表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/602

魔族Ⅱ②

 ザウリスをあっさりと斃したアレン達は、近くにいるであろう。ネシュア達を探す必要がある。がその前に、アレン達はネシュアの作戦を考える必要がある。


「さて、ザウリスは斃したんだが・・・」

「なぜ、ここで出てきたかというのが懸案事項というわけでしょう?」


 フィアーネがアレンの考えを正確に捉える。

 フィアーネはいろいろな事について残念な所があるのだが、こと戦いにおいては素晴らしい才能を発揮する。

 相手の弱点は何か?どう動けば相手の裏をかけるか?などの作戦を考えるのはとても得意だったのだ。


「フィアーネの言うとおり、ネシュア一行がすでに墓地にいて気配を絶っているのは確実だ。その有利な状況において、ザウリスがたった一人で俺達に挑んで来た狙いは何か?ということだ」


 そう、わざわざ有利な状況を作り上げておきながら、それを自分で壊すという間抜けすぎる事をネシュアがやった理由だ。わざとらしく攻撃魔法で攻撃し、芝居掛かった風に登場する意味なんて何もないのだ。

 もちろん何かしら目的があったのかもしれないが、その目的を果たすこと無くザウリスは戦力分散の愚をおかして、アレン達に殺されてしまった。


「・・・多分だけど・・・」


 レミアがアレンに告げる。


「ネシュアはそこまで深く考えていないと思うわ。だってあのネシュアってこの前、こちらを見下して油断したところをフィリシアに背後から刺されたマヌケでしょ?」

「まぁ・・・レミアの言うとおりネシュアがマヌケなのはすでに周知なんだけど、問題はマヌケだからって何も作戦を考えていないとは言えないよな」

「確かに、アレンさんの言うとおり、あのネシュアって魔族のマヌケさは呆れるレベルですが、マヌケなりに考えた作戦に自信を持っているでしょうから、それを私達が読んで行動すればプライドがズタズタになるんじゃないですか?」


 フィリシアは虫も殺さぬような顔をして、結構酷いことをさらりという。アレン、フィアーネ、レミアはフィリシアがそのように発言する意図を十分に理解しているため、驚かなかったが、回りの男達は明らかに呆けている。何しろ正統派美少女のフィリシアが淡々と毒舌をはく姿は、何かの理想が壊れるには十分だったのだ。


「まぁ、フィリシアの言うとおり、ネシュアのマヌケさはとりあえず置いといて、ザウリスがここに来た理由を考えましょう」


 フィアーネが作戦会議を実りあるものにするために話の本筋を戻しに掛かる。


「俺が思いつく可能性は二つだな。一つは誘いだ。俺達を襲い、すかさず逃げだし俺達を罠にはめるというやつだ」

「まぁ、それでしょうね」

「「確かに」」

「でもう一つは?」

「ああ、ネシュアの思いつき」

「「「それもありそう」」」


 アレン達がネシュアを貶めることを忘れることはない。


「まぁ罠だというのなら別にかまわんよな」

「そうよね」

「そうね」

「そうですね」

「おい、お前ら」


 アレンは男達に視線を移し、目で威圧しながら男達に命令を伝える。その命令自体はとてつもなく単純だった。だが、男達にとっては甚だ困難な命令であった。


 その命令とは「お前ら、俺達の10メートル先を歩け」というものだった。つまり、罠をはっていればこの男達に引き受けさせようという命令だったのだ。その事に気付いた男達は顔を青くする。

 

 かつて男達は、さらった子どもを先に歩かせ罠がはってないか確認させた事がある。その際に何人もの子どもが罠に掛かって死んだが男達の心はまったく痛まなかった。

 だが、自分たちがその役目を担うのはとてつもなく嫌だった。


 アレンは無造作に男達から8人選出し、10メートル先に配置する。選ばれた男達はもはや血の気がまったくなかった。


「お前ら、生まれて初めて人の役に立つぞ。今まで何の役にも立たないどころか迷惑しかかけてないんだから死ぬまでに一度くらい人の役に立てよ」


 アレンの情け容赦ない言葉に心を抉られながら8人の男達が歩き出した。10メートル程の距離を開いて、アレン達が続く。残りの男達はその後ろだ。


「ねぇ、レミア・・・」

「何、フィアーネ・・・」

「直接来るかしら?それともトラップかしら?どちらと思う?」

「う~ん、正直分からないわ。どちらも普通にありえるし」

「私は、罠の方だと思いますよ」

「どうして?」

「先程の悪口に対してあの魔族達から何も行動がないからです」


 先程のアレン達の会話はただ単に意味も無く悪口を言ったわけでは無い。もし、聞いていれば相手の冷静さを崩すことが出来るかもしれないし、あの場で襲ってくくるかもしれなかったからだ。

 しかし、あの場でネシュア達は襲撃してこなかった。ということは、そもそも聞いていなかった場合と聞いていても我慢した場合の2種類が考えられる。我慢する理由は、すでに罠をはっており、自分がこの場で襲撃すればその罠が無意味なものになってしまう可能性があるからだ。


「確かに、フィリシアの言うとおり、あの場で何も行動がなかったと考えると罠があると考えて方がいいわね」

「はい、単純に聞いてなかった可能性もあるけど、聞いていてあえて我慢したと考えていた方が安全です」

「そうね、フィリシアの言うとおり、そのへん用心した方がいいわよね」


 フィアーネ、レミア、フィリシアの話を背後に聞きながら、アレンも一人頷く。


 用心に超したことはないのだ。


 周囲を警戒しながらアレン達はすすむ。前方に配置された男達の顔色はどんどん悪くなっていく。死の恐怖に囚われているのだろう。


 そこに、前方の男達の足下に魔法陣が展開される。半径10メートルほどの巨大な魔法陣だ。

 先発する8人の男達は突然の魔法陣の発動に恐慌状態に陥る。すぐに魔法陣から出ようと走り出すが、それはかなわなかった。


 魔法陣の中から男達を掴む腕により、男達は動けなくなった。どうやらこの腕の力は大の男がふりほどけないところをみるとかなりの拘束力を持っていることが分かる。男達は恐怖に顔を歪ませ、今まで軽んじていた神に救いを求める。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!助けてぇぇぇ!!」

「いやだ!!いやだ!!いやだ!!」

「はなせぇぇぇぇぇ!!」

「もう悪い事はしません!!助けてください!!何でもします!!」

「神様ぁぁぁぁぁ!!許してください!!」


 8人の男達は、次々現れる腕に纏われつかれながら、少しずつ地中に引きずり込まれていく。その事に気づいたときに、恐慌状態はさらに酷くなる。


「助けてください!!お願いしますぅぅぅ!!」

「死にたくない!!死にたくない!!」


 正直な所、男達が今までやってきた事を想像するとまったく同情できない。だが、これは使えると思い、アレンはこの魔法陣を解くことにする。


「フィアーネ!!レミア!!フィリシア!!今からこの魔法陣を破り彼らを救うから、周囲を警戒しておいてくれ!!」


 アレンのこの声に、フィアーネ達は「え?」という顔を一瞬浮かべるが、アレンの声に「しょうがないなぁ~」という顔を浮かべ、周囲に警戒を発した。


 同時にアレンの声に驚きの声を上げたのは、残りの男達である。


 この少年は自分たちを『駒』と言い切り、『使い捨て』にするとも言っていたのだが、自分達を救ってくれるというのだ。「まさか!!」という驚きと「救ってくれる」という安堵が男達の心に生まれる。

 そういえば、この少年達はこの数日間、仲間がケガをしたときに治癒魔術をかけたりしてくれていた。本当は優しい少年なのではないかという思いも男達の中に生まれていた。


 勿論、アレンは敵でない者については損得抜きで助けるという一面を持っている。そして、例え敵でも尊敬できる者はそれ相応の敬意を持って接する。そんな一面は確かにある。だが、この男達に対しては、どちらにも当てはまらない。

 アレンが罠に掛かった男達を助けるのは利益があるからだ。でなければ捨て駒なんぞほっとく。

 それはもう潔いぐらいに。


 だが、男達はそんなアレンの気持ちを推測することはできない。自分たちが救われる価値の無いクズである事を失念していたのだ。絶望の先にある細すぎる希望がアレンの『助ける』という行動が曇らせたといっても良い。


 アレンは、男達が囚われている魔法陣の中心に向かって走り出す。魔法陣の中に入った瞬間からアレンを捕らえようと、手が伸びてくる。アレンはそれを器用に避けながら、時には剣を振るい中心に向かう。


(この術式の解除は、まず中心に剣を突き立て同時に魔力を注ぎ込み、4つの光った地点を破壊すれば解除される・・・だったよな?)


 アレンは記憶の中にある術式の解除方法に従って、まず中心に剣を突き立て、次いで4つの光った地点を破壊した。


 パリン!


 アレンが4つめの地点に剣を突き立てた瞬間、魔法陣は心地よい音とともに砕け散る。


 魔法陣が消えると引きずり込まれそうだった男達が、地面に埋まったままの姿で呆然としていた。

 やがて、自分が助かった事に気付いた男達は、涙を浮かべてアレンを見る。アレンは、罠に掛かっていなかった男達に『掘り出してやれ』とぶっきらぼうに向けて言い放った。その声を聞いた男達は、あわてて罠に掛かった男達にかけより助け出す。


 アレンはその様子を満足そうに眺めている。








 無論、演技であった。


 他の三人もアレンの満足そうな顔が演技であることは十分に理解している。惚れている男が本当に満足している顔か演技かぐらいの事が見抜けない彼女たちでは無かったのだ。ちなみにこの場にいないアディラであっても見抜けないと言うことは考えられない。


 フィアーネ達は、このアレンの演技を見抜いていたが、何のための演技かは分かっていない。だが、それをこの場で尋ねるような事はしない。


 また時間もなかったのだ。



 ネシュア達がアレン達の前に現れたからだ。

 ご都合主義ばんざいといった感じになっていますが、よろしくおつきあいください 



よろしければ、評価の方をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ