表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/602

指導

 執務室に通されたアレンは、緊張の表情を浮かべ、昨夜の事を国王ジュラス=ローエンへと報告する。


 まずは報告文書を提出し、ジュラス王は、アレンからの報告文書を読み始める。


 現国王ジュラス=ローエンは、現在38歳、金髪碧眼の美丈夫であり、22歳で即位して16年、数々の改革に着手し名君としての評価は上限知らずである。この国王のもとで行われた政策は中長期にわたるものが多数あり、効果が出るのに時間がかかったのだが、ここ数年で効果が著しく表れ、大陸屈指の大国へと成長し始めていた。


 アレンにとって、現国王は、主君であるが、それ以上に幼馴染みのお父さんという意識が強い。

 アレンの父である先代アインベルク家の当主ユーノス=アインベルクとジュラス=ローエンは身分を超えた親友であった。もちろんユーノスは、他に人がいる前で国王に対する礼儀を失したことはない。だが、二人の時、もしくは家族等しかいないときは、臣下としてではなく親友として接していた。親友として接するときの両者は、下町の居酒屋で飲んでていても不思議でないような雰囲気で楽しそうであった。

 そんな背景から、アレンはよく父に連れられて王宮に遊びに来ていた。ジュラスには、子どもが二人おり、王太子にて王子のアルフィスと妹のアディラと幼馴染みとなった。


(しかし、俺が国王陛下に報告に来ると、いつも一緒にいるのがすごいメンバーだよな)


 今、国王の執務室にいるのは、ジュラス王と宰相であるエルマイン公爵、軍務卿のレオルディア侯爵である。名実ともにローエンシア王国の最高指導者達だ。宰相も軍務卿も人格的にも能力的にもローエンシア王国を支えるにふさわしい人物である。アレンに対しても理不尽な扱いをすることは決してない。だが、アレンはものすごく居心地が悪い。


 アレンにとって雲の上の人々が一同に介するこの場で、自分の作成した報告文書を読まれるのは、試験の採点を受けている気分になり、居心地が悪いのだ。また、この3人の採点は常に厳しいのだ。少しでも報告文書に矛盾があれば質問攻めにあうのだ。未だ17歳であるアレンにとって、国王への報告は胃が痛くなる出来事である。



 国王から宰相へ、宰相から軍務卿へと報告文書が読まれていく。軍務卿が報告文書を読み終えると、三人の視線がアレンに集まる。採点は終わり指導が始まるようだ。


 まず、口を開いたのは、ジュラス王であった。


「まず、アインベルク卿、今回の君の反省点を述べなさい」


 口調といい、発言内容といい完全に教師のそれである。緊張した口調でアレンがジュラス王の問いに返答する。


「まず、彼女が戦うのを全力で止めるべきでした」


 この返答に対して、重々しい口調で口を開いたのは軍務卿レオルディア侯爵である。


「アインベルク卿それは違うな。フィアーネ嬢の実力を封じ込めるのは正しい方法ではない。なぜなら、相手は魔族とスカルドラゴンだ。普通に考えれば一軍が出動し対処すべき問題なのだ。そんな問題に一人で対処しようというのは得策ではない」


 宰相のエルマイン侯爵も同意とばかりに口を開く。


「レオルディア侯の言うとおりだ。アインベルク卿、それに、君の報告文書からフィアーネ嬢と最初から協力して事にあたろうという意思が見られない。なぜだね?」


 国家の重鎮二人に自分の提示した反省点は、あっさりと落第を付けられてしまった。冷たい汗がアレンの背中を伝う。


「え~その……。今までの経験から彼女が戦闘行為に及ぶと国営墓地に少なからず損害が出るためです」


 冷や汗が、背中だけでなく額からも滝のように流れ出る。

 そこに、目の笑ってない笑顔を浮かべたジュラス王が追い打ちをかける。


「では、その判断に基づいた今回の行動で、今回の国営墓地の損害は過去と比べてどうだね?」

「……過去最高の損害になりました」


 そうなのだ、フィアーネが破壊した結界発生装置は、非常に高価な物であり、前々回に破壊された壁の修理費用をはるかに超えたものであった。

 さらに、ジュラス王は続ける。


「それでは、フィアーネ嬢と最初から協力しようとしなかったアインベルク卿の行動は誤っているとはいえないかな?」

「……はい。陛下のお言葉の通りでございます」


 完全な正論だ。確かにフィアーネを面倒事と思い戦闘に参加させないようにしていたのは、完全に自分の落ち度だ。フィアーネが戦闘に参加する事を見通して、先に注意をして奥ぐらいのことはすべきであったのだ。しかし、フィアーネのまったく人の話を聞かないという性格を知るアレンとしては、反論したくなる。


「……ですが、彼女は私の注意をまったく聞きません」


 反論した後に、アレンは失敗を悟った。不用意な反論は、さらなる正論によりたたきつぶされるのは、経験上、分かっていたのに、その不用意な反論をしてしまったのだ。

 この教師達は、不用意な反論には、とことん正論で返すのだ。


「それを聞かせるのは君の伝え方が未熟だからではないのかね?」

「言うべき事を言わなかったのは君であり、それを責任転嫁するのは正しい行為かね?」

「君は墓地の管理者であり、当地においては最高責任者だ。同行者に対しての義務を怠った以上、君が責任をとるのは当然のことではないのかね?」


 三者三様の言い方だが、要するに「お前が未熟なんだよ」と言ってきている。まさに、その通りなので、返す言葉もない。


 ごっそりと精神力を削られて、アレンの精神的ライフはもはやゼロとなる。


 この後、エルマイン公爵から直々に、報告文書の文章表現の指導を受けた。そのため、アレンの精神的ライフはゼロからマイナスになってしまった。


「それでは、今回の報告はここまでとする」


 ジュラス王のこの一言で、アレンの報告任務は終わった。


「はい、それでは失礼します」


 フラフラとアレンは執務室から退出する。


 精神的ライフが明らかに欠乏した足取りだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ