶命した男は、瘴気を覆われ、新たなデスナイトが誕生する。デスナイトとなった男は再びネシュアに剣を振り下ろす。


 男達はその様子を見て、声にならない叫びを上げる。


(いやだぁぁぁぁ!!)

(死んだらアンデットになるのか!!)

(死んでまで・・・使われるのか!!)

(あ・・・悪魔!!あいつは悪魔だ!!)


 自分たちは死ぬまで、いや死んでからも使い潰されると思うと、男達に耐えることは出来ない。


 アレンは死んだ者に瘴気を覆わせアンデットにして使役することが出来る。そしてこれがアレンが一人で国軍を相手取ることが出来る理由だ。アレンの実力は確かに超人といっても過言では無いだろう。だが、いくらなんでも一人で国軍を相手にすることは出来ない。だが、アンデットとして使役する死霊術を使えば、斃した相手をアンデットにして、自分側に取り込んでしまえば良いのだ。

 そうすればネズミ算式に自軍を増やす事が出来る。結果として国軍を壊滅させることも十分に可能なのだ。


 もちろん、アレンが死者を冒涜するような術を誰かれかまわず使用することはない。アレンがアンデットとして使役するのは自分を殺そうとするものであり、しかも卑劣な相手に限られる。

 そういった意味では男達はアレンにとってうってつけの駒だったのだ。



 ネシュアは怒りに燃え、男達を殺戮に走る。一人の喉を切り裂き、絶命した男がデスナイトに変貌するとネシュアはそれを斃す。この作業を数回ネシュアは繰り返す。


 次の男が迫り来る中、ネシュアは乱暴に剣を横薙ぎに振るう。胴から両断された男が内蔵を撒き散らしながら倒れ込む、またデスナイトに変貌する。


 しかし、ここで、今までとは違う事が起きる。


 剣を持った腕が何者かに斬り飛ばされたのだ。自分の手が無い事にネシュアは気づき、そして激痛が襲う。


「はぁぁっぁぁぁぁ!!」


 何故だ!!どうして!!とネシュアが焦り周囲を見渡すと、剣を持った斬り飛ばされた腕をフィリシアが踏みつけている。

 ネシュアが男達、デスナイトへの対処に追われ注意を逸らしたときに、フィリシアがネシュアの腕を斬り飛ばしたのだ。


 その事に気付いたとき、ネシュアの怒りはさらに燃え上がる。


「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!一度ならず二度も!!」


 ネシュアがフィリシアを睨みつけ、呪詛の言葉を叫ぶ。フィリシアは明らかに見下した顔をして、ネシュアに向け口を動かす。言葉は発していない。ただ口が動いただけだ。だがネシュアはフィリシアの口から目を外すことは出来なかった。


(なんだ?あの女は何と言ったのだ?)


 ネシュアの意識はそちらに誘導される。しかも腕の痛みのため思考がまとまらない。


 ドス!!ドス!!ドス!!



 次の瞬間、ネシュアの体にデスナイトの剣が五本突き刺さった。腹、胸肩、背中などに容赦なく突き刺さったデスナイトの剣はネシュアの生命力を容赦なく奪っていく。


 デスナイトは剣を引き抜き、ネシュアは糸の切れた人形のように地面に倒れ込んだ。



 フィリシアは小さく笑い。ネシュアに声をかける。


「『よそ見してると危ないですよ』と言ったのに、忠告は耳に届かなかったみたいですね」


 


2016年7月21日に50000PV突破しました。読んでくれてありがとうございます。


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